第47話 力比べ
「まずはしっかりと会場まで足を運んだ事を褒めようではないか、良く逃げなかった! 俺は嬉しいぞ!」
会場に向かってみれば、部隊とも呼べる人数を揃えた上級生が待っていた。
両手を広げ、大袈裟なアピールをしつつ観客を沸き立たせている。
学生同士の試合だというのに、豪儀なものだ。
これだから貴族は、なんて事を思いながらケッと顔を歪めてみれば。
「おやおや、決戦の場に上がると言うのに礼儀の無い平民も居たものだ。君は試合の作法を知らないのかい? 例えどんな相手でも敬意を払い、礼を尽くすべきだ……少しは弁えたまえ。君の武器は、まさかその態度の悪さだとは言わないのだろう?」
その決戦の場とやらに到着した私達に対し、というか私に向かって。
彼は溜息を溢しながらペコッとお辞儀をかまして来た。
あぁくそ、腹立つなぁコイツ。
物凄く自信満々の態度、マジで御貴族様って感じ。
でもまぁ、言っている事は間違ってないのだが。
「ミリア、気にしないで下さいませ。彼の言葉と態度を真に受けていると、ハッキリ言って疲れます。貴族でも平民でも、あぁやって煽った様な態度を取り、初手から本気を出させようとしますの」
「相手は、全力でぶつかる事を望んでいる。ならば此方も答えてやれば良いだけだ」
舌打ちを溢す私に対し、エターニアとガウルが肩に手を乗せ宥めて来る。
分かってる、分かってるんだけど。
こう、何。
さぁ掛かって来たまえ! みたいに薄ら笑いを浮かべられると、なかなか頭に来るというか。
「両者、準備は良いな?」
今回の試合の立ち合いとして私達の間に立ったのは、なんとエルフ先生。
その鋭い眼差しは真っすぐ此方を見つめ、“落ち着け”とでも言っているかの様。
彼の瞳を見つめてから、思い切り息を吸い込んだ。
私にとって、彼はある意味師匠みたいな存在だ。
特別授業だなんて言って、様々な事を教えてくれるし。
今まで知り得なかった過去の術式まで教えてくれる。
間違い無く彼のお陰で、私の出来る事が広がったのは確かだ。
そんな人がこの場に立ってなお、此方に厳しい視線を向けて来ている。
つまりは、“今のままでは負ける”と言いたいのだろう。
なら、冷静になれ。
いつも以上に頭を使って、皆を使って。
この試合を勝利で終わらせろ。
その為には。
「アリス、いいわね?」
「いつでも良いよ、ミリア」
ニッと口元を吊り上げる相棒は、今にも飛び出しそうな姿勢のまま此方に笑みを向けて来た。
よし、行ける。
試合前に幾つも作戦を立てた。
でもどれも上手く行く気がしなくて、結局は一番荒っぽい作戦を決行する事にした。
速攻、短時間での攻略。
そんでもって……正当法では攻めない、とにかく意表を突く。
相手の土俵に立つ前に、場を荒らし尽くす。
「準備が整った様だな。では……始めっ!」
エルフ先生が試合開始を宣言した瞬間、ガウルは私達の正面で大盾を構え、エターニアはその後ろで銃を構える。
そして。
「では! 始めようではないか! お前達、全 力 攻 撃 だぁ!」
相手は楽しそうに宣言し、ズビシッと此方に掌を向けて来た。
更には前衛人も楽しそうに笑いながら、術師の射線を開けたまま待機している。
完全に舐められている、そう考えて良いのだろう。
そして、残る面々が此方に杖を構えた所で。
「撃たれる前に撃て! エターニア、連射式で応戦して!」
「了解ですわ!」
詠唱を必要としない彼女の銃が、相手の攻撃よりも先に牙を剥いた。
その結果向こうの術師数名が膝を折り、前衛は慌てて盾を構えて仲間達を守り始める。
速攻を主体としているパーティ相手に、それ以上の速度で攻められるのは流石に予想外だったらしい。
しかしリーダーがすぐさま指示を出し、守られた術師達は慌てた様子もなくそのまま詠唱を続けているが。
流石、この程度では連携を崩してはくれない様だ。
でも、それで良い。
「向こうの攻撃に合わせるわよ。こっちもガウルに隠れる以上、多分しばらく遠距離戦を続けると思ってくれる筈」
「あいあいさー!」
皆してガウルの後ろへと隠れた瞬間、正面からは幾多の魔法攻撃が襲い掛かってくる。
