第35話 新しい装備 2
「まずはデカいの、お前の体に合った武器を一通り見繕った」
「あ、ありがとうございます……」
ダッグスと名乗るドワーフは、大きなテーブルの上に様々な武器を用意してくれた。
その光景にガウルは少々引き気味だが、気持ちは分かる。
アリスほどじゃないが、そこまで体の大きくない私からすると……どれも巨大。
今まで彼が使っていた大斧が小さく見えるくらいに、ド派手でデカい刃が付いていたりするのだ。
短剣でも、まるで幅の広い大剣をぶった切って短くした様な見た目をしている。
「タンクの割に、盾を使わねぇみてぇだからな。これだけデカい刀身なら仲間を守るにはうってつけだろう?」
「は、はぁ……どれも随分と重そうですが」
「持ってみろ」
彼に促されるまま、ガウルが一番大きな大斧を手に取ってみると。
ポカンと口を開けたまま、ウチの盾役が硬直してしまったではないか。
「コレは……まさか」
「軽くて、硬い。良いだろう? コレ等は全部ミスリルの武器だ」
ミスリル。
その言葉を聞いた瞬間、意識が遠のきそうになった。
物凄く貴重な鉱石として知られており、値段だって目が飛び出る程高価。
そしてそれ等をしっかりと扱える鍛冶師は非常に少なく、これだけの武器を作れると言う事は相当な実力者と言う事。
そもそもロイヤルブラックスミスなんて称号を貰っているんだ、今更疑うつもりは無いが。
とはいえそんな武器の数々を目の前に出されては、正直触りたくもないという感想しか残らない。
落っことしたりしただけでも、私の財産なんて全部消し飛びそうなんだが……むしろ借金地獄か。
「全部持っていけ、戦術の幅を増やすんだろ? 貸してやるよ。あぁそれから、一応盾もな。ちゃんと練習してから本番に使えよ?」
はい、ここにもおかしい奴が一人。
ローズさんだけでは無く、彼もまた色々と感覚がバグっている様だ。
普通貸さないから、こんな武器。
本人も言っていた様に、武器とは道具。
使えば使うだけ消耗するから、借りたままの状態でお返し出来る訳が無い。
その修繕費だけでも、相当な額になる事だろう。
「い、いえ……流石にその」
「若いんだから遠慮するな。捨てた売っただの言わない限り、金はとらねぇよ。それに、こんなもん俺が試しで作った趣味のモンだからな。店には並べねぇ代物だよ」
そうじゃない、そう言うもんじゃない。
でもお金は取らないと言われて、私が胸を撫でおろしていれば。
彼は勝手にガウルのマジックバッグへ、次々と武器を放り込んで行くではないか。
続きまして。
「そっちのクルクルしたお嬢ちゃんは、魔道具として銃を使ってるって事だよな? 実弾が撃てねぇと不味いとかあるか?」
「いいえ、私は基本的に術師ですから。杖でも良かったのですが、銃の方が狙いを定めやすいのと、一点に威力が集中出来るという理由で使っていますわ。これでも、結構大火力で攻撃しますので」
先程銃のパーツを吹っ飛ばされた事を警戒しているのか、自らの武器はヒシッと胸に抱きながらちょっと距離を置いているエターニア。
彼女の前に出されたのは。
「コレは?」
「どっかの馬鹿が、俺に趣味を押し付けて作らせた一品だ。戦っている間にパーツを組み替えるのは、ロマンなんだとよ」
テーブルに置かれたのは、銀色の……銃、だと思うんだけど。
これまでに見た事の無い形をしている。
今まで彼女が使っていた物に比べれば、とても短い。
拳銃の様だけど……片手で持つには少々大きいサイズとも言える。
そしてやっぱりゴツイ、何だアレ。
一般的に売られている銃がただの筒に見えるくらいに、ゴテゴテしながらも細部まで拘って作られているのが分かった。
「元々は異世界のコル……何とかパイ……なんとかって銃のカスタムだそうだ。つっても中身まで細かく作ってある訳じゃ無く、外見だけだがな。だが、どっかの魔女がキレるレベルで色々と付与されてる」
そう言ってから、彼は武器の説明を始めた。
何でもこの武器は、構造としてはト引き金が引けて撃鉄が動くだけ。
作りは本当に玩具みたいな物なんだとか。
しかしながら、模様の様に彫ってある魔導回路と魔術付与が半端じゃないらしい。
当然今までエターニアが使っていた銃同様、杖と同じ様な役割を果たす上に。
引き金を引けば、とりあえず魔弾と呼ばれる射撃魔法が発動する。
使用者の魔力を勝手に吸い上げ、詠唱も無く、何も考える事なく、引き金を引けば銃そのものが魔法を発射するのだとか。
凄いには凄いが、それはどうなんだ? 普通に危なくない?
