28 高一初夏-2

 僕も、どちらかというとああいった感じの高校生活を想像していた。


 学校が終わったら友達と帰りに色々な店に寄ったり、彼らみたいにゲーセンに行ったり、最近だと高校生同士でもカラオケに行ったりするらしい。


 思いもよらないテニス部入部という現実が、想像とは全く違う現在を形作っている。夕方遅くまで毎日運動をして、クタクタになって家に帰る。家に着いたら、晩御飯を食べて、ゲームをして、風呂に入って寝る。その繰り返しである。


 はたして青春とは。


 しかし、そんな生活もさほど悪くはない。色々と思い悩むことも少なく、日々が過ぎていく。真剣に部活動に向き合う友人もいて、それはそれで素晴らしいと思うし、それだけ熱中できるものがあるというのは、うらやましい気もする。


 今現在の自分は、心の底から熱くなれるような、たましいさぶられるような、そんな出来事からは、離れた位置にいる。ただ、本質的な自分の性格には、それが合っているように思う。


 ひとまず、明日からは部活動も休みになるし、テストといっても普通に勉強していれば、赤点という心配もない。久しぶりの休養という感じで、この二週間を過ごせるのは、心が安らぐ思いだった。




 翌日、授業終わりで明るいうちから帰宅するというのは、違和感があった。それだけ、遅い時間に帰るのが自分の日課になっているというのを実感する。


 帰りにどこか寄り道でもしようかとも思ったのだが、所詮しょせんは田舎町である。特別寄りたいと思える場所も無い。真っ直ぐ家に帰ってゲームでもやっていたほうが有意義というものだ。いつもより早い電車に乗って、帰路きろについた。


 最寄りの駅に着くと、昨日と同じく、他校の生徒たちが反対側のホームにも大勢いる。テスト期間中なのか、部活動をやっていない生徒たちなのか、普段は見かけない生徒ばかりだ。


 ふと、こんな時に偶然、駅でばったり……という想像を、僕はしてしまった。


 生活圏が近いのだから、そんな偶然が有っても良さそうなものだが、だいたい世の中そうならないようにできている。


 僕は、神様の性格の悪さを良く知っている。どうせ、ひまだし。


「あーあ」

 小さいけれど、本当に声に出して、ため息をついた。


 ふと、反対側のホームに、ほんのりブラウン掛かった髪色の女生徒がいることに気がついた。僕は、無意識に反対側のホームを歩くその女生徒を、目で追っていた。


 僕が降りたのは改札側のホームだったので、その場で立ち止まり、反対側のホームからこちら側のホームへ渡る階段へと向かう女生徒の後ろ姿を見守る。


 彼女が通う高校の制服だ。


 僕が通う高校とは、反対方向に二駅行ったところの、進学校である。


 ついさっきまで、そんな出来事が起こらないものかと、あわい期待をいだいていたくせに、いざ現実の世界にそのような出来事が起こってしまうと、どう対応していいか、わからなくなってしまう。


 中三の時は、別々のクラスになってしまったので、ほとんど学校内での接点は無かった。そのまま卒業してしまったので、一年以上、会っていないようなものである。


 このチャンスを逃したら、今後、いつ出会えるかわからない。挨拶あいさつくらいしてもバチは当たらない。そう自分に言い聞かせる。


 勇気を振りしぼって、彼女がこちらのホームに渡ってくるのを待つことにした。

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