第27話 皆ボロボロだけど


 散々な目に会った、それだけは分かる。

 身体がギシギシ言っているし、頭もボヤァってしてる。

 ワーウルフと戦っていた筈なのに途中から息が苦しくなって、視界が暗くなって。

 それで……。


「起きた? アリス」


 隣からミリアの声が聞こえて来て、そちらに視界を向けてみれば。

 ものっ凄く疲れた様子の彼女が、なんか光ってる? 点滴を身体にぶち込まれていた。

 いや、それ大丈夫? ミリアが急に光り出したりしない?

 とかなんとか馬鹿な事を想像してしまったが、彼女はベッドに横になりながら呆れた瞳を此方に向けて来ている。


「外部的な魔力供給よ。アンタの相手したお陰で、魔力スッカラカンだから。アンタと違って、私はいくら魔力入れられても平気だから安心しなさい。あと今度暴走した時は、私は正面からやり合わないからね? 幾つ命があっても足りないわよ、あんなの」


 ハッと乾いた笑い声を溢すミリアは、ため息を溢しながら天井を見上げてしまった。

 やばい、もしかして物凄く迷惑かけたのか?

 途中までは良い調子だったんだ。

 あのまま行けばワーウルフにだって、負ける要素は無いって感じだったし。

 ガウルも押し負ける様子は無かったし、私の攻撃だって一応通っていた。

 だからこそ、あのまま続ければ勝てる相手だと思っていたのだが。

 でも、途中から急に身体が重くなって……。


「問題ありませんか? アリス。すみません、此方のパーティに居た術師が貴女に対して勝手にバフを掛けてしまったばかりに」


 反対側から聞えて来た声に、瞬時に顔を向けた。

 だって声の主は、普段だったら絶対そんな台詞を言う事はない筈の人だったから。

 しかしながら、その人が優しい笑みを此方に向けているではないか。


「身体に異常はありませんか?」


「は、針金お嬢様が私の事気遣ってる……これ絶対精神に異常をきたしてる、名医を呼ばないと……ミリア不味いよ、エターニアさん壊れちゃった……」


「二人揃って失礼にも程がありますわね……こっちは割と本気で心配していますからね?」


 どうやら幻影では無いらしく、反対側のベッドには針金金髪お嬢様ことエターニアさんが、額に青筋を浮かべながら横になっていた。

 いやいやいや、本当にどんな状況?

 思わずミリアに視線を戻し、助けを求めてみたのだが。

 彼女は呆れた顔のまま、もう一度ため息を溢し。


「お礼言っておきなさい、バカタレ。暴走したアンタを止めてくれたのは、間違いなく彼女よ。私の魔術だけじゃ、多分足りなかった。一定値に戻るまでの興奮状態、アレを諫めてくれたのは間違いなくエターニアよ。彼女の全力が、アンタを止めたの」


「結構……暴れた?」


「知らないわよ、バーカ。でも、皆無事。アンタのお陰で、魔物も無事討伐。だから……まぁ、良いんじゃないの? 両パーティに一応は可算点だってさ。他の要因で、諸々減点されたけど。こっちは向こうのパーティ程じゃないわ。学生だけで緊急事態に突っ込むなって、散々怒られちゃった」


 そんな事を言うミリアは、此方に向かってお見舞い品であろう果物を投げて来た。

 受け取ってみれば、以前私がミリアに食べさせたスースーする奴。

 その果実を両手で掴みながら、徐々に視界が下がっていった。

 今回、私は皆に迷惑を掛けた。

 ソレだけは確かな様だ。

 しかも、あんな緊急事態で。

 それに……あの姿を見せてしまったのだろう。


「私、このパーティに居ても良いのかな? また迷惑を掛けちゃうかもしれないし、皆より面倒くさい体質だし。だから、今後はソロの方が……」


「黙れ馬鹿、それ以上言ったら怒る」


「許しませんわよ、そんな事」


 二人から同時に御叱りの言葉を頂いてしまった。

 ポカンとしながら、ミリアに視線を向けてみれば。


「ウチの最高火力のアタッカーが抜けるとか、許さないから。私がリーダーよ、指示には従いなさい。どうしても抜けたいってんなら、私が納得する理由を表明しなさい。そうじゃなきゃ認めてやらない」


 片方からは非常に理不尽な言い分を頂き、もう片方に目を向けてみれば。


「あの後色々ありましてね、私も其方のパーティに勧誘されてしまいましたわ。暴走したアリスを収められるのは、クラスで私くらいの実力者だけでしょうし。有難く思いながら、パーティ離脱なんて馬鹿な考えは改めなさい。今度暴走した時、誰が止めると言うの? 貴方の魔力は……その、何と言うか。質が違いますわね、とにかくねちっこいです。いくらやっても減らないんじゃないかって程に」


 彼女もまた非常に呆れた様子を見せてから、表情を切り替え自信満々な顔で胸を張って見せた。

 良いのだろうか?

