第二章

　小学六年生の夏、父親の転勤をきっかけに、私はこの町に引っ越して来ることになった。

　以前暮らしていた町と比（くら）べると、色々なものが小さく見えて、とても可愛い町というのが第一印象だった。

　町の所々から湯気が上がっていて、今まで嗅（か）いだことのない不思議な臭（にお）いが、町全体を覆（おお）っている。一般的にはいい臭（にお）いとは言えないのかもしれないけれど、私はそれほど嫌いではなく、どちらかというと好きと言っていい臭（にお）いだった。

　温泉が湧（わ）くこの町は、観光業が中心となっているようで、街並みも情緒（じょうちょ）溢（あふ）れた古めかしい印象で、何となく心が落ち着く感じがした。

　私は、夏休み明けの二学期から、この町の小学校に転入（てんにゅう）することになっている。とても不安だったけれど、この町の雰囲気はとても暖かみがあって、私の心を後押ししてくれているようだ。

「新しい友達、直ぐにできるかな……」

　引っ越しの荷物を積んだ、父の運転する車の後部座席から、流れる景色を眺（なが）めつつ、そっと小さく呟（つぶや）いた。

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）

新規登録で充実の読書を

マイページ: 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる; 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める; フォローしたユーザーの活動を追える
通知: 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴: 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい