第40話 思ってたのと違う


「両パーティ、前へ!」


「待ってました!」


 早くもやって来た私達の出番。

 ちょっとだけ緊張しながら、皆と一緒に会場へと踏み入れてみれば。


「見るのとその場に立つのでは、やはり違うな」


「あら、珍しく怖気づいていますの? ガウル」


 ガウルの声に、エターニアが笑いながら煽っていた。

 あの二人も、結構仲良いよね。

 というか、ウチのパーティは基本的に皆仲が良い。

 私が望んでいた学生生活。

 仲の良い友達を作って、何をするにしても皆で楽しむ。

 それはもう、叶ってしまっているのだろう。

 そんな訳でニコニコしながらミリアへと振り返ってみれば。


「何よ、アリス。私程度じゃガチガチに緊張して役に立たないかも、とか思ってた訳?」


「ううん、そんな事思ってないよ~ミリアは凄いもん」


 いつも以上にキリッとした様子の彼女が、会場に鋭い視線を向けていた。

 確かに緊張はしているのだろうが、それ以上に闘争心が勝っているかの様。

 さっすが、リーダー。

 思わずミリアに抱き着いて、褒め称えてあげようかと思っていれば。


「おや、隣のクラスの。エターニア嬢に引率して頂いて結果を残しているだけの、寄せ集めパーティですか」


 正面に立っていたのは、六人組のパーティ。

 見たことが無い人達なので、違うクラスの同級生みたいだ。

 でも何と言うか……凄い。

 こう、お金持ち~って感じのする武装や装飾にその身を固めている。

 先頭に立っている男子が、リーダーなのだろうか?

 何か金ぴかな銃を持って、長い前髪をファッサファッサと指で流している。

 そんなに邪魔なら切れば良いのに。


「皆さん、警戒すべきはエターニア嬢。その他は寄せ集めです。何やら珍しい道具を使う前衛が居るようですが、接近させなければ良いだけです。いつも通り行きますよ?」


 おぉ、凄い。

 相手が作戦を目の前で話し始めた。

 でも確かに見た感じ術師が多そうだし、皆良い装備を使っている。

 前衛も居るには居るが、多分攻撃役というより防御に重きを置いているのだろう。

 妙に豪華なデッカイ盾を持っているのが一人居る。

 と、言う事で。

 向こうは基本遠距離からの魔術戦特化という事で良さそうだ。


「両パーティとも準備は良いな? それでは、始め!」


 私達の間に入った教員が試合開始の合図をすると同時に、全員が武器を構えた。

 それなりに距離がある、全力で走っても相手の魔法攻撃の方が早いかも。

 何てことを考えていると。


「“プロテクション”!」


 相手は初手から防御を固めて来た様だ。

 多分術を使うまで、絶対に私達を近づけさせないつもりなのだろう。

 術師が多いなら、あぁいう戦法が絶え間なく出来る訳だ。

 では、どうするか。

 魔術防壁を避けて回り込むか、それとも正面からぶち破るか。

 指示を乞おうと、ミリアに視線を向けてみれば。


「エターニア、アレ貫ける?」


「正面から相手するのかしら? まぁ、抜けない事はないですわよ」


「んじゃ、やって」


 二人が、変な会話をしている。

 しかもエターニアの方は武器に長い装備を取りつけ、長距離用へと換装しているではないか。

 え、あの。

 もしかして、相手の土俵でそのまま戦うつもりなんでしょうか?


