3日目(水曜日)

「2年A組の向井むかい翔平しょうへいってヤツはどいつだ、ゴルアァッ!」



 仏の顔も三度までと言うけれど、これは怒ったほうがいいのだろうか。


 リーゼント頭は今日もまた

「テメエか? おう? テメエか?」

 と、目に付く男子に片っ端から声をかけている。


「向井翔平は僕です」


 クラスメイトも「またか」という顔で僕に顔を向けていたので、自ら名乗り出た。


「テメェか! 向井翔平ってやつは!」

「はい。……今日はなんですか?」


 リーゼント頭は僕の言葉など聞きもせず、またもや廊下に向かって声をかけた。


あねさん! いやしたぜ!」

「そうかい」


 そう言って特攻服女が颯爽と現れる。

 もはやネタとしか思えない。


「翔平、24時間ぶりだね」

「そ、そうですね」

「あたいの作ったお弁当、どうだった?」

「へ? お弁当?」

「美味しかったかい?」

「お、美味しかったです……」


 まさかそれを聞きに来たのだろうか。

 でも美味しかったと言うのはウソではない。

 この人の作ったお弁当、どの具材も味がしみ込んでいて最高だった。


「そうかい」


 そう言って口元に笑みを浮かべる特攻服女。

 う、うわぁ……。なんか背後にどす黒いオーラを感じる。ちょっと怖い……。


「ちなみにどれが一番美味しかったんだい?」

「え? どれ?」

「感想を聞かせておくれよ」

「感想って言われても……」


 しどろもどろしていると、リーゼント頭が金属バットを振り回して叫んだ。


「姐さんが聞いてんだろうがゴルァッ! 早く答えんかいいぃッ!」

「ひいぃ!」


 もうなんなの、この人たち。


「ぶち殺すぞ、ワレッ!」

弥吉やきち!」

「へい! 姐さん」

「あんたはすっこんでな」

「す、すいやせん……」


 そう言ってすごすごと引き下がるリーゼント頭。

 はわわ、こんなに狂暴そうな男をたった一言で黙らせるなんて……。

 恐ろしい。


「で? どれが一番美味しかったんだい?」

「え、えーと……だ、だし巻き玉子が……」

「ああッ!」

「ひいッ!?」

「だし巻き玉子は自信作だったんだよ!」


 さ、さいですか……。


「他には?」

「えーと……タコさんウィンナーとか……」

「うんうん!」

「あときんぴらごぼうとか……」

「うんうん!」

「唐揚げとか……」

「うんうん!」

「………」

「………」

「………」

「……他には?」


 まだ聞くんかい。


「え、えーと……あとほうれん草バターとか……」

「うんうん!」

「アスパラガスのベーコン巻きとか……」

「うんうん!」

「………」

「………」


 ヤバい、それ以上思い出せない。

 あとはプチトマトとかレタスとか生野菜ばかりだったし。


「い、以上でよろしいでしょうか?」


 苦し紛れにそう言うと特攻服女は満足したらしく親指を立てて頷いた。


「それでこそ作った甲斐があったってもんだよ!」

「そ、そうですか」


 よかった……。

 ホッとしてると、また新たな弁当箱が目の前にドン! と置かれた。


「それで今日の分も作ってきたんだ。食べとくれ」

「ええーーーー……」


 思わず引いてしまった。

 マジでなんなの?



~告白されるまであと27日~

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