術師ではない人間でも、ポンポン攻撃が出来てしまう事になる。
とか思ってしまったのも束の間、設計者である“異世界人”曰く。
道具とは本来そんな物だと言っていたらしい。
流石に危険と判断したダッグスさんとローズさんが、コレの量産は却下したとの事だが。
とりあえず呪文を唱える時間も無い時は、相手に向けて引き金を引けと教えられていた。
「アリス。アンタはあの銃、絶対触っちゃ駄目だからね」
「だねぇ……触っただけでぶっ倒れそうだよ」
一応説明を聞いていたらしいアリスが、私の後ろに隠れながらエターニアの手にした銃をジトッと睨んでいた。
それで良い、間違ってもコイツには触らせない様にしないと。
自らが魔力を放出するのではなく、“勝手に吸われる”ってのが不味い。
どうなるか分かったもんじゃない。
「んで、だ。コイツの本領はソコだけじゃねぇ。さっき言ったように“組み換え”がしたかったんだと。とういう事で」
あの武器だけも相当な物だというのに、なんかまた次から次へと出て来るではないか。
しかもどれもこれも、先程の銃と合体するらしい。
「こっちの長いのを先端からガポッと嵌めると、ホレ。今までお前さんが使ってた得物と似た長さになるだろう? コレを付けていれば、放った魔法が霧散するまでの時間と距離が伸びる。そんでもって威力も上がる様に作られてる、魔力の消費量が変わるから気を付けろよ? 簡単に言うと遠距離からの攻撃用だな」
「は、はぁ……そんな事が出来る武器があるのですね」
「まぁ、そっちは魔女の管轄だから俺には詳しい事は分かんねぇけどな。それからコッチに替えてやると、何と放った魔法が複製された状態で広い範囲にぶちまける事が出来る」
「ぶ、物騒ですわね……」
「正面から大量の敵が来た時は、一気に殲滅出来るって訳だな。一回撃つごとに、この手を添える部分を前後にガシャッと動かす必要があるが……こっちは本当に設計した奴の趣味だ、どうして必要なのかは知らん。他には――」
その後もいくつかの部品を取り出し、次々とエターニアに渡してくドワーフ。
というかちょっと待て。
設計者が異世界人であり、ロイヤルブラックスミスのドワーフが作り。
魔女であるローズさんがキレる程魔術の付与を行った武器。
つまりそれって、アリスのブラックローダーと同じくらい高価な物なんじゃ……。
「ちなみに……お値段の程は? ガウルに渡したミスリル武器と違って、こちらは本当に壊してしまう可能性がありますわよね?」
「ぶっ壊れたならソレでも良いさ、どうせ世に出せねぇ武器だからな。だが、絶対に無くしたり盗まれたりするな。この術式を解読できる奴なんぞに渡れば、術師で無くても相手を魔法で殺せる武器が大量に生まれちまう。他人に触らせるな、それが条件だ。コイツをお前に渡した俺もそうだが、お前さんにも魔女の鉄槌が下るぞ?」
「ひぃぃ……」
そんなヤバイ代物なら、頼むからずっとしまっておいてくれ……とか思ったりもするが。
彼の表情を見れば分かる。
どうせ作ったのなら、使ってみたいのだろう。
やけに圧を放って来る癖に、ニヤニヤしながらエターニアが手にした武器を眺めているのだから。
「そんでもって、最後に嬢ちゃんの杖だが……」
「は、はいっ!」
最後の御指名という事もあって、背筋を伸ばして彼の前まで歩み寄ってみると。
ゴトッと、目の前に黒塗りの杖が置かれた。
あれ? 何か、私だけ凄く普通というか。
皆みたいにヤバそうな代物には見えないのだが。
確かに綺麗な黒色をしているし、何やら呪文が掛かれた布とか装飾とかついているが。
普通に、魔術師が使う杖に見える。
「お前さんが、ミリアだよな?」
「え、はい。そうですけど……」
「今作ってるから、もう少し待て。これはその繋ぎだ」
あぁぁぁ! 忘れたかった記憶が戻って来るぅぅ!
というか今作ってる最中かい! 今から中止をお願いしても良いですか!?
とはいえアリスに貰う宣言をしてしまった以上、あまりこの話題を引きずるのも良くないと分かっているのだが。
「あのぉ……頂くのは申し訳ないので、途中で作るのをやめて頂いたりとかは……」
「無理だな。設計図は既に届いてる上、こっちも作業を始めてる。それに今止めたら、魔女に小言を言われるのは俺だ。諦めろ、嬢ちゃん」
ですよね、分かってました。
でも一応、多少は? こっちの気持ちを理解してくれているらしいダッグスさんは、同情した瞳を此方に向けてくれた訳だが。
「ちなみにこの杖も、魔女のお古だ。アイツめ、新しいのを作ったからと言ってウチに忘れたまま、ずっと取りに来ない。返す時は魔女に渡してやってくれ」
「コレもとんでもない代物だったぁ……」
という事で、過去ローズさんが使っていたらしい代物を受け継いでしまった。
でもまだ新品を渡されるよりマシなのか? とか思ってしまった私を、自分で殴りたくなる。
あぁぁ……アリスの家と関わる程に、私の中金銭感覚と物の価値がバグっていく……。
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