第63話 弾丸装填式機械杖


「あら、ミリアさん。今日は皆揃って早く寝るかと思っていたのに」


「すみませんローズさん、色々と聞きたい事がありまして。それに、昼間の件も中途半端で終わってしまいましたので」


 パーティの皆が寝静まった頃、リビングへと戻って来てみれば。

 やはり、この人だけは起きていた。

 以前同様、お酒を嗜みながらのんびりと寛いでいる御様子。


「貴女の魔法と、杖の事ね。それから聞きたい事っていうのは……アリスの事かしら?」


「はい、その通りです。とはいっても、アリスからも話は聞きました。その上で、疑問がいくつか」


「フフッ、相変わらず勉強熱心ね。杖を持って、一緒にいらっしゃい? 授業の時間よ」


 テーブルの上にグラスを置き、席を立ちあがった彼女は玄関に向かって歩き出した。

 何処へ行くのかと思いながらついて行けば、彼女はそのまま森の中へと入っていくではないか。


「あの、この時間に森……ですか? 流石に危険では?」


「多分こっちの方が“見やすい”から。魔獣に関しては問題ないわよ? 皆が来てから、周囲は使い魔で徹底的に潰しておいたから」


 あ、はい。

 この人が殲滅したって言うのなら、多分問題はないのだろう。

 そんな事を思いながらしばらく森の中を歩き、辿り着いた先には。

 月明かりに照らされた泉があった。

 そこまで大きくはないが、まるで森の中にぽっかりと空いた神秘的な空間の様。


「簡単に説明するわね。精霊使い、つまりエレメンタルマスターなんて存在はお伽噺だと言われている。確かにその通り、しっかりとした存在として認められていないから。でも実際に精霊に力を借りて術を行使する者は存在するのよ?」


「えっと……」


「気が付いていないのなら、何か魔法を使ってみなさいな。特に最近教わっている“昔ながら”のやり方で。ココなきっと、良く視えるわ。一種の“聖域”とも言われる場所だから」


 そう言う彼女は、ホラホラと急かして来た。

 急に魔法を使え、と言われても……何をしたら良いのか。

 よく理解出来ず、とりあえず言われた通りの方法で水の玉を上空に作り出した。

 詠唱も必要無い祈りに近い魔術。

 エルフ先生から教わっている、私の新しい力。

 その程度の認識だったそれが。


「あれ?」


「気が付いた? ソレが“精霊”と呼ばれる存在よ。普通はとても小さい子供にしか懐かず、力も貸さない。でも稀に、大人になっても彼等が力を貸してくれる存在が居るの。それを精霊術師、またはエレメンタルマスターなんて呼んだりするのよ? 今は少しだけ、環境と私の力で見えやすくしているけどね?」


 私はいつも通り、水を発生させただけ。

 だというのに、作りだしたソレの周りに……何やらキラキラしたモノが纏わりついているのだ。

 こんな光景、初めて見た。

 此方が何か特別な魔術でも使わない限り、こんな光は発生しない筈。

 だって私はただ、水を作り出しただけなんだから。


「精霊に気に入られた存在が使う魔術は、普通のそれとは比べ物にならない程の効果を発揮する。精霊を理解し、共存しようと心掛けないとそっぽ向かれちゃうけど。でも貴女は、恐らく無意識にソレが出来ているの。では何故こういう存在が露見しないか、答えは簡単。見えない人には、いくら説明しても理解出来ないから。カリムだってそう、アイツには精霊が見えないからこそ、コレをただ“才能の違い”という言葉で片付ける」


 続く言葉に唖然としながら、今一度私の作り出した水の玉を観察するが……やはり、キラキラした物体が揺れ動いている。

 な、なんだこりゃぁ……いや、精霊って話か。

 もしかしてアリスが言っていたのは、コレの事なのか?

 普段からアイツには、私の魔法がこう見えていた?

 でもガウルだって似た様な事を言っていたし、何よりアリスは「お婆ちゃん以外に見たことが無い」的な事を言っていたのだ。

 と、言う事は?


