23日目(火曜日)
「翔平、今日の放課後、何か予定あるかい?」
あかねさんにそう尋ねられた時、僕は「うわぁ」と思った。
放課後の予定を聞いて来るあかねさん。
もう嫌な予感しかしないんですけど。
「ほ、放課後ですか?」
「ああ。暇かい?」
「ひ、暇といえば暇ですけど……」
ここで「暇ではない」と言いたかったけど、もしバレたらヤバそうなので、正直にそう答えた。
とたんに目をキラキラ輝かせるあかねさん。
「そうかい、暇かい!」
怖い。
何をさせられるのかわからなすぎて怖い。
「じゃあ今日、映画でもどうだい?」
「え、映画ですか?」
映画。
意外な、意外すぎるほど意外な、まっとうなお誘いを受けた。
「そう、映画! 実はねえ、たかえちゃんから映画のチケットを2枚もらったんだよ」
「矢島さんから?」
見ると、矢島さんがあかねさんに親指を立てて「がんばれ!」となぜか口パクで応援していた。
なんだかんだでこの二人、すごく仲が良い。
「で? どうだい?」
「ぼ、僕でいいんですか? 弥吉さんとか……」
いつも二人でいるし。
「ああ。弥吉は放課後、たかえちゃんと本屋さんデートするらしいから来れないんだよ」
「へ?」
見ると弥吉さん、顔を真っ赤にしながら
「この前貸してくれたこの本、面白かったぜコラ」
「面白かったでしょー? じゃあ次はもっと面白いの貸してあげるね!」
「お、おう」
と矢島さんと仲良く(?)しゃべっていた。
え?
あの二人、そんな関係なの?
なにそれ怖い。
いつの間にそんな……。
優等生の矢島さんにガチ不良の弥吉さん。
端から見たら美女と野獣だ。
いや、美少女と猛獣か。
「で? どうだい? 一緒に映画でも」
あかねさんに言われてハッと我に返る。
「え? ええ、それでしたらぜひ……」
まあ映画好きの身としてはタダで映画が見られるからいいのだけど。
でもあかねさんと二人きりというのが怖い。
僕がそう答えると、あかねさんは「いいのかい!? 本当にいいのかい!?」とめっちゃ嬉しそうだった。
矢島さんに親指立てて「やったよ、たかえちゃん!」とか言ってるし。
「じゃあ放課後、よろしくね!」
フンス! と鼻息を荒くするあかねさんが若干怖いと思ったけれど、口には出さなかった。
※
放課後。
駅前だけあって、映画館はかなり混んでいた。
時間が時間というのもある。
多くの学生が館内で作品ポスターを眺めていた。
「あかねさん、どれ観ます?」
ポスターを見ながら尋ねる。
チケットはフリーとなっており、観たい映画が選べる仕様となっていた。
「ふむ。そうだな」
腕を組みながら上映中の作品を吟味するあかねさん。
こうして見ると背も高いし美人なので、これだけで絵になる。
現にまわりの人たちから
「うっわ、あの人めっちゃ綺麗!」
「誰? 女優さん?」
という声が聞こえてきていた。
あ。
あれ、美麗女学院の生徒じゃないか?
才色兼備の集まりと謳われてる噂の女学院。
そこの生徒も映画館に来るんだ。
でも、そんな彼女たちでさえ、あかねさんの凛とたたずむ姿に目を奪われているようだった。
この人が族の総長と知ったらきっと腰を抜かすだろうな。
ふふふ、と心の中で笑っていると、あかねさんは拳を握り締めて「うん、決めた!」と叫んだ。
「翔平、あたいこれが観たい」
あかねさんが指さしたのは、血しぶきが画面いっぱいに飛び散ってそうなスプラッター映画だった。
その名も『極道のはらわた~血まみれヤクザの血みどろ復讐劇~』
……なぜそれを選ぶ。
「極道のはらわた……。想像するだけで血がたぎってくるよ」
たぎらないでください。
怖いです。
案の定、まわりから「え? あの人、あんな映画観るの?」という声が聞こえてくる。
「あ、あかねさん。もうちょっと穏やかなの観ません?」
「穏やか? 映画といったら血しぶきだろう」
なんでだよ。
「ぼ、僕、大画面で血しぶきはちょっと……」
「まあ誘ったのはあたいだしな。いいよ、翔平の好きな映画を観よう」
よし!
とガッツポーズをとったはいいけれど、改めて自分で選ぶとなると緊張する。
もし僕が選んだ映画が退屈なものだったら……。
きっとガチ切れされる。
下手したら殺される。
ヤバい。
「え、えーと……」
僕は上映中の作品を一通り眺めた後、ひとつの映画を指さした。
「こ、これ! これが観たいです!」
その名も『わんにゃんパラダイス』
愛くるしいワンちゃんと猫ちゃんが縦横無尽に駆け回る……だけの映画。
とたんにあかねさんの表情が険しくなる。
ヤバい。
やってしまった感がハンパない。
「……翔平はこれが観たいのかい?」
「は、はい……」
「………」
「………」
「翔平、もう一度聞くよ。……翔平は、これが観たいのかい?」
「い、いえす、あい、あむ……」
あかねさんは「ふう」と息を吐いて「翔平がこれがいいってんならこれでいいさ」と言ってくれた。
よかった、首の皮一枚つながった。
……上映後はどうなってるかわからないけど。
とりあえず券売機でチケットを買って、映画館の中へ。
中には小さいお子様たちがたくさんいた。
大きなスクリーンの前でキャッキャとはしゃいでいる。
「……翔平。もう一度聞くよ。これが観たいのかい?」
目が怖いです、あかねさん。
そして今更です、あかねさん。
「す、すいません。僕、犬とか猫とか大好きなもので……」
「そうかい。まあ翔平が好きならしょうがないねえ」
こうして始まった『わんにゃんパラダイス』。
ワンちゃん猫ちゃんが縦横無尽に駆け回るだけの映画かと思いきや、生き別れになった母犬と母猫を探す子犬と子猫のハートフルストーリーとなっており、可愛さだけでなく心揺さぶる感動巨編となっていた。
「ううう、なんだいこいつぁ。可愛くてたまんねえ上に泣かせる映画じゃねえか」
僕の隣であかねさんが僕の腕をつかみながら涙目で画面に見入っている。
よかった、不安だらけだったけどあかねさんも気に入ってくれたようだ。
これで殺されないで済む。
っていうか、僕はあかねさんのつかんでる手が気になって映画どころじゃないんですけどね!
上映終了後、あかねさんは鼻をすすりながら
「翔平、動物って尊いな。あいつら見てると戦争とか争いなんてバカバカしくなってくるな」
とかなんとか活動家みたいなことを言っていた。
そして上映中、ずっと僕の腕をつかんでいたことに気付くと「あっ!」と言って慌てて手を放した。
気付くの遅。
「わ、わるい」
顔を赤らめるあかねさんを見て、なんか無性に叫びたくなりました。
~告白されるまであと7日~
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