17日目(水曜日)

「おはよう、翔平」


 この日。

 クラスがざわついた。

 教室に入ってきたあかねさんの髪型が、なんとポニーテールになっていたからだ。


 ビックリした。

 いつもウェーブがかった金髪のロングヘアーしか見たことなかったから、新鮮だった。


「……あかねさん、その髪型」

「ふふ、似合うかい? 今日はちょっと気分を変えてみようと思ってね」


 あかねさんの後ろにいた弥吉さんが相も変わらずメンチを切ってくる。


「おい翔平。似合わねえなんて言ってみろ。ぶっ飛ばすぞコラ」


 なんでそういう事言うかなあ。

 そんなこと言われたら、逆に似合ってても似合ってるって言いづらいのに……。


「弥吉」

「へい、姐さん」

「ちょっと黙っててくれないかねえ」

「へ、へい。さーせん……」


 案の定、あかねさんにたしなめられていた。


「で? どうだい? 似合うかい?」

「は、はい。すごく似合ってます」

「そ、そうかい!? 似合うかい!?」


 あ、なんか嬉しそう。

 顔を赤く染めてニコニコしてる。


「髪型を変えるなんて初めての経験だったけど、やってよかったよ」


 初めてだったんだ。

 それもすごい。


 すると弥吉さんがまた余計なことを言った。


「へへ、姐さん、玄関の鏡の前で『似合うって言ってくれるかねー、どうかねー』って何度もやり直してたんだぜ」

「弥吉ぃッ!」

「へい、姐さん」

「つまんないことをベラベラしゃべるんじゃないよ!」

「へ、へい、さーせん……」


 さすがのあかねさんもちょっと照れてる。

 なんかカワイイ。


 こうして見るとあかねさんもかなりの美人なのに、性格と格好で損をしてるなぁ。とちょっと思った。


「でも安心しました」

「安心?」

「あかねさんも髪型とか気にする人なんだなって。そういうの無頓着な人だと思ってましたから」

「そんなことないさ。あたいだって女だ。それなりに身なりには気を使ってるよ」


 恥ずかしそうに照れるあかねさんの後ろで、弥吉さんがまたいらんことを言った。


「へへへ、そうだぜ翔平。こう見えて姐さん、小さい頃はドレス着てお姫様ごっこして遊ぶバリバリの乙女だったんだぜ」


 瞬間。


 弥吉さんの身体が消えた。

 またあかねさんに殴り飛ばされたのだ。


 あーあ、またグラウンドまで吹っ飛んでってるよ……。

 あかねさんの力、ハンパないなぁ。


「弥吉いいいぃぃぃぃッッッ!!!!」

「げぼおおおおぉぉぉ」

「テメェはいつもいつもいつもいつも余計な事言いやがってええぇぇ!!!!」


 こ、怖い。

 いつものあかねさんより百倍怖い。

 別に乙女なあかねさんも悪くないですが。


 なんて言えるわけもなく(雰囲気でもなかったし)あかねさんは鬼のような形相で窓から飛び出し、自分で殴り飛ばした弥吉さんを追っていった。


「殺してやるよ! 覚悟おし!」

「さーせん! さーせんでしたー! 姐さーん!」


 朝の校庭からあかねさんの「殺す!」という恐ろしい言葉と、弥吉さんの「さーせん!」という悲鳴が鳴り響く中、「ホームルームはじめるぞー」という担任の先生の言葉で朝のホームルームが始まった。



~告白されるまであと13日~

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