16日目(火曜日)
「翔平、次の授業はなんだゴルアァッ!」
姐さんたちが転校してきて一週間ほど。
思った通り弥吉さんは勉強する気がないようで、僕が
「英語です」
と言うと
「おう、昼寝の時間か」
と言っていた。
うん、英語は昼寝の時間じゃないよね。
ついでに時間割は自分で把握して欲しいよね。
姐さんは姐さんで「翔平、教科書見せておくれ」とか言ってまた机を寄せてくるし。
「姐さん、教科書いつ来るんですか?」
「来週だよ。なんせ注文したの先週だしね。すぐには用意できないさ」
「そ、そうですか。来週ですか」
それまでは毎回、姐さんが隣にいるわけか。
殺されないだろうか。
もはや毎時間、授業どころではない。
「なんだい? 嫌なのかい?」
「い、いいえ! とんでもございません!」
嫌って言ったら絶対絞め殺される。
僕は超高速回転で首を振った。
姐さんは「そうかい、よかったよ」と言っていた。
それは「殺さないですんでよかったよ」という意味だろうか……。
うーん。と悩んでいると、姐さんが神妙な顔つきで言ってきた。
「それよりも翔平」
「はい?」
「いい加減、その“姐さん”っていうのやめとくれ。あたいには“鷲尾あかね”っていう名前があるんだから。名前で呼んで欲しいね」
「え? で、でも弥吉さんも姐さんって言ってますし……」
現にクラスのみんなも「姐さん」と呼んでいる(あまり声はかけないけど)
逆に姐さん以外の呼び名を聞いたことがない。
見た目も雰囲気もなんだか「姐さん」っぽいし。
「弥吉はいいんだよ。あいつはあたいの弟分だから」
「はあ……」
「それにあたいは翔平を名前で呼んでるよ?」
ごもっともなお言葉。
「じ、じゃあ……。わ、鷲尾あかね……さん」
なんとかそう言うと、姐さんはムスッとした。
「なんでフルネームなんだい」
「い、いや、なんとなく……。じゃあ、鷲尾さん……」
「………」
「………」
どうしよう、まだ不機嫌なままだ。
「あたいは翔平を下の名前で呼んでるよ?」
「……あ、あかねさん」
瞬間、姐さんもといあかねさんの顔という顔からボンッと湯気のようなものが出た(ように見えた)。
「も、もう一度言ってくれるかい?」
「え? あかねさん」
「………」
今度は「ピーッ」という音まで聞こえた(気がした)。
「もう一度」
「あかねさん……」
なんなんだ、この人。
すると後ろで僕らのやりとりを見ていた弥吉さんが笑いながら言ってきた。
「へへ。姐さん、名前で呼ばれて照れてるっス! こう見えて姐さん、昔っからピュアで嬉しいことがあるとこうやって何度も相手に言わせるんスよ……」
刹那。
弥吉さんの姿が視界から消えた。
否。
教室の外のグラウンドまで吹っ飛ばされていた。
「弥吉いぃッ! 余計なこと言うんじゃないよおおぉぉッ!」
「げぼおおぉぉぉぉ!!!!」
ひいいっ!!
怖い怖い!
どうしたの!?
姐さん……じゃなくてあかねさんは叫びながら弥吉さんを追いかけるように窓から飛び出していった。
……ってか、ここ2階だよね?
「誰がなんだって!? ゴラアアァァッ!!!!」
「ひいい! 冗談です! 冗談です、さーせん!」
あかねさんと弥吉さんの声が学校中にこだまする。
「殺しまくってやるよ、弥吉いいぃぃッ!!!!」
「さーせん! さーせん、姐さん!」
弥吉さんの悲痛な叫びも教室まで響いてきていた。
もう二人でやっててよ。とちょっと思った。
~告白されるまであと14日~
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