14日目(日曜日)
「ようこそいらっしゃいませだぜ、ゴルアァッ!」
日曜日。
姐さんから渡された住所を頼りに自転車で向かうと、大きな門の前で弥吉さんが出迎えてくれた。
っていうか、「ゴルアァ」って出迎えの言葉じゃないよね。
大きな門の両サイドはどれくらいあるんだというくらい長い塀が続いており、敷地の広大さがうかがえる。
僕は自転車から降りて「どうも」と頭を下げると、大きな門が大きな音を立てて開いた。
そこで思わず尻もちをつきそうになってしまった。
門の内側には何十人、何百人という黒スーツの集団がモーゼの十戒のように真ん中の通りを開けて一斉に頭を下げていたからだ。
「う、うわあ……」
これ、映画で見たことある。
極道系のやつ。
っていうか、これもう完全にアッチの世界じゃん……。
「翔平コラ。姐さんがお待ちだぜコラ。さっさと行かんかいコラ」
弥吉さんの言葉に僕は「は、はいいっ!」と声をあげてそそくさと中に入った。
玄関(?)から屋敷の中に入ると、頬にキズのあるサングラス男が両拳を地面について僕を出迎えてくれた。
「お待ち申しておりやした。向井翔平様」
声が!
声がヤバい!
もう極道!
帰りたい!
「奥の間でおじきがお待ちです。どうぞ」
サングラス男に連れられ奥の間に通されると、そこには毎朝弁当を届けてくれる姐さん(今日は和服だ)と中年の男、綺麗な和服女性、そして先々週交番に届けたあの男の子がいた。
「おう、君かい?
中年の男がニカッと笑う。
こ、怖すぎる……。
漂うオーラがすでに堅気じゃない。
「ありがとね。礼を言うよ」
その隣の美女が妖しく微笑む。
きっとこの人がお母さんか。和服が似合いすぎでしょ。
「翔平、よく来てくれたね」
姐さんも綺麗な着物を着て不気味に笑っていた。
3人そろうと最強だ。
そして……。
「お兄ちゃん、あの時はありがとう」
あの男の子が満面の笑みで礼を言った。
10歳くらいだろうか。
ううう、この地獄のような空間でこの子の周りだけ天国に見える。
「いつか礼をしたいと思ってはいたんだが、なかなか時間が取れなくてね。申し訳ない」
そう言って頭を下げる組長(仮)さん。
「いえいえいえ! とんでもございません!」
「本当はこちらから伺うところなんだが、変な噂が立つといかんしなぁ」
「うへ、うへへ、そうですね……」
もはや笑うしかない。
笑ってるかも怪しいけど。
「娘のあかねが真っ先に挨拶に行ったんだが、なんだか君を気に入ったようでねえ。転校までして毎朝弁当を作るのが楽しみみたいなんだよ」
ギロリと姐さんが殺意を持った目で組長さん(仮)に顔を向ける。
こっわ。
これ絶対「なにウソついてんだよクソ親父」って思ってる顔だ。
きっとそうだ。
でも弥吉さんと違って手を出さないのは、親だからだろうか。
「コホン」と咳ばらいをして牽制していた。
「……あー、まあなんだ。娘の弁当とまではいかないが、お礼の意味も込めて今日のお昼はうちの屋敷でご馳走させてくれないかね」
「は、はひ! よろこんへ!」
もはや呂律が回らなかった。
屋敷のお昼ご飯はそれはそれは豪勢だった。
海鮮料理やら懐石料理やら至れり尽くせりで、さらには目の前でシェフが天ぷらを揚げてくれるというオプションまであった。
でも正直、場所が場所だけに味がほとんどわからなかった。
唯一の心の癒しが弟くんの屈託のない笑顔だ。
何か食べるたびに
「お兄ちゃん、これおいしいよー」
と言ってくれたり、
「これあげるねー」
と言ってくれたり。
ああ、もう可愛くて可愛くてたまらない。
できれば連れて帰りたい……。
これは姐さんの弟くんを大事に思う気持ちがよくわかる。
宴もたけなわとなったところで、組長さん(仮)が言ってきた。
「……それで、翔平くん」
「はい?」
「あかねとはどこまでいったのかね?」
「ぶーーーーー!!!!!」
飲んでたジュースを吐いたのは姐さんだった。
「ど、どこまでとは……?」
恐る恐る尋ねる。
組長さん(仮)は、静かだけど恐ろしく低い声で言った。
「どこまでとはどこまでだよ。……この意味、わからんかね?」
きゃあああーーーー!!!!
殺される!!!!
下手な事言ったら殺されちゃう!!!!
と思った瞬間、組長さん(仮)の頭に左右から二つの瓶が叩きつけられて粉々に砕け散った。
「何言ってんだい、あんた! 大事なお客さんに!」
「何言ってんのさ、オヤジ! あたいら、そんな関係じゃないよ!」
叩きつけたのは和服美女のお母さんと姐さんだった。
さすが
息がぴったりだ。
っていうか組長さん(仮)、大丈夫? 死んでない?
ピクピクけいれんしてる組長さん(仮)を無視して姐さんが言った。
「悪かったね、翔平。せっかく来てもらったのに変な思いさせて」
「い、いえ……」
変な思いは姐さんたちに瓶で叩かれて死にそうになってる組長さん(仮)を見て感じてます。
「今日はオヤジのせいで変な終わり方になっちゃったけど、また今度、ぜひ来ておくれ」
「は、はひ」
もうここには二度と来たくない。
そう思った。
~告白されるまであと16日~
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