42 高校一年生 初夏-6
二日後、金曜の昼休み。
私は教室でみよっちと向かい合わせに座って、お弁当を食べながら、恐る恐るそれを伝えることにした。
「……みよっち? ……怒らないで聞いてよ」
「へ? なに? ……内容によっちゃぁ、怒るけど?」
タコさんウインナーを、お箸で摘まみながら、そう答える。
「そんなこと言わずに、ね、怒らないでよ……」
「わかった、わかった。んで、なに?」
二つ結びにしているみよっちは、ウインナーをパクリ。口をモグモグとさせつつも、私の話に耳を傾けてくれるようだ。
「昨日ね、帰り。雨降りそうだったから私、自転車を駅に置いて電車で帰ることにしたの」
「そういや、雨降ったね」
続いて、卵焼きをパクリ。にんまりとするみよっち。
「それでね、電車降りたとき、駅で声を掛けられたの。『傘、入れてくれない?』って」
「へぇー。そんで……」
みよっちのモグモグが止まった。
「は!? ……それって、男? っていうか、ナンパ!?」
みよっちは、前のめりに私に顔を近づけてくる。
「ちょ、ちーがう、ちがう、ちがう」
私は両手をブルブルと振って、即座に否定しつつ話を続ける。
「……でも、男の子だよ、……同い年の」
「誰!? 私の知ってるやつ? そいつ」
「う、うん、とっても。っていうか、そのー……
「
みよっちは、大声でその名前を叫ぶと、勢い良く立ち上がる。と同時にみよっちが座っていた椅子も勢いよく倒れて、ガタン! というド派手な音が教室中に響き渡った。
一瞬の静寂とともに、教室中の全員がみよっちに注目する。
「み、みよっち、声が大きいよ」
私は思わず席を立って、みよっちの椅子を元に戻し、立ち尽くすみよっちの両肩に手を置いて、強引に座らせる。クラスのみんなに苦笑いを見せながら、私も席に戻って腰を下ろした。
「……わ、悪い、取り乱した」
みよっちは、ぜぇぜぇと肩で息をしながらも、必死に落ち着きを取り戻そうとしている。
「でもね……、たぶん……私の事、勘違いしたんだと思う。……他の誰かと」
そう言ってみよっちをチラッと見ると、スッと血の気が引くような、青ざめた顔を一瞬みせたような気がした。
「そ、そう? そんなことないんじゃない? アイツ、確か目は良かったはずだし、潤瞳のこと見間違える訳ないよ……」
そう言いつつも、みよっちの目は泳いでいるように見える。
「け、けどね私、中学の時のお礼とか、全然できてなかったから、いい機会だなって思って、一緒に帰ったの。私の傘に入れてあげたの」
みよっちは目を閉じて、じっと心を落ち着かせているようだ。
「みよっち……怒った?」
恐る恐るそう尋ねると、みよっちはムニッと口角を上げて笑顔になった。
「ちゃんと、お礼は言えたの?」
「え? う、うん。言えた」
「そっか、良かったじゃん。ってことは、今度はアイツが潤瞳にお礼をする番だよね?」
人差し指をフリフリと振りながら、そう私に問いかけてくる。
「で、でも、これでおあいこだねってなったから、お礼なんて悪いよ……」
「ってことは、お礼は無いの? なんの約束もしてないの?」
「……うん。して……ない」
みよっちは、両手を強く握って机の上に置くと、プルプルと肩を振るわせて、
「許さん!」
と、大声で叫びながら立ち上がった。またもや椅子が勢いよく倒れて、ガタン! というド派手な音が教室中に響き渡った。
一瞬の静寂とともに、全員がみよっちに注目する。
「み、みよっち? また!?」
私は席を立って椅子を元に戻し、立ち尽くすみよっちを強引に座らせると、皆に苦笑いを見せながら、自分の席に戻って腰を下ろした。
「潤瞳っ! 明日、土曜日。空いてる? 日曜は?」
「え? 週末? ……特に用事は無いから、空いてるけど……?」
「じゃ、今夜、電話するから。週末、空けといてよ!」
「い、いいけど、なに? なにがあるの?」
「私に任せなさい! あのヘタレめ」
みよっちは、人差し指を銃に見立てて私を指差すと、謎の決めポーズと同時に口を開いた。
「あんのヤローぅ。この私がぁ~、月に代わってぇ~、お仕置きじゃぃぃ!」
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