12日目(金曜日)

「翔平」

「は、はい? なんでしょう?」


 特攻服女改め姐さんと、リーゼント頭改め弥吉さんが転校してきて2日目。

 隣の席の姐さんが言ってきた(もともと違う人が座っていたんだけど、姐さんに隅に追いやられていた。かわいそうに)


「教科書、見せてくれるかい?」

「き、教科書ですか?」


 いきなり何を言い出すんだ、この人。


「ほら。あたいら、急な転入だったろう? 教科書が間に合わなくてさ」


 まさか教科書すら用意してなかったとは。

 本当に行き当たりばったりで転校してきたんだな、この人たち。


「はい。いいですよ」


 教科書を開いて隣の席に近づけると、姐さんは机を動かして僕の机とぴったり寄り添ってきた。


「………」


 な、なんで?

 ものすごく近いんですけど……。

 なんでこんなに近づいて来るんですか?


 思わず固まってると、姐さんが「ふふ」と笑いながら言った。


「なんだかこうしてると小学生の頃を思い出すねえ」

「小学生の頃ですか?」


 確かに小学校の時ってこうして机同士をぴったりくっつけてっけ。

 だから席替えで隣が誰になるか、毎回緊張してた記憶がある。


 でも高校生になってこれをやられると圧がすごい。

 肩なんか軽く当たってるし。


 すると、姐さんの後ろの席にいた弥吉さんが言った。


「へへ。姐さんの小学校時代か。懐かしいぜ」

「知ってるんですか? 弥吉さん」

「あたりめえだろコラ。姐さんには古くから仕えてるからな」


 この人はいつから姐さんと一緒にいるんだろう。

 っていうか、今更だけど同い年なんだ、二人とも。


「あの頃の姐さんは、毎日ヤンキーたちとケンカばかりしてたからなぁ。拳なんか血で真っ赤に染まっててよお。ついたあだ名が『地獄の鬼夜叉』」

「………」


 じ、冗談ですよね?

 小学生でヤンキーとケンカばかりして拳が血で真っ赤に染まってたって、さすがに冗談ですよね?


「弥吉」

「へい、姐さん」

「古い話はよしとくれ」

「すんません」


 本当だったーーーー!!

 姐さんが認めたーーーー!!


 こっわ。

 この人、こっわ。

 大丈夫かしら。

 僕、今日の放課後まで生きてるかしら。


「ところで翔平」

「ひゃい!?」


 ヤバい。

 ビビりすぎて声が裏返ってしまった。


「一時間目はなんだい?」

「い、一時間目ですか? 一時間目は国語です」

「そうかい、国語かい。国語は得意だよ」

「そうなんですか?」

「ああ。漢字が書けないと、うちのチームには入れないからね」

「漢字……?」

「夜露死苦(よろしく)とか仏恥義理(ぶっちぎり)とか」


 姐さんは丁寧にノートに「夜露死苦」「仏恥義理」と書いて教えてくれた。

 っていうか、これは国語のジャンルに入るのだろうか。


「あとは愛羅武勇(あいらぶゆう)とか」

「ア、アイラブ……?」

「………」

「………」

「………」

「………」


 すると姐さんが突然立ち上がって叫んだ。


「弥吉いぃッ!!」

「へい、姐さん!」

「ちょっと保健室行ってくるよ!」

「お気をつけて!」


 そう言って姐さんは一時間目から保健室に行ってしまった。

 なんなの? あの人。



~告白されるまであと18日~

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