39 高校一年生 初夏-3

 自転車を取りに、駐輪場へ向かう。みよっちも一緒に付いて来てくれている。


 駅まで一緒に帰ろうと思い、自転車を押しながら歩き出そうとすると、

「貸して!」

 と言って、みよっちは私の自転車のハンドルを少しだけ強引に奪い取ると、ニコっと笑顔を見せる。


「潤瞳は後ろね」

「え?」

 みよっちは私の自転車にまたがると、目線で荷台に座るようにうながしてくる。

「だけど」

「早くしないと、出発しちゃうぞー」

 いたずらっぽくそう言いながら、荷台をパシパシと叩いている。


 戸惑っていると、

「ほら、早く早く!」

 そう言ってウインクしてきた。


 みよっちには、とてもかなわない。知らないうちに笑顔になっている自分に気付く。心も自然と軽くなってくる。

「うん」

 そう頷きつつ荷台に乗り込むと、みよっちの腰に腕をまわしてしがみついた。


「よーっし、お嬢さん、しっかり捕まってな!」


 みよっちは、立ち上がるようにペダルをグッと踏み込むと、二人を乗せた自転車は、よろよろとしつつも、次第にその速度を増し、走り始める。


 校門を抜けると、急な下り坂に差し掛かる。更にスピードを増していく。夕暮れの涼しい風が、とても気持ちいい。


「潤瞳、怖い?」 

「ううん、大丈夫、怖くない」


 それなりのスピードで下り坂を駆け下りているけれど、みよっちの後ろに座っている安心感からか、恐怖心はない。


 そう思った途端とたん、不意に自転車がジャンプする。

 大きめの段差を乗り越えたのか、地面から浮き上がった。


 私は、みよっちにギュッとしがみつく。


「うわぁ、ヤッバ。今、完全に浮いたよね!」

「ちょーっちょっちょ、み、みよっち?や、やっぱ怖いかもー!」

「え? 聞こえない! 何だって?」


 そう言いながらも、みよっちは笑いをこらえているようで、クックと腹筋が動く感触が伝わってくる。

「うそ、聞こえてる、絶対聞こえてるから、それ!」

 私も何だか可笑しくなってきた。


「うそじゃないって、聞こえてないって」

「ホントに聞こえてないのー!?」

「ホントだって、聞こえてないったら聞こえてないよ~」


 悪乗りするみよっちに、私も冗談めかして対抗することにした。


「美代子さぁーん、聞こえてますわよねーぇ」


「聞こえて、おりませぬわーぁ」


 みよっちは、そのお嬢様言葉とは裏腹に、両足をペダルから離すと、前に突き出すように広げた。


 スカートが向かい風を受けて、ブワッとめくれあがる。


「美代子さん、おパンツ、見えてますわよー」


「いや~ん、ご覧あそばせ~~」


 緩やかなカーブを、切り裂くように走り抜ける。


 ケタケタと笑い声を上げながら、女子高生二人を乗せた自転車は、猛スピードで下り坂を駆け降りて行った。

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