 だって私は皆に迷惑を掛けたし、私の暴走は人の生死に関わる。

 だからこそお婆ちゃんにはとても厳しく注意されたし、学園にもエルフ先生みたいな協力者がいる訳で。

 両者から、今だって厳しい監視の目が向けられる様な状況。

 でもまだ、ストップは掛かっていない。

 まだ、学園を去れとは言われていない。


「アリス、“友達”を頼りなさい。私達は上でも下でもない、同じなの。だから、困った事があれば手を貸す。逆にこっちが困った時は、アンタの手を借りる。それで良いのよ。アンタは馬鹿なんだから、難しく考えろって言っても無理でしょ?」


「学園のルールでもありますからね、今後も存分に頼って下さいまし。あぁ、それから。私はエターニアですから。敬称などは不要ですが、決して“針金お嬢”ではありませんので。今後間違わないようお願い致しますわ」


 二人から、そんな事を言われてしまった。

 学園に通うと決めた時、お婆ちゃんから言われた事があった。


『成果なんか残さなくても良い、偉大な存在なんて目指さなくて良いの。ただ、友達を作りなさい。例え失敗しても、一緒に居てくれる友人を作りなさい。そしたらきっと、その人達はアリスにとって一生掛け替えのない存在になるから。そう言う人達を、見つけなさい』


 その言葉の意味が、今理解出来た気がする。

 エルフ先生だってドン引きする程の戦闘衝動が発生する、私の病気。

 ソレを見てなお、こうして私に寄り添ってくれる二人の友達が出来たのだから。

 あの姿だけは、絶対見せたくないと思っていたのに。

 絶対皆引くし、一度でも目にすれば関わってくれないと思っていたのに。

 でも二人は、その私ですら受け入れてくれた。

 一緒に居ると、言葉にしてくれた。


「本当に、私で良いの? だってほら、普通の人と比べて不安定だし……ヤバいし」


 グッと堪えながら呟いてみれば、両サイドの二人はハッと笑い飛ばしてみせた。

 そして。


「そんな事最初から分かってんのよ。チェーンソーぶん回す赤ずきんなんて、ヤバイ奴以外にどう表現すれば良いのよ」


「これ程驚異的な成果と印象を残す方が傍に居れば、上辺だけで私に付きまとって来る連中も減るでしょうね。これからもどうぞ、派手にやって行きましょう。アウトローって、ちょっと憧れてましたの」


 そんな事を言いながら二人共笑みを返してくれるのであった。

 私には、友達が出来た。

 そう、心から宣言して良いのだろう。

 だからこそミリアから貰った果実にそのまま噛みつき、思いっきりスースーしながら涙を流した。


「なに泣いてんのよ、アリス。あれあれ? 嬉しくなっちゃった?」


「違うもん、めっちゃスースーするから涙が出て来ただけだもん」


「そう言う事にしておきましょうか。とにかく、よろしくお願いしますね?」


 そんな訳で、私はこれまで通りパーティを組む事が許された。

 それどころか、針金お嬢……じゃなかった。

 エターニアさんまで参加すると言うのだ。

 どんどん友達が増えていく、これ以上に嬉しい事は無い。

 そんなことを思いながら、ひたすらスースーして涙を溢していると。


「邪魔するぞ……アリス!? 起きたのか!? 心配したぞ! もう大丈夫なのか!?」


 このタイミングで病室に入って来たガウルが、私の元へと駆け寄って抱き着いて来た。

 そんでもって、脇に手を入れる形で空中をぶん回す。

 コイツ絶対、私の事を小動物だとしか思ってない。

 女子が苦手だとか言っていたけど、私の事女子だと思ってない。

 まぁ別に、こちらとしては構わないのだが。


「ガウルも、心配お掛けしました! アリス、復活しました!」


「おう! 良かった! お前なら絶対無事だと信じていたからな! これからもよろしく頼む! 今後は魔力を調整できる様に俺も協力するからな! 何でも俺達に相談しろ!」


 この人だけは、ド直球でも何とかなりそうな予感がする。

 何てことを思っていれば、自然と笑みが零れて来た。

 ミリアにガウル、それからエターニア。

 段々仲間が増えて行って、皆凄い。

 私と違って、ちゃんと凄いんだ。

 そんな仲間達の一員になれる様、今後も努力しなくては。

 なんて事を思いながらも、病室の二人が止めてくれるまでガウルに振り回され続けるのであった。

 後に聞いた話では、ガウルは男ばかりの兄弟で妹が欲しかったんだとか。

 その欲求の発散に使われているのかもしれないと思った時には、どうしたものかと思ってしまったが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る