40 高校一年生 初夏-4

 学生専用の通学路を抜け、川沿いの自転車道へとたどり着く。

 下り坂が終わって平坦な道のりを、みよっちはゆっくりとしたスピードで、自転車をぎ進めて行く。


 人通りの少ないその道はとても静かで、犬の散歩とおぼしき人影が、遥か遠くに僅かに見える程度である。

 カラカラと車輪から聞こえるその音だけが、しばしの沈黙を、静寂から遠ざけてくれていた。


「……潤瞳、怒らないで聞いてね」


 先程までとは打って変わって、神妙な声色で私の心を探るように、みよっちが語りかけてくる。


「え? う、うん?」


 みよっちが、私を怒らせるようなことを言うとは、とても思えない。

 何だろうという気持ちで言葉を待った。


「……ホントに怒らない?」


 みよっちにしては、やけに慎重な姿勢である。

「どうしたの? 怒るわけないよ、安心して。それに、今日だって私を元気づけてくれたし、仮に少しくらい嫌な話だったとしても、ちゃんと聞くよ」


「そっか……じゃあ、話すね」

「うん」


 少しの間を置いて、みよっちは話し始めた。


「ちょっと前に、アイツと偶然会ってさ。帰りに。それで、その、最近一緒に帰ったりとかしてるんだよね……」


 予想していなかった話の展開に、少しだけビクッと体が反応する。それが、腕を通して、みよっちに伝わってしまったかもしれない。


「えーっと、あー、そう……なんだ」


 私と二人の時、みよっちが「アイツ」と表現する人物は、それ程多くない。


「別に、黙ってたって訳じゃないんだけどさ、改まって言うのも、なんか変かなーって思って。それで、その、何となく」

「……そ、そうだよ。わざわざ私に言うような事でも……ないよ」

「そう?」

「うん、そうだよ」


 少しだけ振り向くように私の方を見ると、直ぐにまた前を向いてしまったので、その表情を確認することは出来なかった。


 キーッとブレーキが掛かり、自転車が止まった。


「どうしたの? みよっち」

「ちょっと、座って話そ」


 そう言って、みよっちは河川敷へ降りる階段を見つめる。その表情はとても真剣で、決意のようなものを感じさせる強さを含んでいた。

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