24 中学二年生 冬-2

 選挙演説会では、候補者が座る席の前に候補者名を大きく掲示するのが通例となっている。それをクラスの誰かに書いてもらう必要があった。


 私は、その適任者に心当たりがあった。

 というか、その人以外、思い浮かばない。


 みよっちに相談して、彼へお願いしに行こうと言ってみた。みよっちは、

「アイツにそんな特技あったかな?」

 と、あの『明るい選挙』の文字のことを全く覚えていないようである。

 私は、みよっちを説得してお願いに行くことにした。


 何となく、あの出来事以来、ほとんど接点らしい接点が無かったので、少し緊張する思いだ。しかし、後ろからみよっちが一緒に付き添って来てくれるというので、勇気を出して彼の元へ向かうことにした。


 彼は、教室の後ろの方の席に座っていたので、休み時間を利用してお願いに行くことにした。彼の机の前に立って、彼の様子をうかがう。


 私とみよっちが連れだってやってきたので、なんとなくソワソワした様子だ。

 せっかくの休み時間を無駄にさせてはいけないと思い、早速本題に入ろうと、そっと頼み事を伝えてみる。


「……を……できないかな?」


 若干の緊張でのどが詰まり、とても小さな声になってしまった。


 彼は、

「え?」

 と言って、私の方を見た。


 おそらく聞き取れていなかったのであろうということは、何となく表情から読み取れていたので、小さく深呼吸をしてから、もう一度お願いをした。


「選挙用のポスターを、お願いできないかな?」


 お互いの目を見て意思疎通をするのは、それこそあの「明るい選挙」の時のやりとり以来な気がする。


 暫くの間、彼は私の頼み事の意味を理解しようとしていたのか、ボーっとした顔をしたあと、直ぐに我に返ったようだった。

「ポ、ポスター?」

 彼は私に、そう尋ねてくる。

「う、うん」


 久しぶりの会話だった。ふと、メグが去年の夏休みに私に変な事を言ってきたことを思い出した。急に恥ずかしくなって、顔が熱くなる思いだった。メグが変なこと言うからだぞ、とそんな事を考えていると

「でも、僕、絵は全然描けないよ?」

 と、心配そうに彼はそう答えてきた。少しだけそう言われるかもしれないという予想はしていたので、私は、それは心配いらないという表情で、

「でも、字は上手いよね、字をお願いしたい!」

 と、努めて明るい表情を作って、安心してもらえるようにそう答えた。


 彼は、少しの間迷っているようにも見えたが、引き受けてくれた。

 みよっちが私の補足として、ポスターの作成期限と、もしかしたら当日使わないことになってしまうかもしれない旨を、説明してくれていた。

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