第39話 皆で、楽しむために
学 園 祭!
そういってもおかしくないんじゃないかって程の熱気に会場が包まれている。
これだよ、こういうのを待っていた。
皆ウキウキしているし、ソワソワしている。
いっぱい人が居るのに、今だけはこのイベントに全員が目を向けている。
こんなの、お祭りでもない限り見る事は出来ないだろう。
しかも全員が同じ目的へと突っ走ろうとしているのだ。
ただひたすら、“勝利”へと。
「楽しい!」
「そうだな、間違いない」
「競い合う場は、良いモノですわね」
一言漏らしてみれば、皆が似た言葉を残してくれる。
やっぱり、学園は凄い。
何か良く分からないけど、とにかく盛り上がるイベントがいっぱいある。
それだけで、学生をしているという気分になる訳だが。
「私達の対戦相手は……一戦目は同級生だからどうにかなる、むしろそこでコケる様じゃやっていけない。二戦目以降、間違いなく上級生が来る。かなりギリギリの演出でもしない限りは、同級生同士でのマッチングはあり得ない。アリスにエターニア、ソレにガウルだって絶対評価される……そうなって来ると、二戦目の対策を立てる為に上級生の試合はなるべく見ておかないと……」
「えーと、ミリア?」
声を掛けてみたが、彼女は出場パーティの一覧を睨みながらブツブツと鋭い目で何かを呟いていた。
ど、どうしたんだろう……。
まぁ一度でも負けたら、ダッグスのおっちゃんから受け取った武装の修理代を払わされるというイベントが発生するのは確かだが。
何と言うか……今の彼女は、そうじゃないのだ。
お金の心配をして負けない様にしているというより、勝つ為にどうするべきかを今まで以上に考えている様な。
私だって勝ちたい、どうせ戦うのなら勝って次に進みたい。
それは同じなのだが。
「ミリア?」
「ごめんねアリス、ちょっと待って? 私二戦目の模索に忙しいから……」
そんな事を言いながら、彼女は資料から目を放してくれない。
そして目の前の会場では、今回の行事である試合が行われ始めたというのに。
ミリアは、一切そちらに目を向けていないのだ。
皆凄い。
驚く様なタイミングで魔術を発動させたり、ワァッと歓声が上がる程前衛が頑張って見せたり。
とても、とても胸が高鳴る奮闘をしているのだ。
だというのに。
「ミリア」
「だからもうちょっと待って、今忙しいの。私達が勝つ為には、私達と当たる可能性が上級生の情報が要る。この試合が終わったら、すぐ会場を移動して有力な人が居る所に――」
「ミリア!」
何か凄く追い詰められた感じで資料を睨むミリアに対して、バチンッと音が鳴る程に両頬に手を当てた。
そして、此方を向かせ。
「私達にとって、まずは一戦目が大事なんだよ? 二戦目を気にしてるけど、一戦目だって全力じゃないと駄目なんだよ? 皆、必死なんだよ?」
真正面から覗きこんで、そんな言葉を紡いでみれば。
彼女は、とても静かな眼差しを此方に向けて来て。
「それが、私達にとって大した障害じゃ無かったとしても。アンタは全力で相手をするの? 無駄な労力を惜しまず、先の事を考えず。ただ目の前に現れた敵を相手にするの? そんなんじゃ、いつか潰れるわよ?」
それだけ言って、冷たい瞳を此方に向けて来た。
思わずゾッとする様な、凄く遠くを見ている人の目をしていた。
でも、違うじゃん。
「私達はさ、学生だし。そういうの気にしなくて良くない? 難しい事を考えるのは、ずっと先。今は楽しもうよ」
「アンタは……そんなだから私が色々考えてんでしょうが! 私がリーダーよ、だから指示には――」
「従うよ、私達はミリアの指示に従う。でも、ミリアにも楽しんでほしいなって。私と一緒に、学園の行事で。ワーワー言いながら、あっちもコッチも忙しくて、楽しくて。そういうの、憧れてたからさ」
ニヘッと笑ってみれば、彼女は大きな溜息を溢しながら資料をグシャッと握り締めた。
そして資料を空に向かって投げ捨ててから。
「情報は戦の要。ソレを投げ捨てたって事は、こっちの実力で全て叩き潰す他無い。わかってんの? アンタは、この学園で誰よりも強い自信はあるの?」
物凄く鋭い目をしたミリアがそんな事を言って来るが。
正直、そんな自信は無い。
それでも。
「強くは無いかもしれない、私以上に強い人なんて五万と居る。でもミリアが隣に居てくれれば、負ける気はしないよ。もっというならガウルとエターニアも居る。だったら最強でしょ? タンクのガウルにアタッカーの私、後衛アタッカーのエターニアに全体補助のミリア。こんなバランスの良いパーティ無いよ、人数が少ないのに」
「それでも誰かミスしたり、対応出来ない事態に陥るかもしれないでしょう?」
ミリアはどこまでも真剣な眼差しを此方に向けて来る。
固いなぁなんて、思ったりはするが。
でも彼女は、どこまでも“勝つ”つもりでいるのだ。
だからこそ、ここまで真剣になっている。
「その時は、私がどうにかするよ」
「言葉だけじゃ保証にならないのよ? 分かってるんでしょ? 私達は、勝つしかないの。それに、勝ちたいと思っているのよ」
これまで以上の鋭い瞳が、此方を見つめているが。
あえて、表情を崩した。
「そんじゃ、私がミスった時はミリアにお願いするね?」
「……はぁ、アンタは。全く」
「仕方ないじゃん。私がヤバイって思った時、絶対助けてくれるのミリアだし」
「アンタのソレは作戦じゃなくて、臨機応変って言葉に当て嵌るの。分かってる? 私がどれだけ苦労してるか」
「分かってる。だからいつだって、凄いなぁって思ってるし尊敬してる。私はずっと、ミリアを頼りにしてるんだよ。私に出来ない事はミリアに任せる、でもミリアに出来ない事は私がやる」
ニカッと笑ってみれば、彼女は。
ニッと口元を吊り上げ、八重歯を見せる程の微笑を浮かべてから。
「アンタの馬鹿に付き合ってあげる。確かに、資料を読み漁って時間を使うより……美味しい物食べてぐっすり寝た方が、翌日良い魔法が使えるからね。でも、現場判断になるわよ? 良いわね?」
「普通そんなもんでしょ、全然オッケー!」
「ったくもう、一戦目からそれなりに全力で行くわよ。出し惜しみなし。相手に対策される事を承知の上で、喰い破るわよ」
「その方が絶対楽しいって!」
そんな訳で、私達は皆揃って戦闘を眺めるのであった。
学園に通う生徒、それらが互いに競い合う場。
皆の連携や、熟練度。
そう言った物は非常に勉強になるのは確かだが……如何せん、同級生の試合だと歯痒い気持ちの方が強い。
そういう意味合いも含め、私のパーティは異常なのだろう。
ミリアはもっと綺麗に魔法を使うし、判断も早い。
エターニアは学年トップを争う大火力だし、装備も特殊。
更に言うならガウルだって。
彼の前衛としての能力は、多分他の人を凌駕している。
比べるなら、上級生。
実際に何度も戦場を経験した様な人達と比べないと、比較対象が居ないと思える程力強いのだ。
つまり、私はパーティに恵まれている。
だからこそ、私だって頑張る必要がある。
今回の試合で、リーダーであるミリアがこんなに不安になってしまった要因。
それは未だに、パーティとしての経験が浅いという所にあるのだろう。
だったら、私達が彼女を安心させてやれば良い。
私達なら、絶対負けないという自信を植え付けてやれば良い。
その為には。
「ガウル。第一戦、絶対勝とうね」
「あぁ、後衛二人にも“余裕”があると見せてやらないとな」
隣に居たガウルと、拳を合わせるのであった。
これこそ、私達の役目。
後衛組に、安心と信頼を与える。
それが出来ない前衛は、ハッキリ言って居る意味が無い。
私達が居れば平気、私達が居れば勝てる。
思う存分、術が放てる。
そんな風に思って貰える環境を作るのが、前衛の仕事だ。
「もうすぐ、俺たちの試合だ」
「思う存分、暴れよう。私達だけでも平気だって思わせるくらい、心配掛けない様にしよう」
静かに言葉を交わしながら、私達は拳を離す。
だって本当に。
今時の前衛と言ったら、これくらいしか出来ないのだ。
摩訶不思議な力は出せないし、瞬間的な高火力は無い。
だからこそ、普段から見せつけるのだ。
前衛の存在意義を。
「速攻、即決、全力攻撃」
「その後は一旦退却。俺が守り、リーダーの指示を待つ。良いな?」
二人して、ニッと口元を歪めるのであった。
ミリアからは、「暑苦しいなぁ……」とか言われてしまったが。
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