第48話 強襲、連射


「実際、どうなんだ」


「何がですの? ガウル」


 彼の背中に隠れながら、時々飛び出して相手に反撃を試みるが。

 やはり、上級生と言うべきか。

 前衛二人は非常に綺麗に此方の魔法を防いでいる。

 道具も優秀な盾に、武装に付与された魔術に加え防御魔法。

 とても綺麗だ、という他無い。

 まさに完璧な盾役、アレは並みの術師なら貫けまい。


「抜けるのか? アレを。術師の攻撃は俺が防ぐが、向こうの防御が鉄壁だ。流石は先輩方、だな」


「関心している場合じゃないですわよ」


「だな」


 エルフの先生は、私やアリスの攻撃力“だけ”なら頭一つ飛びぬけているだなんて言っていた。

 しかしながらソレは、数字の世界。

 机の上で計算する上での戦力数値。

 でも実戦では全く違う。

 いくら授業で成績を残そうとビビッて動けない戦士に価値は無いし、混乱して術を行使出来ない術師は極潰し。

 つまり、実績こそ全て。

 なら、やれ。

 私はソレを求めているのだから。


「相手の防御を抜けるかどうかでしたわね?」


「あぁ」


 短く答える彼は集中しながら相手の攻撃を防ぎ、此方も完璧にタンクの仕事をこなしていた。

 なら私も、それ相応の態度と成果で返さなければ。

 それこそ、仲間達から笑われてしまう。

 というか、このままでは泥仕合になってしまうのだから。

 隣で必死に術を行使し続けているリーダーは、完全に此方の戦闘は私達に任せ自分の仕事に集中しているのか。

 もはや視線さえこっちには向けて来ない。

 だったら、いつまでもこちら側の試合を長引かせる訳にもいくまい。


「本来なら、“不可能”だと言う所でしょうね。相手の防御魔法は、我々の数段上を行っております」


「では、時間を稼ぐしかないか」


 それだけ言って、彼は防御に集中し始めるが。

 納得するな、馬鹿!

