21日目(日曜日)~side.鷲尾あかね~

「ちぇすとおおぉぉぉぉ!」


 金属バットを振りかざして襲い掛かってくるヤローの攻撃を簡単にあしらって、あたいは背を向ける。


 ああ、しょっぱい。しょっぱすぎる。

 翔平と比べたら富士の天然水と海水くらいの差があるよ。



 スーパーでの買い出しの帰り道。

 大事な話があるからと呼び出されて来てみれば、敵対するグループが総出であたいを出迎えてくれた。

 手にはそれぞれ金属バット、角材、チェーンにナイフ。


 まさに不良の武器の見本市。


 エアガンまで持ってくるのはどうかと思うがね。


「鷲尾連合の鷲尾あかね! 今日こそテメエの命日だ」

 とかなんとか笑えるセリフを吐いた族の一人をボコって気絶させたら、一斉に襲い掛かってきた。

 ほんとにしょっぱい連中だよ。

 女一人に対して大の男が大勢でなんて。



 あたいは片っ端から襲い掛かってくる連中をいなしてやった。

 もちろん、本気なんか出すわけがない。

 本気を出したら確実に病院送りにさせちまう。

 加減が難しいんだ、中途半端な不良を相手にするってのは。


「死にさらせぇッ!」


 そう言ってパンパンとエアガンを撃ちまくるどこかのアホ。

 こういう不良にもなり切れない男が一番しょっぱい。

 セリフも三流以下。

 チンピラだって今時「死にさらせ」なんて言わないよ。


 あたいはエアガンから発射されるBB弾をかわしながら、今世紀最大のアホに一発蹴りをかましてあげた。

 もちろん、顔面すれすれの蹴りだ。

 当てたら死んじまうかもしれないからね。

 案の定、アホは「ひいぃっ」と泣きながら逃げて行った。



 けれども猛攻は止まることなく、次々と襲い掛かってくる。

 負ける気はしないけど、うっとうしい。

 正直、早く帰って明日の弁当の下ごしらえをしたいんだ。


 ちょうどその時。


「そこまでだ!」


 族の一人が声を上げた。

 手には大きな袋を持っている。


「あ! あたいのマイバッグ!」


 なんてこったい。

 さっきスーパーで買った食材が入ったマイバッグを族の一人が高々と掲げている。

 玉子が割れないよう地面に置いといたのに。


「へへへ、鷲尾あかね。抵抗するんじゃねえ。抵抗したら、この中の食材をぐちゃぐちゃにしてやるぜ」


 なんてしょっぱい!

 まるで海水に塩をまぶしたみたいなしょっぱい野郎だよ!

 まさかスーパーで買った食材が人質に取られるなんてね。


「知ってるぞぉ、鷲尾あかね」

「なにがだい?」

「おめえ、ここ毎日一人の男のために弁当作ってやってるんだってなあ」

「………」

「転校までして尽くしてるそうじゃねえか」

「………」

「関東圏を束ねる鷲尾連合の女総長が、まさか一人の男にぞっこんとはなぁ」

「………」

「笑っちまうぜ、どんな風にたらしこまれたのか知らねえが……」


 瞬間、あたいの中で何かがキレた。


 勢いよくマイバッグを人質にした男に向かっていき(0.1秒)

 男の額にデコピンをかまし(0.1秒)

 脳天にチョップをくらわし(0.1秒)

 両頬に往復ビンタをかまし(0.1秒)

 その手からマイバッグを取り返し(0.1秒)

 しっぺをくらわし(0.1秒)

 頬をつねり(0.1秒)

 もう一回往復ビンタをかまし(0.1秒)

 頭突きをくらわし(0.1秒)

 最後にアッパーを食らわしてやった(0.1秒)


 その間、約1秒。


 男はあたいの足元に崩れ落ちていった。



 ああ、ちょっと本気出し過ぎちまったかねえ。

 翔平のことを言われると頭に血がのぼっちまうらしい。


「……で? 誰がたらしこまれたって?」


 ギッと残りの集団を睨みつけてやると、さっきまでの威勢の良さはどこへやら。

「ひいいぃーっ」

 と一目散に逃げ出していった。


「ふう、やれやれ。玉子割れてないかね?」


 買った食材を確認しつつ、自宅へと戻った。


 明日はだし巻き玉子を作ってあげるんだ、ルンルン♪



~告白される(する)まであと9日~

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