13日目(土曜日)
その日は朝から嫌な予感がしていたんだ。
「ようよう、にいちゃんよー。人の肩にぶつかっといて『すいません』の一言で済ませようってか?」
今、僕の周りにいるのは不良、不良、不良。
モヒカンや剃りこみの入った髪型に赤シャツ短ラン、ダボダボズボンをはいた「オレたちツッパッてます!」アピールがものすごい人たち。
当然、道行く人たちは僕らを避けて通っていく。
場所は駅前からちょっと外れた小さな通り。
通行人はいないこともないけど、足早に去って行く。
誰も関わろうとしたくはないらしい。
それはそうだろう。
僕も逆の立場だったらそうするし。
「すいませんで済んだら警察いらねーんだよ!」
「すいません……」
まさか不良の口から「警察」という単語が聞けるとは思わなかった。
一番毛嫌いしてそうなのに。
と思いつつ、他に言う事もないので「すいません」を連発した。
そもそも、ぶつかってきたのは彼らの方だ。
僕はぶつからないように端っこに寄ったのに、すれ違いざま不良の一人が近づいてきて肩をぶつけてきたのだ。
いや、それはもう不自然なほどに。
酔っ払いが足をもつれさせて倒れ込んでくるかのような動きをしていた。
素人の僕が言うのもなんだけど、「ぶつかるの下手か!」と思わずツッコむところだった。
「おー、いてーなー。肩いてーなー」
そしてあからさまに肩をさする不良A。
演技も下手か。
なんだろう。
ここ最近、姐さんや弥吉さんと絡んでるからか耐性ができたみたい。
凄んでいるけれども不良という名のコント集団にしか見えない。
とはいえ、ケンカになったら間違いなく勝てるわけもないので、僕はただただひたすら「すいません」を連呼した。
「いてーなー。これ骨折れてるかもなー。いてーなー」
「ぶほっ」
……ヤバい、笑ってしまった。
肩がぶつかって骨折れるって、どんだけカルシウム不足なんだよ。
「んだ? 何か言いたそうだな?」
「い、いえ……。ただぶつかっただけなのになーと思って……」
すると案の定、別の不良が声をあげた。
「んだとコラ! 人にぶつかっといてなんじゃその態度はワレ!」
「アニキがウソついてるっていうんか、おおん!?」
「聞き捨てならねえなぁッ!」
あ。
ぶつかってきたの、アニキだったんだ。
「こう見えてもなあ! アニキの骨は中身がスッカスカなんだよコラ!」
「………」
「………」
「………」
どうしよう。
ここはツッコむところなんだろうか。
「おいダテオ」
「へい、アニキ」
「……余計なこと言うんじゃねえ」
「す、すんません」
アニキさんはそう言って顔を真っ赤にしていた。
やっぱり言って欲しくなかったみたい。
「それはそうと、治療費置いてけやコラ」
「治療費って言われても……」
なんだか売れないコント集団のような不良たちを相手にしていると、聞きなれた声が耳に飛び込んできた。
「どうしたんだい?」
こ、このドスの効いた高い声は……。
「あ、姐さん!」
瞬時に僕の周りを取り囲んでいた不良集団がパッと道の端に移動した。
そこにいたのは、あの転校してきた姐さんだった。
今日はどうやら一人のようだ。
姐さんは僕を一目見るなり、高い声をあげた。
「あれ!? 翔平! 翔平じゃないか!」
「姐さん」
「うわあ、奇遇だねえ!」
ああ……。
ニヤけた顔がまた一段と怖い……。
すると絡んでいた不良の一人が姐さんに声をかけた。
「あ、姐さん? この方とお知り合いで?」
この方って……。
さっきまでにいちゃんって言ってませんでした?
「知り合いなんてもんじゃないよ。この人が迷子になった弟を交番に届けてくれた翔平だよ」
「ええええぇぇーーーッッッ!?」
いや、驚きすぎでしょ。
「じ、じゃあ、まさかこいつが姐さんが毎日お弁当を作ってあげてるという……」
「こいつ?」
「ひぐっ! い、いえ! このお方です、このお方!」
「鷲尾家にとっての恩人だよ。あんたら、失礼なことしてないだろうね?」
「い、いいえぇ、とんでもございませんー。ちょっと肩と肩がおぶつかりになられて、痛くないですか? とお声をかけさせていただいてたところですぅ。ははは……」
変わり身早っ!
っていうか、なんなの? この姐さんって人。
やっぱりとんでもない人なの?
「そうかい。そいつぁよかったよ。もし失礼なことしてたら、この辺り一帯が血の海になってたからね」
怖いよ。
「翔平」
「は、はい?」
「ここで会ったのも何かの縁だ。弟の礼をきっちりしたいから、明日うちにおいでよ」
「へ? 姐さんちに?」
「親も礼をしたいと言ってたしさ。今日は野暮用があって無理だけど、明日なら都合つけるよ」
「い、いや……でも……」
むしろ絶対行きたくないんですけど。
「嫌かい?」
「よ、喜んで……」
もはや一択しかなかった。
~告白されるまであと17日~
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