第34話 新しい装備


「わりぃなぁ待たせちまって、好きなだけ見てってくれ。あぁそれから、別に触っても怒らねぇから好きに弄ってくんな」


 おっちゃんの長い長いお説教が終わり、私達は揃って工房へと連れて来られた。

 お店っぽいけど、普段は開けてない。

 単純に彼の趣味の家らしく、私が遊びに来ていたのは毎度この建物だった。

 特別な日にしか営業しないのかと思っていたのだが、本当にただの趣味だったと言う話は、本日初めて知ったが。


「ねぇおっちゃーん、どれがお勧めー?」


「どれもお勧めだぜぇ? と言いたい所だが、何が欲しいんだ? 聞いた感じだと、あの“玩具”の代用品って所だよな?」


 この人にとっては、ブラックローダーさえ玩具らしい。

 ちょっとショック、私の中で最高戦力なのに。


「そうなんだけど、今度の相手は同じ生徒だからさぁ……獣と同じって訳に行かないじゃん? だから、どうしようかなぁって。いっそ新しい武器にして、皆で連携組み直そうって話も出てるんだけど」


「そりゃまた難儀だな……そっちのでっかいの。お前は盾役か? どんな武器を使ってる」


 そんな訳で声を掛けられたガウルが、自らのバッグから大斧を取り出して彼に渡しているのだが……皆妙に緊張しているらしく、何かある度にペコペコしていた。

 エターニアだって同じような反応なのだ、きっとおっちゃんは凄い人だったのだろう。

 すげぇ。


「ふぅん……一応全員の武装を見せてもらえるか? 予備の武器まで全部な。あぁすまねぇ、俺は“ダッグス”。一応この国で、鍛冶屋の監督役みてぇな立場を貰ってるもんだ。まぁ、大袈裟なもんじゃねぇからよ。楽にしてくれ」


「初めまして、ミリアです」


「ガウルです」


「エターニアと申します……」


 皆、動きが硬い。

 そんでもって、彼の前の広いテーブルに次々と武装を並べていく訳だが。

 彼は、大きな溜息を吐いて装備を見つめていた。

 ガウルに関してはここ最近練習していた武装も並べたが、そっちに関してはテーブルの端にポイッと退かされてしまった程。

 更には、私のブラックローダーを手に取ってから。


「だぁめだこりゃ、話にならねぇ」


「ちなみに、何が駄目?」


「とりあえずアリス、お前はもうちょっと武器を大事に扱え。何斬ったらこんなに刃に負担を掛けるんだ、岩でも斬ったのか?」


「ゴーレムなら斬った、エルフ先生が召喚した奴。あとワーウルフも斬った」


 そう言った瞬間、思いっきり引っ叩かれた。

 脳天をベシーン! って。

 首が折れるかと思った……。


「ったく、お前は。あんなもんは普通魔法かハンマーで相手するもんだ、コレでやるなら身体強化同様に武器もしっかり保護してやれ。んでタンク、お前も駄目だ。力任せの癖が強すぎる、もう一度武術を見直せ」


「そ、そんな馬鹿な。身体強化だってかなり丁寧に――」


「そりゃ魔術の領分だ、俺には関係ない。ブッ叩いて斬れれば良い、それが斧。大正解だ。だがしかし、お前がもっと丁寧に扱ってりゃ……この斧はもっと長生き出来ただろうな」


 なんて事を言いながら、ダッグスのおっちゃんがガウルの斧をハンマーで軽く叩き始めてみれば。

 コンコンッ、コンコンッと続いたその先で。

 先程とは違う、妙な音を室内に響かせた。


「分かるか? 芯が曲がってる上に、ココに負荷が掛かり過ぎて金属疲労が溜まってる。こりゃ近い内に首元からポロッと折れるぞ。それから、さっき俺が端に退かした武器。話にならん、全部替えろ。おままごとに使う包丁みてぇなもんだ、折れるし零れるし厚さも均等じゃねぇ。あんまり安物使ってると、死ぬぞ?」


 彼の一言に、ガックリと膝をつくガウル。

 かなりのダメージを受けたらしく、なんか床に雫が零れていた。

 武闘派だもんね、ショックだったんだね。

 そんでもって術師二人の武器に目を向けてみれば。


「杖に関しては、正直専門外だからな。まずはこっちの銃だ……が。最近の子達はアレかい? 高い部品を使った玩具を見せびらかして楽しむお遊戯でも流行ってんのかい?」


「んなっ!? その銃は私の家がかなりの値段で買い付けた、特別な一品もので――」


「あらよっと」


「いやぁぁぁぁ!?」


 おっちゃんが適当に銃を操作した瞬間、なんかの部品が飛んで行った。

 本来出る筈の無い場所から、出る筈の無い部品の一部が。


「な、な、なぁぁぁ!?」


「わかんねぇか? 戦地に出て、もしも銃に攻撃を受けたらどうする? こんな風に、簡単に壊れちまうぜ? その後お前はどうやって戦う? その場で修理できるのか? その時間はあるのか? 銃ってのも武器だ、武器は消耗品だ。しかし銃は理解力を求められる、それが出来てるか? 出来てねぇだろ。もっと言うなら、こんな安物で戦うな。所々名士が作った部品が使われているが細かい所は安物、結局寄せ集めだ。まぁ、ある意味一品ものだな」