「あの、もしかして……ローズさんも“精霊術師”だったりします?」


「大正解。私が魔女にまで上り詰めた原因の一つ、それはエレメンタルマスターだったから。普通は大人になるにつれて精霊は見えなくなるし、力も貸してくれなくなる。私達の様な存在は、傍から見ればただの才能ある魔術師にしか見えない。だから精霊使いはお伽噺の様に語られる」


「わ、私は才能があるって程ではない気がするんですけど……それから、アリスとガウルも精霊使いって事になるんですか? 二人共見えているみたいですけど」


「それはちょっと違うかしらねぇ」


 その後ローズさんから説明された内容によると、どうやら二人は“目が良い”だけ。

 アリスに関しては魔女の血の影響もあって、一応精霊が反応するらしいが“使う”という程ではないらしい。

 ガウルに関しては、本当に才能と言って良いモノだったらしい。

 エレメンタルマスターは、精霊に力を貸してもらう……いわば祝福の様なモノを受けられる存在だという。

 あの二人は、見えはするが行使する事は出来ない。

 しかしながら私が使った“昔ながら”の術には、ココに居る精霊たちが随分反応していたのだとか。

 大人になるにつれて見えなくなる精霊、未だに見えている二人は未だに精神年齢が……って話になりかねないが、そこら辺は気にしない事にしよう。


「まぁ普通より強力な術が使えて、他の人と工程が違う程度の認識で構わないんだけどね? いつまで精霊が力を貸してくれるのかはその人次第、だからこそ……今回の武器はちょっと失敗だったかなぁって」


「えぇと、どう言う事でしょう? 昼間もそんな事言ってましたよね?」


 言っている意味が良く分からず、首を傾げながらローズさんに視線を向けてみれば。

 彼女のバッグからは、何かとんでもない代物が引きずり出されたではないか。


「弾丸装填式機械杖、設計者は“マジカルなんとか”って言っていたけど……語っている時のテンションが気持ち悪くて却下したわ。なので、単純に“ブラックワンド”って名称に落ち着いた」


 何か凄いのが出て来た。

 いや以前設計図は見せてもらった事があったが、前見た時よりもゴツくなっている。

 なにアレ、本当に杖?

 確かに魔術師が使う杖の様な形状はしているが、とにかく派手。

 もはや煌びやかな槍かな? と思う程先っぽは尖っているし、持ち手部分にもしっかりグリップが付いている。

 更に言うなら、補助の持ち手? みたいな物体が飛び出しているのだが、アレは何だ。

 などと思いつつ、ジッと見つめていると。

 その補助の持ち手部分を、ローズさんが引っこ抜いたではないか。

 取れちゃったよ、良いのかソレで。


「ココに、ミリアさんが今まで溜めていた弾丸を入れて貰って。最大八発まで入るから。マガジンって言うらしいわ」


「あ、あぁ~……装填式ってそう言う事ですか」


「それを詰めてから、杖に戻し。この部分をジャコッと前後に動かして」


「エターニアの銃の拡散式みたいな……」


「相手に向けて、引き金を引く。使い終わった弾丸はココから排莢されるけど、もう一度魔力を溜めれば再利用出来るから」


 待て、それは杖なのか? 銃じゃないのか?

 色々突っ込みたくなったが、彼女は気にすることなく引き金を引くと……カチンッと音はしたが、コレといって何も起こらない。

 まぁ弾丸を入れてないから、当たり前かもしれないが。


「こうする事によって、弾丸に溜めた魔力が放射されるわ。どういう形で放出するかはミリアさん次第だから、安心してね?」


「あ、はい……いや、え? あの弾丸って、一発でも結構魔力注ぎましたけど。それが全部放射されるんですか?」


「制限を掛けなければ、そうなるわ。軽い気持ちで人に向けない様にね? 多分相手は死んじゃうから」


「なんてモノ作ってるんですか!?」


「一応普通の杖としても効果は発揮するわよ? 勿論私が付与も掛けておいたから、威力の上乗せとか色々効果もあるし」


「危険物過ぎませんか!?」


 思わず突っ込んでしまった私に対し、ローズさんはケラケラ笑いながら杖を差し出して来た。

 頬をヒクヒクさせながら受け取ってみるものの……意外や意外、この杖結構軽い。

 とにかく弾を込める、ジャコッてやって引き金を引く、相手は死ぬって事で良いらしい。

 なんだこの危険物。

 街中に持ち込んで良い代物なのか?


「でもこういうカラクリばかりの武装を使っていると、精霊が嫌がるから。普段は今の杖を使った方が良いわね」


「こっちの杖はダッグスさんから間接的にお預かりした物ですから、ローズさんにお返ししようかと思っていたんですが……」


「あげるわよ、お古で申し訳ないけど。それも私が使っていた装備だから、精霊も寄って来るわよ?」


「ド、ドウモ……」


 予想はしていたが、ヤバイブツと一緒に預かっていた杖も貰ってしまった。

 やっぱり魔女、怖い。

 今使わせてもらっている杖でさえ高価だろうに、更に意味の分からない機械杖さえも平気で渡して来るのだ。

 私はいったい、どうやって恩返しをしたら良いのだろう。

 金銭は、受け取ってくれなそうだしなぁ……払える気もしないけど。

 なんかもう、ありがたいけど申し訳なさの方が物凄く強いんですが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る