27日目(土曜日)~side.学級委員長~

 僕の名前は染谷そめやさとる

 2年A組の学級委員長だ。


 今日は公園で鳩に豆をあげている仲の良いおじさんに相談があって来た。

 おじさんはいつものように公園の鳩にエサをあげていた。


「おじさん、こんにちは」

「おう、ぼうずじゃねえか。一週間ぶりだな」

「この前はありがとうございました」

「いいってことよ。で? あれからどうだったい?」


 どうだった? というのは、僕のあかねさんに対する感情が恋だったかどうかということだろう。

 僕は頷きながら答えた。


「はい。この一週間、気になってる子を観察してわかりました。おじさんの言う通り、僕はどうやら恋をしてるみたいです」


 おじさんは近所の世話好きのおばちゃんのように顔をニカッとさせて「ほうら、やっぱりな!」と口に手を当てて笑っていた。


「言った通りじゃねえか。だろ? だろ? やっぱり恋だったろ?」

「はい。恋とわかったら、なんだかすべてが納得しました」

「そいつぁよかったな!」

「僕、あの人の声で罵倒されたいです。あの人の足に踏みつけられたい、あの人の手でビンタされたい。あの人にめちゃくちゃにされたい。これが恋なんですね」

「………」


 おじさんは僕の言葉に「なんかヤベー方向に行っちまったな……」とつぶやいていた。

 ヤベー方向ってなんだろう。


「ま、まあ、そういう恋もあるっちゃ、あるわな」

「それでおじさんに相談があるんです」

「なんだ?」

「これから僕、どうすればいいですか?」

「どうすればって、決まってらあ。その気持ちを相手にぶつけりゃいいんだよ」

「相手に?」

「そうだ」

「どうか僕を罵倒してくださいって?」

「……それはやめとけ」


 なんでだろう。

 僕はあかねさんに思いっきり罵倒してもらいたいのに……。


「まあ一番いいのは手紙で呼び出して二人きりになったところで自分の気持ちを伝えてやることだな」

「手紙ですか?」

「そのほうが呼び出しやすいだろ?」

「なるほど! 手紙で呼び出したあと『どうぞ僕を踏みつけてください』って地面に寝っ転がって待ってるんですね!」

「……それもやめとけ」


 気のせいか、若干おじさんが引いてる。

 なんでだろう。


「……じゃあ、手紙で呼び出して何て言えばいいんですか?」

「単純に『好き』とかでいいんじゃねえか?」

「好き……」


 それであかねさんは僕を罵倒してくれるのだろうか。


「それと『付き合ってください』って言葉も忘れちゃなんねえぞ」

「どうしてですか?」

「『好き』と『付き合ってください』はセットだからな」

「そうなんですか?」

「まあな。好きだから付き合う。付き合うといろんなことができる。それがこの世の常識ってもんだ」

「なんだかマク〇ナルドのハッピーセットみたいですね」

「……うん、盛大に間違ってるぞ。少年」


 好きと付き合ってくださいはセット。

 付き合うといろんなことができる。


 なんとなくわかった気がする。

 付き合ったらきっと色んな言葉で僕を罵倒してくれるに違いない。


「ありがとうございます、おじさん! 今度の月曜日、勇気を出して告白してみようと思います!」

「お、おう。くれぐれも余計な事言うんじゃねえぞ」


 そう言っておじさんは鳩のエサあげを再開した。

 鳩が勢いよく集まってくる。

 瞬く間におじさんの身体は鳩の群れで隠れてしまった。


 その時、僕は悟った。


 そうか、きっとアレがおじさんにとっての恋の形なんだろう。

 鳩に身体中を埋め尽くされる。

 そこに興奮を感じるんだ。


 今までおじさんの気持ちは全然理解できなかったけど、少しだけ理解できた気がした。



~告白されるまであと3日~

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