18日目(木曜日)

「わ、鷲尾さん……。ちょっとお願いがあるんですけど」


 昼休み。

 先日、あかねさんの前に堂々と立ちふさがったあの矢島さんが、おどおどしながら声をかけてきた。


 当然(と言ってはなんだけど)、弥吉さんが声を荒げた。


「んだてめえは! どこの組のモンだ、ゴルアァッ!」

「ひいぃっ!」


 どこの組のモンって、同じクラスでしょ。

 矢島さんはおびえながら答えた。


「え、A組のモンですうぅ!」

「A組だぁ!? 聞いたことねえなぁ、そんな組!」


 いや、あるでしょ。A組。

 ってか、ここでしょ。A組。


「姐さん、気ぃ付けてくだせえ。きっとこいつ、敵チームのまわしもんですぜ」


 瞬間、あかねさんが弥吉さんの頭をパコンと叩いた。


「あだっ」

「このバカが。たかえちゃんが怖がってんだろうが」

「た、たかえちゃん?」

「すまないねえ、たかえちゃん。怖い思いさせて」

「い、いえ……」

「で? あたいに何か用かい?」

「す、すみません。実は今、産休に入ってるカゴメ先生のために贈り物のプレゼントを計画してまして……」

「カゴメ先生?」


 カゴメ先生とは僕らが1学期の時、担任だった女の先生だ。

 面倒見がよく、性格もサッパリしていて生徒たちから大人気だった。

 そんなカゴメ先生はこの春結婚し、2学期になる前に産休に入ったため今は代理の先生(あかねさんたちの転校を紹介した先生)が担当をしている。


「A組のみんなで何か個々にプレゼントを贈ろうと思ってるんですけど、鷲尾さんたちもどうかなって」

「ふーん、なるほどね」


 ちなみに僕もプレゼントを用意しておいた。

 産休に入るということで、クラシックのCDを買っていた。

 お腹の子にはクラシックを聴かせるといいと何かで聞いたことあるからだ。

 まあ、使うかわからないけど。


「2学期の途中から転校してきた鷲尾さんたちには関係ないけど、二人だけプレゼントがないっていうのもアレだし……」

「わかったよ。あたい達にも何かプレゼントを贈って欲しいってことだろ?」

「う、うん……。いつでもいいんだけど」

「ちょうどいいのがあるよ。はい、これ」


 そう言ってあかねさんはなんか白い巻物のようなものを手渡した。


「……? なんですか、これ」

「さらし」

「………」

「………」

「………」


 いるのか?

 さらし。

 ま、まあ、赤ちゃんをくるませるのに役には立つか。たぶんだけど。


 っていうか、よく持ってたな。さらし。


「あ、ありがとう、鷲尾さん。じゃあこれを贈らせてもらうね。あと……轟沢とどろきざわくんは……」


 弥吉さんをチラッと見る矢島さん。

 超怖がってますがな。


「じゃあ、あっしはこれで」


 そう言って弥吉さんが渡したのはメリケンサックだった。


「………」

「………」

「………」

「………」


 ……うん、どう考えても妊婦さんに渡すものじゃないよね。


 っていうか、何に使うの? メリケンサック。


 案の定、矢島さんは頬を引くつかせている。

 でもそれ以上追及できなくて「ありがとう、これを贈るね」と言っていた。


 贈るんだ……。


「二人とも、ありがとう」


 そう言って去ろうとする矢島さんを、あかねさんは呼び止めた。


「たかえちゃん」

「は、はい?」

「もし何か困ったことがあったらいつでも相談しな。あたいに出来ることが合ったら、なんでも協力するからね」

「は、はい!」


 そう言って嬉しそうに去って行く矢島さん。


 この後、二人は友達になったらしい。



~告白されるまであと12日~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る