25日目(木曜日)
「翔平、今日もよろしく頼むよ」
あかねさんが今日も机をくっつけてきた。
転校してきてすでに2週間も経つのにいっこうに教科書が届く気配がない。
いったいいつ来るんだろう。
まあ、別に変なことをするわけでもないし、授業も真面目に聞いてるからいいんだけど。
「翔平、今どこの部分をやってんだい?」
「ここです」
「どこ?」
「ここ」
でも気づくと顔まで至近距離で近づいてて、ドキッとしてしまうこともしばしばあって。
正直、ずっとこの調子が続くと授業どころではなくなってしまうかもしれないとは思っていた。
とはいえ、「教科書見せません」なんて言えるわけもないし。
今日も仕方なく机同士をくっつけて教科書を見せてあげていた。
にしても眠い。
1時間目から「眠りのジゴロウ」と呼ばれる世界史のジゴロウ先生の授業で、クラスの大半が眠りに落ちている。
もうすでにおじいちゃんの域に達しているジゴロウ先生の話し方は、丁寧で穏やかで抑揚がなく、いい意味で(悪い意味で?)子守歌だ。
声を聞いてるだけで眠くなる特殊な技能を持っている。
僕はジゴロウ先生の声を聞きながら必死でシャーペンを走らせていた。
そうしないと眠ってしまうからだ。
寝まい、寝まいと一生懸命目をぱちくりさせていると、不意に何かが肩にコツンと当たった。
「?」
身体はそのままに顔だけを向けると、なんとあかねさんが眠りながら僕の肩に顔を寄せていた。
(ぬおおおおおおおおぉぉぉーーーーッッッ!!!!)
危ない、危ない。
思わず授業中に叫ぶところだった。
あかねさんは僕の肩に顔を寄せているなど気づきもせず、可愛い寝息を立てて爆睡している。
っていうかこの人、寝るんだ。
化け物すぎて睡眠なんて必要ないと思ってたけど。
とはいえ、このまま放置しておくと後で何を言われるかわからない。
眠くなるのはわかるけど早く起こしてあげないと。
僕はちょっと強引に自分の肩をゆすってみた。
あかねさんは一瞬ピクッと反応するも、「くぅ」とまた寝息を立てて寝てしまった。
ああ、くそ!
可愛いなあ!
普段の言動があるから気付かなかったけど、この人こうして見るとだいぶ可愛いぞ。
よこしまな考えが浮かんできそうなので、今度はちょっと強めに肩をゆらした。
「ん……」
「………」
「………」
「………」
「……くぅ」
(ぬおおおおおおおおぉぉぉーーーーッッッ!!!!)
また叫びそうになってしまった。
「ん」って何!? 「ん」って!
色っぽすぎて死ぬかと思った!
「あかねさん……」
にっちもさっちもいかなくなった僕は、小声でボソッとつぶやいて起こすことにした。
「あかねさん」
「………」
「あかねさん」
「………」
全然反応しない。
どんだけ爆睡してるんだろう。
「あ・か・ね・さん」
ちょっと顔を近づけて必死に起こす。
早く起きてくれないと僕の身体がいろいろと化学反応を起こしそうだ。
「あ・か・ね・さーん」
「………」
「あーかーねーさーん」
「………」
ダメだ、らちが明かない。
僕はキスしそうになるくらいまで近づいてあかねさんに声をかけた。
「あかねさん」
瞬間。
あかねさんはぱちりと目を覚ました。
「………」
「………」
「………」
「………」
思わず視線と視線がぶつかり合う。
ヤ、ヤバい……。
この状況、マジでヤバい。
これ、キスしそうになってますよね?
「あ、す、す、すいません……。なかなか起きないもので……」
必死に言い訳を考えていると、あかねさんはワナワナ震えながら顔を真っ赤に染めて「う……あ……あ……」と声にならない声をあげていた。
「い、言い訳させてください。あかねさんが寝てたから必死に起こそうと思って……」
瞬間、あかねさんが叫んだ。
「弥吉いいいぃぃぃッ!!!!」
「「「あだっ!」」」
いきなりあかねさんが立ち上がって叫んだものだから、眠っていたクラスメイト全員が机に頭をぶつけた。
そして当のあかねさんは顔を真っ赤に染めながら叫んだ。
「ほ、ほけ、ほけ、ほけんしつ行ってくるッ!」
そう言うと、ものすごい速さで教室を出て行った。
っていうか、それ、弥吉さんじゃなくてジゴロウ先生に言う言葉だよね。
弥吉さんも弥吉さんで「へい、いってらっしゃい!」って軽く見送ってるし。
「なになに?」
「なにごと?」
「あかねさん、超顔赤かったよ」
ざわつく生徒をよそに、ジゴロウ先生は「えー、この年はコロンブスが……」とマイペースに授業を進めていた。
この先生もすごいな。
そして僕は今日、あかねさんに殺されなければいいなと願うのみだった。
~告白されるまであと5日~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます