19日目(金曜日)

「向井翔平! おはようございますですだぜゴルアァッ!」


 今日も元気に登校してきた弥吉さん。

 いつもと違うのは語尾に「です」がついていることだ。

 どういう心境の変化だろう。


 ……。


 まさか英語の「デス」じゃないよね?


「翔平、おはよう」


 続いてあかねさんもやってくる。

 髪型が元に戻ってて少し残念だ。


「ポニテのほうがカワイイのに……」という同級生の発言が聞こえてきて、僕もそこは激しく同意した。


「ふふ、今日も張り切ってお弁当を作ってきたよ。勉強頑張りな」

「はい、ありがとうございます……」


 なんだろう、この愛妻弁当のようなノリ。

 ぶっちゃけ、昼食代が浮いて助かってはいるけど(しかもめっちゃうまいし)。



 そんな時だ。


 今度は弥吉さんがゴソゴソと懐から何かを取り出した。


「お、おう! そこの女!」


 そう言って矢島さんの前に立つと、塩飴の大袋を差し出した。

 クラス中が一気にざわつく。


「え? え? なにあれ?」

「どういうこと?」

「今度は轟沢くんが?」


 ざわつくクラスメートをよそに、弥吉さんは恥ずかしそうに塩飴の大袋を机の上に置く。


「昨日は怖がらせて悪かったぜコラ。これ、お詫びのしるしだぜコラ」


 女の子と話し慣れてないのか、顔を真っ赤に染める弥吉さん。


 な、なんかカワイイ!

 ツッパリリーゼントが照れてる姿、なんかカワイイ!


 ……でもなぜに塩飴?


「熱さで倒れちゃいけねえしな。これでも舐めとけ」

「あ、ありがとう……ございます……?」


 当の矢島さんも困惑の表情。

 そらそうだ。


 すると姐さんが怒ったような表情で叫んだ。


「弥吉ぃッ!」

「へい、姐さん!」

「あたいのダチに対する詫びが塩飴だけかい!?」

「い、いえ!」


 そう言って今度は塩のタブレットを差し出した。


「こいつも持ってけコラ」

「え……? あの……?」

「こっちのほうが噛んで食べれるしな」

「は、はあ……」

「あと、これも。汗拭きシート」

「………」


 どんだけ熱中症対策グッズ渡したいんだよ、弥吉さん。

 っていうか、今必要なのは汗だらだらな弥吉さんのほうだと思うんだけど。


 ちなみに今は11月だ。


「あ、ありがと……」


 矢島さんはそう言って弥吉さんから塩飴と塩タブレットと汗拭きシートを受け取った。

 弥吉さんは嬉しそうに姐さんに顔を向けて親指を立てた。


 姐さんは「フッ」と笑いながら

「グッジョブだよ、弥吉」

 と言っていた。


 グッジョブどころか、若干引いてますが……。

 まあ、弥吉さんがいいなら良しとしよう。



~告白されるまであと11日~

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