第33話 得物を探そう


「でっかい!」


「そうだな、コレを扱えるなら相当な威力になるはずだ」


 やけにデカい幅の双剣を手に、ちびっ子が喜んでいた。

 手に持っている武器は、非常に可愛くないが。

 というか前衛メンツが武器を変えるだけなら、私達付いて来る必要無かったんじゃ……。


「ねぇアリス、私達帰って良い? 術師が武器屋に居るの、妙に居心地悪いのよね」


「そんな事言わずに一緒に選んでよぉ!? なんかこう、凄そうなのとか一緒に探そうよぉ! 私もミリアが杖選ぶ時付き合うから!」


「いらんわ、一人でゆっくり選ぶわ。というか武器を選ぶ基準が子供かお前は」


 ズビシッとアリスの頭にチョップと叩き込んではみたが。

 チラリと視線を向けてみれば、やはり店側としてもあまり歓迎されていない様で。

 まぁ後衛組はローブ羽織ってるし、私の隣に居るお嬢様はアクセサリーギラギラだし。

 一目で術師と分かる見た目をしている事だろう。

 そんなのを二人も連れて、更には目的も定まっていない状態の前衛二人が商品をいじくりまわしているんだ。

 そりゃもう良い気持ちはしないだろう。

 もっと言うなら、前衛と見てもらえるか怪しいちびっ子が一番武器を弄り回してるので。


「あぁもう、アンタは端から触って行かないの。買わないモノには触れない、慣れない物触って怪我でもしたらどうするの」


「だって、持ってみないと分かんないよ? 重さとか、握り心地とか」


「いやソレは分かるんだけどさ」


 アリスはそこら中触るし、ガウルも彼女に合いそうな武器を持って来ては唸ってるし。

 これ、滅茶苦茶居心地悪い。

 とかなんとか思いながら、店員の視線に冷や汗を流していれば。


「お客さん、買わないならあんまり触って貰っちゃ困るよ。刃物ってのは、子供の玩具じゃないんだから。それに、人が触った後は手入れしなきゃいけないんだ。君等が触った武器どれくらいあるか分かってる? その作業代も請求しても良いんだよ?」


 ほらぁやっぱり、店員さんが険しい顔しながら近づいて来てしまったではないか。

 いやもうほんっとすみません、あとでよく言っておきますので。

 とりあえずペコペコと頭を下げて、誰よりも早く謝ろうとしてみると。


「ほぉ、面白れぇ冗談を言う様になったじゃねぇかこの店も。触れず、持たず、確かめず。それでどうやって武器を選べってんだ?」


 店の入口から、随分と低い男性の声が聞えて来た。

 そちらに視線を向けてみると……ドワーフだ。

 エルフもそうだったけど、ドワーフも初めて見た。

 恰幅が良くて、えらく太い腕。

 身長はそこまで高くないが、ゴツイ見た目と髭のせいで威圧感が凄い。

 そんな人が、腰に手を当てながら店員を睨んでいた。


「はぁ、今度は何だよ……って、あれ? 総監督!? いやでもコイツ等、買うつもりもないのにベタベタベタベタと……」


「その嬢ちゃん達が、買わねぇけど武器を触らせろとでも言ったのか? だったら追い出して良いな。んで、どうなんだい? 遊びで武器を見に来ただけか? アリス」


 へ?

 何かドワーフのおっちゃんが、ニカッと笑みを浮かべながらアリスの事名指ししたんだけど。

 そんでもって、呼ばれた相手はと言うと。


「“ダッグス”のおっちゃん! 久し振り! 挨拶行けなかったけど、ブラックローダーありがとね!」


 おいちょっと待て、今何と言った?

 ブラックローダーって言ったら、アリスが使っているあのチェーンソーだ。

 それに対して、ありがとう?

 つまり、あの武器を作ったのは。


「おう、良いって事よ。んで、今日はどうした? まさかもう壊しちまったんじゃねぇだろうな?」


「今度対人戦の試合があるから、新しい武器が欲しくて。ブラックローダーだと……そのぉ」


「あぁ、容赦なくぶっ殺しちまうから“手加減”出来る武器が欲しいって訳か。それこそウチに来れば良いものを……」


 なんか凄い事言ってる、二人共。

 とりあえず、アレか?

 話の流れからして、この人がアリスの武器を作った人で。

 更に言うなら、アレを作ったのはロイヤルブラックスミスな訳で。

 そんな人が、何故こんな下町の武器屋に足を運んでいるのかって話になるのだが。


「おいコラ! テメェの所の鍛冶師連れて来いや。視察に来てみれば、こんなチンケな武器ばかり作りやがって。しかも飾ってる武器に埃が溜まってんじゃねぇか! 教えたよなぁ? 武器って物の作り方と、保管の仕方。それから魅せ方ってやつをよぉ……」


「す、すみません! 埃に関しては、店番の俺等の失態です! 店長は悪くありません!」


「それを全部面倒見て、管理すんのが上に立つ人間なんだよ! グダグダ言ってねぇで、アイツ連れて来い!」


 何やら向こうは向こうで問題があったらしく、店員がバタバタと店の奥へと走り込んで行ってしまった。

 こちらとしてはもはや、ポカンと見つめる他無いのだが……アリスに関しては普段と変わらない様子で、両手に持った双剣をドワーフに見せていた。

 コイツ、空気を読むって言葉を知らないのだろうか?