 今度はエターニアが撃沈した。

 床に膝をついたガウルと、もはや倒れ込んだエターニア。

 コレは酷い、酷すぎる。

 エターニアに関しては、目の前で武器を壊されてしまったのだ。

 流石にこの件に関しては物申してやろうと、眉を吊り上げて前に出てみれば。


「ホレ直ったぞ、これで元通り。言っただろう? 理解が必要になる武器だって」


 私の前には、エターニアの銃がデンッと置かれてしまった。

 さっき吹っ飛んだ部品も戻したらしく、正常に稼働する形で。

 わぁお、やっぱ職人すげぇ。

 結局何も言えぬまま、次なるミリアの杖の鑑定に移っている彼を見守っていると。


「う~む」


 彼は非常に難しい顔をしながら、ミリアの杖を眺めていた。

 もしかして、彼女の武器だけは謎だったり。

 隠れた秘蔵の一品だったりするのだろうか。

 そんな期待を胸に、ダッグスのおっちゃんを見つめていると。


「確かに、ソレっぽいが……すまん、悪い言い方をするぞ? どこで拾って来た、こんな木の枝」


 ソレを聞いた瞬間、ミリアが倒れた。


「ミリアァァァ!」


「あぁ、すまん。流石に言い過ぎたか……とはいえ、これはちょっと……」


 もはや死屍累々となってしまった皆を助け起こしながら、仲間の死を無駄にするまいとダッグスのおっちゃんを睨みつけると。


「アリス、てめぇはこの後説教だ。特殊な武器をこんな風に使いやがって。しかもこの傷、“暴走”しただろう? ソレを含め、話がある」


「……うっす」


 という訳で、私も戦意喪失するまでお説教を受ける事が決定した瞬間であった。

 新しい武器が貰えるかもとウキウキしていたのに、こんなのってないや。

 なんて思っていたのだが。


「安心しな、全部ウチで揃えてやるよ。お前の初めての仲間なんだろう? だったら、サービスしてやんねぇとな。俺はお前がこ~んな小せぇ時から知ってる上に、可愛がって来たんだ。これからも、武器で困った時は俺を頼れ」


「そんな小さい時からは見られてないよ……おっちゃん」


 やけにちっこい指先を作るダッグスのおっちゃんを見ながら、思わず呆れたため息が零れてしまった。

 この人、やっぱり他の人の武器を私に持たせるつもり無いみたいだ。


「とりあえずさぁ、作ってくれるって事で良いの? おっちゃん」


「いつも通りなのは期待すんな。設計図書く奴と、後で調整してくれる奴がこの場に居ねぇからな」


「つまり、適当?」


「おう、俺の“いつも通り”だ」


 そんな訳で、項垂れた皆の身体を採寸していくドワーフのおっちゃん。

 非常に奇妙な光景を見せられながら、彼はニッと口元を吊り上げて此方を振り返った。


「鍛冶屋ってのはな、一から作る事だけが仕事じゃねぇんだ。元から作ってあった物を提供するのだって、俺等の仕事なんだぜ?」


 それだけ言って、壁に飾ってあった大剣に対してグッと親指を向けるダッグス。

 武器というより、装飾品の様な見た目のソレに対して。


「え、嘘。アレ使って良いの!? 昔から飾ってある大剣じゃん!」


「お前も少しは身長が伸びた様だからなぁ、そろそろ振り回せるだろ」


 子供の頃から憧れていたソレに対し、思わず私は飛びついてしまうのであった。

 他の皆にも武器を用意してくれるみたいだし、ひとまず問題解決。

 と、言って良いのだろうか?

 が、しかし。


「アリス、駄目! 触るな! マジで触るな! それ絶対高い!」


「だってダッグスのおっちゃんが使って良いって言ってたし!」


「お前は物の価値ってもんを知らんのか! いくらすると思ってるの! どう見ても高いでしょ! 絶対ダメ!」


 急に復帰したミリアにだけは、必死で止められてしまうのであった。

 まぁ確かに、おっちゃんから許可貰った大剣物凄く高そうな見た目してるしね。

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