8日目(月曜日)

「2年A組の向井翔平ってヤツはどいつだ、ゴルアァ!」


 二日ぶりにリーゼント頭が現れた。

 この人はホント、人の顔を覚える気があるのだろうか。

 また最初の頃に戻っている。


「テメエか? おう? テメエか?」


 ついには女子にまで聞いて回っていた。

 いや、翔平はどう考えても男の名前でしょ。


「あの……」


 僕が手をあげると、リーゼント頭は「おおん?」とメンチを切った。


「向井翔平は僕です」

「………」


 リーゼント頭は僕の顔を一通り眺めたあと言った。


「てめえが向井翔平か。どこかで見た顔だのぉ、ワレコラ」


 どこかで見た顔って。

 どんだけ記憶力が悪いんだこの人ワレコラ。


「姐さん、いやしたぜ!」


 例によってリーゼント頭が廊下に向かって声をかけると、「そうかい」と言って特攻服女が入ってきた。


「ああ翔平。会いたかったよ」

「は、はあ……」


 なんだろう、特攻服女の目的がまったくわからない。

 そして僕は会いたくありませんでした。

 こう毎日毎日来られると怖くて死にそうです。


「はい、今日のお弁当」

「あ、ありがとうございます……」

「ところで翔平」

「はい?」

「この前、嫌いな食べ物聞いたろう?」

「は、はい。そうですね」

「今度は好きな食べ物を聞きたいんだけど、好きな食べ物はなんだい?」

「す、好きな食べ物ですか?」


 なんでこの人は僕の好き嫌いをこんなに聞きたがるんだろう。


「好きな食べ物は……」


 これまた難しい質問だ。

 嫌いな食べ物はあまりなくて困ったけど、逆に好きな食べ物はありすぎて困る。

 こういう時、なんて答えればいいんだろう。


 悩んでいると、またもやリーゼント頭が金属バットを振り回して叫んだ。


「姐さんが聞いてんだろうがゴルアァッッ! さっさと答えんかいいぃッ!」

「ひいいっ!」


 先週からこんなのばっか。

 もう嫌だぁ。


「好きな食べ物って聞かれたら好きな食べ物答えりゃいいんだよッ! 釘バットとか!」


 釘バットは凶器です……。


「え、えーと……。カレーが好きです」

「カレーだって?」


 特攻服女の眉がピクっと動く。

 こ、怖。


「弥吉ぃッ!」

「へい、姐さん!」

「今日の帰り、りんごとハチミツ買ってくよ!」

「へい!」


 なぜに!?

 りんごとハチミツ入りのカレーでも作るんだろうか。

 好きだけど。


「他には?」

「え、えーと……。お好み焼きとか」

「弥吉ぃッ!」

「へい、姐さん!」

「紅ショウガと青のりも追加だ!」

「へい!」


 本気だ。

 この人、本気で僕の好きな食べ物作ろうとしてる。


 ……いい迷惑です。


「ふふ、翔平は好みが可愛いね」


 そう言って顔を赤らめる特攻服女。

 こんな怖い人から可愛いと言われても恐怖しか感じない。


「姐さん、そろそろ」

「わぁーってるよ! じゃあね、翔平。また明日」


 明日も来るんかーい! ときっと誰もが思っただろう。



~告白されるまであと22日~

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