「コレ駄目なの? 結構綺麗だし、頑丈そうだよ? 重いし」


「お前は基本俺等が作った武器しか使ってねぇからな、見る目がねぇのも頷ける。どれも軽い上に頑丈で、切れ味も良かっただろう? そりゃ素材が特殊で良い品だって事だよ、バカタレ。こんなもんでいつもの戦闘をしてみろ、一発で刃こぼれ……で、済めば良いが。お前の力で叩きつけたら折れちまうぞ」


「うわぁお。普通の武器って、弱いんだね」


「お前さんの魔力と力が強すぎんだよ。なんか見繕ってやるから、これからウチに来い。あぁしかし、この店に説教が終わってからな?」


 という訳で、私達には待機命令が出てしまった。

 無視できる訳がない。

 だって相手、王宮にも武器を卸す様な腕利きなのだ。

 私達とは、天と地ほど差がある立場を持っているのだろう。

 そんな彼が、額に青筋浮かべて店の奥から出て来た鍛冶師に説教している姿は……なんというか、非常に肝が冷えた。

 この人、滅茶苦茶怖い。

 アリスと喋っている時は、ちょっと口の悪いおじさんって感じだったのに。

 仕事仲間に対してはマジで職人肌というか。

 とてもじゃないが外部が口を挟める空気じゃないのを、ひしひしと肌で感じる程の怒気を放っている。

 それくらい真剣に仕事に取り組んでいる、という事なのだろうが。

 しかしながら、さっき注意を受けたメンバーの連れとなると、些か居心地が悪い訳で。


「アリス……あの人、いつもあんな感じなの? 止めた方が良くない? 店員さん真っ青だよ? 私達もホラ、確かにアレもコレもって弄り回しちゃった訳だし。フォロー的な……」


 このメンツの中で一番効果がありそうなちびっ子に声を掛けてみれば、何故かコイツまでプルプルしているではないか。

 おいこら、まさかとは思うが知り合いのお前までビビっているのか?


「ダッグスのおっちゃん……怒ると本気で怖いんだよ。お婆ちゃんが不注意でおっちゃんの試作品壊しちゃった時は、あの何倍も怖かった。魔女とドワーフが戦ってた」


「いろいろ突っ込みたいけど……ローズさん、何壊したの?」


「すっごい細かい部品を組み合わせた兵器に付与魔法してたら、魔力注ぎ過ぎて爆発させた。作るのに数ヶ月掛かったんだって。しかも魔力量ミスった原因が、二日酔い」


「そりゃ怒るわ……」


 という訳で、私達は一切手を出す事が出来ず。

 ただただ叱られている皆様を見つめる他なかった。

 しかし凄かったのが、武器の質云々だけではなく。

 店の対応、接客の仕方。

 それに店に飾られた武具の掃除方法などなど。

 非常に細かい所まで注意しており、職人一筋ってよりは経営者としてお説教していた点。

 今回の私達の様に購入意思があるのかどうか分からないのなら、まず店員が声を掛けろ。

 そして相手を見て、話を聞いて。

 店員から会話を広げ、合った品を勧めるのが店番の仕事だとか叫んでいる。

 そう言う事にまで、しっかりと目を向けている様だ。

 凄い、ドワーフって言ったら職人で偏屈。

 そんなイメージが一瞬で崩れ去ってしまった程。

 どっかの買い食い大好きなエルフ先生の時みたいだ。


「テメェの下手くそな武器は今度まだ教えるとして、だ。んな事より、下っ端を育てられねぇ経営者はクソだ! いくら良い武具を作ろうと、そんなもん細部まで理解する客は一握り。なら何が必要になるか、接客だろうが! 右も左も分からねぇ素人が武器を買いに来て、印象の良い店と悪い店、どっちで買いたいと思う? 相談に乗ってくれたり、自分に合った武器を選んでくれる店を選ぶに決まってんだろうが! 武器だけ作ってりゃ生き残れる訳じゃねぇんだぞ! 売ってなんぼだ! 覚えておけ馬鹿弟子!」


「仰る通りです……」


「すみませんでした……」


「鍛冶師の仕事は客からは見えねぇ、二流三流だって平気で店を構えている時代だ。だったらまず見える所だけでも一流に見せろ、下を育てて足運んでくれた客を満足させろ! 高ぇ小煩ぇぶっきらぼう、それでも生き残れる時代は終わったんだ! まず商品を使って貰わねぇと話にならねぇ、んで使った奴にまたココの武器を使いてぇって思わせろ。ウチの看板背負ってんだ、適当な仕事するんじゃねぇぞ!?」


 彼の言葉に、店員たちはビシッと背筋を伸ばしていた。

 なんか、凄いなぁ。

 最近のドワーフって、こういう事も言うんだぁ……。

 想像と違って、物凄く経営者だった。

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