4日目(木曜日)

「2年A組の向井翔平! おはようだぜ、ゴルアアァッ!」


 リーゼント頭が今日も元気にやってきた。

 そして相変わらず声がでかい。

 でもようやく僕を覚えてくれたようでよかった。


「24時間ぶりじゃのぉ、ワレェ」


 そう言ってメガネの学級委員長(僕を売ったヤツ!)にメンチを切っている。

 うん、それ完全に違う人だよね……。

 メンチを切られている学級委員長は蛇に睨まれたチワワのようにブルブル震えてる。

 可哀そうに……。


「あのー」


 僕はそう言って立ち上がった。


「……向井翔平は僕です」


 するとリーゼント頭が「おおん?」と言いながらこっちを見た。

 相変わらず怖い顔だ。


「テメエか、向井翔平は!」

「はい」


 っていうか、いつになったら覚えてくれるんですか?

 まあ覚えてくれなくても全然問題ないですけど。


「姐さん、いやしたぜ!」

「そうかい」


 そう言って例の如く特攻服女が姿を現した。


「翔平、元気だったかい?」


 不気味な笑みを浮かべながらゆっくり近づいて来る特攻服女。

 リーゼント頭より怖いよ。


「は、はい。元気です」

「そうかい。元気ってのはいいもんさ」

「はあ」

「1に健康、2に健康、さんしがなくて、5に健康ってね」

「は、はあ……」


 なに言ってるの? この人。


「健康は大事だよ」

「はい……」

「ところで、昨日の弁当だけど」


 はいきたー!

 絶対来ると思ってました。

 弁当の感想ですよね!?

 何が美味しかったか聞きたいんですよね!?


「苦手な食材とかなかったかい?」

「に、苦手な?」


 と思ったら別のことを聞いてきた。

 苦手な食材?


「いえ……、別に苦手な食材は……」

「なかったかい?」

「はい。全部美味しくいただきました」


 特攻服女は僕の答えに満足したのか「そりゃよかったよ」と大きくうなずいていた。


「ちなみにだけどねえ。翔平には嫌いな食べ物ってあるのかい?」

「き、嫌いな食べ物? なくはないですけど……」


 正直、そんなに好き嫌いはないから嫌いな食べ物と言われてもすぐには出て来ない。


「あるのかい?」

「いや、あるといえるほどでは……」

「ないのかい?」

「ないと言うとそうでもないような……」


 するとリーゼント頭が金属バットを振り回して叫んだ。


「あるのかないのか、はっきりせんかいワレゴラアァッ!!」

「ひいぃっ!」


 こ、怖い……。

 やっぱりこっちのほうが怖い……。


「弥吉ぃッ!」

「へい、姐さん!」

「あんたはすっこんでな」

「す、すいやせん」


 はわわわ。

 リーゼント頭を一発で黙らせる特攻服女。

 どっちも怖い……。


「で? 翔平。もう一度聞くよ。嫌いな食材はあるのかい?」

「は、はい! 梅干しとか……」

「ああ!」

「ひいっ!?」

「梅干しはあたいも苦手だよ!」


 ま、またですか……。

 いきなり大声あげてビビらせないでくださいよ。


「気が合うねえ。他には?」

「え、えーと……ブロッコリーとか」

「うんうん」

「……セロリとか」

「うんうん」

「……酢の物とか」

「弥吉!」


 僕が答えてると、いきなり特攻服女が声をあげた。


「へい、姐さん!」

「メモしな」

「へい!」


 そう言って、どこからともなくメモ用紙を取り出してさらさらと記入していくリーゼント頭。

 な、なんなの?


「アレルギーはあるのかい?」

「いえ、ないです……」

「弥吉!」

「へい、姐さん!」

「アレルギーなしってでっかく書くんだよ」

「へい!」

「………」


 ……なんか、調理スタッフとその部下みたい。


「翔平、すまないね。今日はお弁当持ってきてないんだ」

「は、はあ」


 頼んでませんけど。


「だから今日はこれで我慢してくれるかい?」


 そう言って渡されたのはマムシドリンクだった。


 いらねー……。


「じゃあね」


 そう言って去って行く二人を、僕は黙ってみつめるしかなかった。



~告白されるまであと26日~

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