結構な威力と、更には攻撃班をスイッチしているのか。
ガウルの盾から、絶え間なくガツンガツンと凄い音が響き渡って来た所で。
「“ホワイトアウト”!」
周囲一面に、前回同様の猛吹雪を発生させた。
私の戦法は、アリスにブラックローダーを使ってもらい相手の魔術を殺してもらう事。
そこは変りなしと言っても良いのだが……わざわざ最初から全てを斬り裂いてもらう必要はない。
というか、数が多すぎてアリスでも一人抑えるのは流石に無理。
敵のパーティは術師による一斉攻撃で呆気なく対戦を終わらせたり、ソレでも生き残って来る面々をリーダーが単騎で相手したりと様々だったという。
つまり初手を生き残った面子は相手してやるという、自らが高火力を披露するのは強者だけという拘りでもあるのだろう。
という事で、初手から相手の条件を崩してやろう。
前回相手した“フロスト”が使っていた手だ、当然雇い主は対処出来る筈。
でもパーティの他の連中はどうか、試してみようじゃないか。
「アリスは上空から奇襲! 一気に懐に飛び込んで、可能な限り削って来て!」
「了っ解! まずは“大樹”ぶん回して来る!」
視界の悪くなった会場で、彼女は迷うことなく空に向かって飛び出して行った。
全く、大したものだ。
方向は分かるにしても、相手の正確な位置を掴むなんて相当な技術だろうに。
それでも、向こう側からは悲鳴が聞こえて来る。
それも、一人じゃない。
何人もの相手が、悲痛な声を上げているのだ。
どうやら殴り込みには成功したようだ。
「アリス撤退! 一度“見通し”を良くするわよ!」
「あいあいさー!」
指示の後、アリスが帰って来た事を確認してから術を止めてみれば。
やがて晴れていく吹雪の向こうに残っているのは、五人。
リーダーは勿論として、盾役が二人と術師が二人。
おぉっと、これはまた……予想以上の成果。
エターニアが最初に数名狩ってくれたのもあるが、ウチのアタッカーは随分と頑張って来てくれたみたいだ。
相手がまとまっていたから、余計に殴りやすかったのかもしれない。
「おぉ……やるじゃないか! 素晴らしい!」
「お眼鏡には敵いましたでしょうか。貴族様?」
クスッと笑いながらガウルの盾から身を乗り出してみれば、まだ残っていた術師がすぐさま此方に杖を向けるが。
「アリス」
「わかってますとも!」
吹雪が過ぎ去る前にブラックローダーに持ち替えたらしい彼女が、私に迫る魔術を叩き切って見せた。
正直、あんまり心臓に優しい光景では無かったが。
真っすぐ迫って来た光を、目の前でチェーンソーがぶった切りながら無力化するのだ。
むしろこの速度に反応出来るアリスがおかしい。
そんでもって、相手の術師もかなり強い。
術の発動は速いし、狙いも正確。
視界が役に立たない状態での強襲でなければ、こんなに早く殲滅出来る術師達ではなかったって事だ。
とはいえそんな表情は見せられないので、ニッと口元を吊り上げて表情を作っていれば。
「あらあら、アルバン……この程度の奇襲でパーティを半壊させてしまいますのね。“あえて”、貴方の使っていた使用人と同じ手で攻めましたのに。期待外れも良い所ですわ」
ココでエターニア嬢のお言葉。
パーティ表には私がリーダーと記載されているが、この発言によって実際は彼女が真のリーダーだ! 的に勘違いしてくれれば良いな、という程度であったが。
「フフ……やはり君の作戦か、エターニア。道理で此方の精鋭が呆気なくやられた訳だ。いやはや、流石としか言いようがないね。だが、次はそうは上手く行かないよ?」
どうやら相手は此方が思っていた以上の勘違いをしてくれた様で。
彼がそう宣言した事により、向こうのパーティも間違いなくエターニアに対する警戒心が増している。
正直に言おう、滅茶苦茶ありがたい。
コレなら彼女の婚約条件に対し、既に実績が残せた形になるのだ。
そして今の所はまだ、私があまり目立ってしまうのは避けておきたい。
「盾2、術2。それから、厄介なのが1か……」
