44 高校一年生 初夏-8
駅前からバスに乗り、20分程走ると海岸線の道路に出る。
古くから温泉が湧くこの街は、観光客が多く訪れることもあり、その水族館も昔から賑わいを見せることが多いと聞く。
みよっちに取り残された私と立花君は、せっかくなので、その水族館を訪れることにした。
私は、その水族館へ行くのは初めてだったけれど、立花君は小さい頃から幾度となく訪れたことがあるという。水族館へ向かうバスの中で、そう教えてくれた。
水族館へたどり着くと、来場記念として、お
元気いっぱいのイルカが、笑顔で飛び跳ねるデザインはとても可愛らしく、なんとも愛らしい造りをしている。
肩から下げていたポーチに取り付けると、歩くたびにゆらゆらと揺れて、心なしかイルカの表情も、より一層楽しそうに見えてくる。
立花君は手ぶらだったので、キーホルダーを眺めながらどうしようかと、思案しているようだ。
ポケットに仕舞おうとする様子が伺えたので、無くしてしまう心配がないように、そっと手を差し出して、キーホルダーを受け取った。
先ほどと同じようにポーチに取り付けると、イルカ達は仲良く寄り添うように、小さく揺れ始めた。
理由はわからないけれど、急に頬が熱くなる気がして、チラリと立花君の様子を確認すると、天井を見上げて、頬をポリポリと掻いていた。
そっと胸に手を当て、軽く深呼吸をすると、薄暗い館内へ、ゆっくりと並んで歩き始めた。
タカアシガニという世界一大きな蟹の展示や、クラゲと光を組み合わせた、イルミネーションのような幻想的な水槽。ヨチヨチと可愛らしく歩き回るペンギン達。
同い年の男の子と、こういった場所へ二人で出掛けるといった経験は初めてだったので、ずっと緊張は続いていたし、どんな会話をすればいいのか、戸惑う部分もあった。
けれど、二人で水族館の展示を見ている間は、その美しさや微笑ましさに夢中になることができていたので、時間を忘れて楽しむことができた。
ひときわ薄暗い通路を抜けると、青く光る空間にたどり着く。
空の散歩を楽しむように、ゆっくりと泳ぎまわる、回遊魚達を見上げる。
指揮者に合わせるかのように、規則正しくキラキラと光りながら、イワシ達が群れを成して踊る。
岩場を洞穴のようにして、ひっそりとかくれんぼでもするように、じっと動かずに身を寄せ合う、恥ずかしがり屋のカサゴ達。
足元から天井まで続く巨大な水槽を前に、思わず息を飲んだ。
目の前に広がる、海という世界の一部を切り取った光景に、心を奪われる。当たり前のように繰り広げられる生命の営み。
優雅に泳ぐ者も、ひっそりと隠れる者も、その全てに役割があって、そこにいる全てに魂が宿っているのだと思うと、自分という存在の小ささに、あらためて気付かされる。
この中の、どれか一つでも欠けてはいけないのだと思う。お互いがお互いに影響しあうことで成り立つ、奇跡の結晶のようだ。
小学校時代、ずっと支え続けてくれたメグには、感謝しかない。いくら感謝しても感謝しきれない。
いつまでたっても迷子になりそうな私に、優しく手を差し伸べてくれるみよっち。みよっちには、相変わらず世話になりっぱなしだ。
そして……もう一人。私に大きな勇気を与えてくれた存在がいる。とっても大きな勇気を。
今、私のすぐ
そんな時間を、みよっちは作ってくれたのだ。腰の重い私を見かねて、ウソまでついて導いてくれたのだ。
私は、そっと立花君の横顔を覗き見る。
感謝を、伝えよう。
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