 少々私を見くびり過ぎというモノだ。


「私なら、やれますわ」


「ほぉ?」


「私なら、あの防御を突破出来ますわ!」


 それだけ言ってから、武器に装備を取り付けた。

 遠距離用装備、本来今の距離なら必要のないソレだが。


「本気で行きます。こんな所で、躓いていられませんから」


 此方は術師で、私の得意分野は大火力の攻撃魔法。

 そして今使っている武器なら、以前よりずっと攻撃の精度も上がっている。

 もっと言うなら、この組み換え式の追加装備の数々。

 正式名称が無い為、連射式、拡散式、狙撃式なんて呼んではいるが。

 銃身に装備する事で、様々な形に化ける。

 本当にコレを作った人たちは天才だ。

 同じ攻撃一つでも、いくつもの新たな可能性を生み出せるのだから。


「崩します!」


 長くなった銃身を支えながら、相手向かって攻撃を放ってみれば。


「嘘だろ!? 抜けて来たぞ!」


 相手の防壁を突き抜け、構えていた盾に正面から着弾する。

 “狙撃式”に切り替えた影響で威力は上がり、更には以前より小さな一点に攻撃を集中出来る様になったのだ。

 しかも攻撃力は、エルフの先生が認めてくれている程のモノ。

 大盾のど真ん中はヘコみ、衝撃を受けきれなかった相手は後方に尻餅を着く形で倒れ込んだ。


「ガウル! 前進しますわ!」


「承知した!」


 今まで互いに守り、術師が攻撃を繰り出すだけだった戦闘に起きた確かな変化。

 とは言えまだ撃退した訳でも、盾役を一人潰した訳でもない。

 先程攻撃を受けた彼も再び立ち上がり、もう一度防壁を張り直すが。


「合図と同時に飛び込みますわよ。前衛は無視して、一気に術師の元へと駆けこんでくださいな」


「相手の防壁は?」


「合図した時には、もう存在しませんわ」


 此方が接近した事により、相手も本腰を入れて来たのか。

 攻撃はより激しさを増し、盾役も魔術防壁を更に厚い物へと変化させているのが分かる。

 前衛は物理的な防御と術による防御を駆使し、術師は仲間に合わせて防壁の隙間を縫って攻撃を仕掛けていた。

 しかもスイッチが上手い、本当に絶え間なく攻撃が襲って来る。

 私達も、いずれはこういう戦い方が出来る様になりたいものだ。

 今は完全に尖った個性を振り回し、ミリアがソレに手綱を付けているような状態。

 いつまでもこのままでは、いつか通用しなくなる時が来る。

 それは分かっているのだが、今はコレしか私達には出来ない。

 だったら出来る事を全力でやる、ソレだけだ。


「カウント! 5、4、3――」


 こんな大声を上げれば、相手にも此方が何か仕掛けて来ると伝えている様なモノ。

 しかしながら、私が出した合図はガウルが動き始めるタイミングでしかないのだ。

 その為此方は合図よりも先に彼の背中から飛び出し、前衛二人に向かって“狙撃式”で高火力を叩き込めば。


「くっそ! またかっ!」


「おいおいおい! 本当に一年か!? 防壁も盾も抜いて来るじゃねぇか!」


 先程よりも魔力を込めた攻撃は、相手の魔力防壁と共に盾の一部も砕いて見せた。

 貫通して相手に風穴が空く様な事は無い様にしたが、まだ新しい武器に慣れておらず調整が難しい。

 が、しかし。

 間違い無く、前衛二人を一時的に崩したのは確かだ。


「2、1……ガウル!」


「ウオォォォ!」


 合図と共に彼は駆け出し、倒れ込んだ前衛を飛び越え一気に術師に向かっていく。

 盾役を無視して後衛を攻めた事に驚いたのか、慌てて対処を始めるが。


「遅い!」


 ガウルは構えた盾をそのままに、走り込む勢いを乗せて術師二人に激突してみせた。

 傍から見れば、とても恐ろしい光景。

 まるで馬車に轢かれたのかと言う勢いで相手は吹っ飛び、地面に落下してからも結構な距離を転がっていったのだから。

 とは言え教師の防御魔法のお陰で致命傷には至らず、会場の端っこでゲホゲホと咳き込んでいた。


「やってくれる……だが術師をこっちに残して行ったのは失敗だな、後輩」


「おいおい、もう一人なんか初期位置に放置してるじゃねぇか。前衛がそれは、ちょっと関心しねぇな」


 盾役二人が起き上がり、ガウルに向かってニッと口元を吊り上げる

 防御を抜かれただけであり、降参するまでには至っていなかった前衛は改めて此方に視線を向けて来るが。


「どの辺りが“失敗”なのか、理解しかねますわね」


「「え?」」


 “拡散式”へと組み替えた銃を構えて、ガシャコッとレバーを動かしてから笑みを向けてみれば。

 珍しい武器だという事と、此方の態度に先輩方はヒクヒクと頬を引きつらせた。

 そんな彼等に、ニコッと令嬢らしく微笑んでから。


「ごめんあそばせ、先輩方」


 かなりの至近距離で引き金を引き絞り、すぐさま持ち手をガシャッと前後に動かした。

 そのまま、連射。

 やはりこの武器は良い。

 詠唱の間も、こうして絶え間なく攻撃出来るのだから。


「待て、待て! なんだこの術師!?」


「実弾の銃でもここまで連射出来る物なんて無かった筈だぞ!? 無詠唱魔法か!?」


 もはや地獄絵図と言って良いだろう。

 魔術防壁を張る暇もなく、身を小さくして盾でどうにか身を守る先輩方。

 それに対してひたすら笑顔で引き金を引く令嬢。

 傍か見たら、先程のガウルの戦闘よりも酷い光景になっているかもしれない。


「降参、して頂けますか? そうでないと、私は攻撃を止める訳にはいきませんので。そろそろ盾も限界の様にお見受けいたしますが……その身でこの攻撃を受けとめる覚悟がおありなのかしら? 流石、殿方は逞しいですわね」


 ガシャコ、ズドン、ガシャコ、ズドンという単調な音が鳴り響く中。

 お二人に対しそういう提案をしてみれば、相手は随分と慌てた声を上げ始めた。


「待て! 撃つのを止めろ! 降参する! だから止めてくれ!」


「勘弁してくれ! やってられるか!」


 という訳で銃撃を止めてみれば、二人は盾を投げ捨て両手を上げた。

 これで、此方は片付いた。

 ふぅと息を溢してから拡散式の銃を肩に掛け、残る仲間達へと視線を向けてみれば。


「あちらも、心配なさそうですわね」


「あぁ、あの二人だからな。とにかく、お疲れ様、だ」


 戻って来たガウルと拳を合わせ、集中し過ぎてピクリとも動かないミリアの元へと戻って行く。

 問題はないとは思うが、一応援護の準備だけはしておいた方が良いだろう。

 とはいえ。


「あまり下手に近付くと、此方が怪我をしそうですわね」


「もう相手はミリアの術中にはまっている。下手に手を出すなと言われてしまっているしな」


 そんな訳で、私達二人はリーダーを守りながらアリスの戦闘を眺めるのであった。

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