「でも、良いんですの? 彼等の言っていた内容からするに、他のクラスでは私以外の評価は低いみたいですわよ?」


「なら、それに便乗するまで。早い段階で手の内を晒したくないのよ」


「ま、リーダーの指示ですから従いますけど。知りませんわよ?」


 えらく気の抜けた会話の後、彼女は魔法を乱射し始めた。

 多分引き金を引けば魔弾が発射できるという機能を使っているのだろうが、それと並行して詠唱を唱えているではないか。

 結果として、相手は防壁を張ったものの常に攻撃を受け続けている状態。

 更には、これからエターニア自身の高火力魔法が飛んでいく訳で。


「駄目です! 防壁が破られます!」


「くそっ! 噂には聞いていたがこれ程とは……もう一度防壁を張り直し、攻撃が途絶えた瞬間に一斉攻撃――」


「そんな暇、あると思いますの?」


 エターニアによる大火力の魔法が発射され、魔術防壁は木っ端微塵となり。

 ついでと言わんばかりに、彼等の足元に着弾した魔法が派手に弾けた。

 会場に爆風が広がり、相手方は会場の外へと吹っ飛んでいくではないか。


「直撃させた訳ではありませんから、死にはしませんわ」


 そんな台詞と共に長い銃身を取り外し、手元に残った拳銃をクルクルと回しながらホルスターに納める彼女。

 いや、こっわ。

 ダッグスのおっちゃん、コレ絶対渡しちゃいけない人に不味い装備渡しちゃってるって。


「先生、私達の勝ち。という事でよろしいですよね?」


 クスッと教師に笑い掛けるミリアは、何だか悪役みたいな黒い笑みを浮かべているし。

 一瞬だけポカンとしていた先生も、慌てて私達のパーティに対して勝利宣言をしている。

 おっかしぃなぁ……思ってたのと違う。

 こう、学生同士バチバチに戦って、友情とか芽生えちゃう系のイベントだと思っていたのだけど。

 今目の前で行われたのは、初回の授業で鉄塊を相手にした時と大差ない気がする。

 そして前衛の私達、本当に何もしていない。


「ミリアぁ……」


「そんな目で見ないの、アンタ達の出番はもう少し先よ。今は針金お嬢様率いる寄せ集めって事にしておきなさい」


 不満の籠った瞳を向けた瞬間、相手からは頭をワシワシと撫でられてしまった。

 まぁ、ミリアがそういうなら別に良いか。

 後で出番くれるって言ってるし。


「次は前に出て良い? ホラ、ガウルも出たいって言ってる」


「い、いや俺は別に……パーティの勝利は、喜ばしい」


「相手次第ね、指示があるまで大人しくしてなさい。さっきみたいな連中だったら、次もコレで行くわ。便利よね、目立つ高火力お嬢様。一手で終わるならこっちの実力を見せなくて済むわ」


「ミリア……貴女、私をデコイに使ってますわね? ほんっと、良い性格をしていますわ」


 皆揃ってぶつくさ言いながら、本日の対戦は終了したのであった。

 何度でも言うけど、思ってたのと違う!


 ※※※


「へぇ……エターニアも随分と面白いのと組んでるじゃないか」


「坊ちゃま、此方が他の面々の資料になります」


 使用人から資料を受け取り、一通り目を通してみれば。

 何ともまぁ、本当に面白い。

 脳筋のガウルに関しては、まぁ予想通り。

 彼女の事だ、前衛にもしっかりとした人間を使うだろうとは思っていた。

 そう言う意味で、ガウルは妥当。

 この国の貴族の中でも、彼は特に武闘派の一族と言って間違いないのだから。

 だがしかし、他の二人はどうだ。

 平民、まさかの平民と来たか。

 正直、意外だ。

 しかしながら、片方は初回の授業で“あの鉄塊”を斬り裂いた魔道具を使うらしい。

 どこからそんな物を拾って来たのか、そしていつまでその道具が使えるのか。

 魔道具とは、決して安くは無い消耗品が殆ど。

 それを持続的に用意、または修繕出来るならまだ良いが……相手は平民。

 金銭的な意味で、使い続けるのもいつか限界がくるだろう。

 その場限りの実力を見せた所で、結局はボロが出るのがオチだ。

 せめて俺と戦うまではその実力を持ったままで居て欲しいが、果たして。

 更には、最後の一人。

 特徴も何も無い、本当にただの民間人。

 見た目も、能力も平凡。

 コレといって目立ったところの無い、吐いて捨てる程居る様な術師。

 どうしてこの子と組んでいるんだ?

 それとも彼女だけで解決出来るから、仲間はどうでも良かったのか。

 または資料だけでは分からない特別な能力でも有しているのか。

 色々と疑問は湧くが、まぁ戦ってみれば分かる事だ。


「彼女がこの学園に入ると言い出さなければ、俺はもっと“お上品”な学園を選ばされていただろうな」


「坊ちゃまだけでも、名の有る学園に。そう旦那様も仰っていた筈ですが」


「おいおい勘弁してくれよ。せっかくなら“婚約者”と共に学園生活を送りたいじゃないか。とういう口実の元、俺はこの学園を楽しんでいるんだぞ? いいじゃないか、死をも恐れぬ学園生活。楽しくて仕方がない」


 エターニア、彼女は俺の婚約者。

 しかしながら、不思議な条件を付けて来るもので。

 自らよりも弱い相手と判断した場合には、即座に婚約を破棄する。

 彼女の御両親もびっくりする様な条件の元、俺と婚約を結んだ。

 そんな面白い条件を出す女は、初めてだった。

 傍から見れば、体の良い求婚除け。

 そのお陰で、彼女はあの歳でも見合いだ何だと煩わしいイベントが発生しない。

 だがしかし、要は俺の方が強いと証明すれば。

 彼女は俺の妻になる他無いと言う事だ。


「ハハッ、楽しくなって来た。彼女も昔と比べて、どれ程強くなっているのか。おい、教員に手回しは済んでいるんだろうな?」


「はい、もちろん。数回の試合を挟んだ後、エターニア様のパーティは私と当たります。その後、坊ちゃまのパーティへと挑む形になります」


「よろしい。その時こそ、エターニアと本気で戦える……じゃなかった、正式な妻になると言う事だものな。こう言う行事も、なかなか捨てたモノではない。なんたって男女関係なく全力で殴り合える……ではなく、婚姻に対して有利に働く」


「お坊ちゃま、欲望が漏れております。そんなに戦いたいのですか? 彼女と」


 吊り上がる口元を隠しながら、俺達は会場を後にした。

 待っていろ、エターニア。

 当人は自らの方が強いからと高を括っているのだろうが、はたしてどうなる事か。

 楽しみだ、楽しみで仕方ない。

 彼女程攻撃的で、実力を兼ね備えた令嬢は見たことが無い。

 だからこそ、一度本気で戦ってみたかったのだ。


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