「あの人、結構凄いよ。空から奇襲したのに、リーダーの人だけは確実にこっちに杖を向けて来た。攻撃されなかったのは、誤射を避けただけだと思う」
「うげ……てことは、あの人数になっちゃったらもう一度奇襲って訳にもいかないわね」
一応上手く事が運んだのは良いが、妙な形で残ってしまった。
あの暴風の中では、アリスも選り好みして“大樹”を叩きつけていた訳じゃないだろうし。
後衛がほぼ壊滅状態なのは良いが……相手がバランスよく残ってしまっているので、攻めづらいし守り辛い。
加えて、ここからはリーダーの大火力も登場する事だろう。
出来ればソレを使われる前に、周りを潰すかバランスを崩しておきたかったのだが……。
「皆、作戦2に移行。分断するわよ」
こうなった以上、まともに集団戦をやっても勝ち目はない。
そして二度目の奇襲は、間違いなく対応されると思って良い。
だったら、最高火力で攻めつつ“反応出来る奴”だけをあの集団から引っこ抜く。
「行くわよ! “ホワイトアウト”!」
「またそれか……流石に何度も同じ手が通用するとは思わないで欲しいな」
案の定、吹雪の中から相手の攻撃魔法が此方に突っ込んで来た。
ソレをガウルに防いでもらい、私達は一斉に会場をグルッと回る様にして走り出した。
その際エターニアに攻撃してもらい、此方の位置を教え続ける。
「ミリア! アルバンが魔法を使い始めましたわ!」
その声に反応して視線を向けてみれば、吹雪の向こうに光り輝く“何か”が見えた。
アレが、彼が使うという光の刃を作り出す魔法。
今は上空に停止する様にして、こちらに切っ先を向けている様だが。
いやいやいや、デカすぎるでしょ。
あんなのを一閃されたら、中距離に居る人間が全て巻き込まれてしまいそうだ。
ちょっと私の想像していた物より、随分と高火力の攻撃魔術だったらしい。
「そこに居るのだろう? さぁ、コレも防げるかな?」
そんな声が聞こえて来て、恐ろしい程巨大な刃が動き出そうとしたその時。
会場内にけたたましいブラックローダーの音が響き渡った。
ただし、私達が居る方向とは逆の方角から。
「後ろだと!?」
随分と驚いた声が聞こえたと同時に吹雪を止める。
そして視界を遮るモノが無くなってみれば。
「これは……どういうつもりだい? 挟み撃ちにしたかったのなら、視界を奪ったまま攻撃すれば良かったものを」
「いやぁ、後ろから攻めても先輩には対処されちゃいそうだったので。それに地面に下りちゃうと、エターニアの攻撃に巻き込まれちゃうので」
ヘッヘッヘと笑うアリスが単騎で相手の背後に回り、大剣状態のブラックローダーを担いでいた。
とはいえ、彼女の言う通り誤射を防ぐ為上空に立っている状態だが。
そんなアリスに向けて、相手パーティの術師が慌てて杖を向け始める。
「させるな! こっちも攻撃開始!」
エターニアが連射式を使い、相手パーティの注意を引く。
この状況でも、向こうのリーダーが冷静にコッチの三人を狙ってきたら詰み。
とはいえそんな事をしていれば、背後からアリスが襲い掛かる。
さて、完全に向こうの出方次第でこれからの行動が変わって来る訳だが……はたして。
「各員、いつも通りの戦術で三名を相手にしろ。術師の数は同じ、しかし此方は盾が二枚だ。抜かれる事はないだろう。そして後ろの少女は……俺だけで相手する。そういう“作戦”なんだろう? では乗ってやろうではないか、君達の実力を見せてくれ」
流石、自信家な上に戦闘狂。
此方の最も欲しい状況を理解して、あえて乗っかって来てくれるらしい。
本物の戦場ではこんな事はしないだろうが、あくまで“試合”を楽しむつもりみたいだ。
「さって、そんじゃ二人共頼むわよ。“二対四”で、お願いね」
「了解ですわ。そっちは“二対一”なのですから、手早く終わらせてくださいませ」
と言う事で、私はガウルに隠れながらアリスのサポートをさせて頂こう。
一見すればアリスだけを孤立させた様に見えるだろうが、生憎とアイツ一人に任せきりにするほど、薄情でも自信家でもないのだ。
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