第23話 救援要請
「よいしょー!」
「ふんっ!」
ダンジョン攻略、非常に順調。
それだけなら良かったのだが。
休憩を終えた私達の前には、妙に魔獣が出現する様になってしまっていた。
もしかして前の人達が狩ってから、
だとしたら、ダンジョンってどんな速度で魔獣を生み出しているんだって話だが。
まぁ一本道では無いし、居ても不思議ではないけど。
とにかく、私達もやっと戦闘を始めた訳だ。
次から次へと姿を現す魔獣を蹴散らしながら、ダンジョンを突き進んで行く。
前衛の二人は、物凄く余裕そう。
はっきり言って、私が手を出す必要とか無いくらいに。
ほとんど近接戦だけで片が付いてしまう。
「小物が多いねぇ~、的が小さいとやり辛いんだけど。前使ってた短剣持って来れば良かったかな……」
「俺達は二人共大型の武器を扱っているからな、こればかりは仕方ないさ。しかし、予備の武器も必要という先輩方の助言は確かだな。頂いたナイフが、これ程活躍するとは……これは盲点だった。所詮武器は消耗品、場合によって使い分けが必要と言う事か」
息切れ一つ起こす事無く魔獣を片づけて、霧の様に相手が消えた後魔石を回収する二人。
そう、二人なのだ。
私、ほんっとに少ししか攻撃してない。
さっきから補助を少し行ったくらいで、ほとんど指示を出すだけで終わってしまう。
なんだが実戦では全く使えない術師になった気がして、思わずムスッとしてしまうが。
呼吸を整えて気分を落ち着けた。
私は、術師だ。
前衛で対処出来ない事態に対処するのが仕事、もしくは彼等が辛そうな時にサポートするのが仕事なのだ。
今は二人でどうにかなっているから、私が手を出しても邪魔になるだけ。
うんうんと頷いて、一人納得していれば。
「ミリア、奥から何か来る。複数体」
再び剣を構えたアリスが、静かにダンジョンの奥を睨んだ。
コイツ、本当に動物みたいに耳が良いな。
此方としては、ありがたい限りだけど。
「また魔獣? 数は分かる?」
「どうだろ……正確な数は分かんないけど、獣っぽくない足音」
となると、先に潜っていたパーティが戻って来たのか?
これが冒険者同士なら、人が全員味方って訳でもないので警戒する必要があるらしいが。
今ダンジョンの浅い層には学生ばかりが滞在している筈。
獣では無く魔物の類でしたって可能性もあるので、一応警戒しながらその先を睨んでいれば。
「お、おいアンタ! 試験の時に鉄塊ぶった切った子だよな!?」
此方が見つめる先から、随分と慌てた生徒達が走り寄って来たではないか。
やはり学園の生徒だったかと安堵の息を溢したのも束の間、彼等は錯乱したかのような状態で駆け寄って来た。
そして縋りつく先は、アリス。
「頼む! 協力してくれ! この先にヤバイ奴が出て来て、今はあのお嬢が相手してくれてるが、ヤバそうで。だからっ!」
「あぁ~はいはい、一回落ち着こう。全然分からないから、深呼吸~深呼吸~」
何やらパニックに陥っている彼等に対して、アリスはいつも通りの緩い笑みを浮かべた。
それが効果的だったのかどうかは知らないが、皆アリスの言う通り呼吸を整え。
改めて私達に真剣な瞳を向けた後。
「“逸れ”だ、この階層に居る訳無い奴が出て来た。相手はワーウルフ、両手に武器を持っている。今はウチのクラスの針金お嬢が対処してくれているが……何か倒せない、みたいな事言ってた……」
何か倒せないって何だ。
もう少し正確な情報は無いのかと訝し気な表情を向けてしまったが。
後から遅れて来た術師の女の子が、息を切らしながら。
「相手は特殊個体! 多分術が利き辛いのよ……あの子の魔法も、前回ほど威力が感じられなかった。だから本来の能力で対応出来るのは前衛、今残ってくれた皆は、とても悪い状況で戦ってる! だからお願い、手を貸して!」
このパーティのリーダーらしい彼女は、涙ながらにそう叫んで来た。
特殊個体、逸れ。
そう言う単語は、冒険者においてかなり危険視する存在だと言う。
本来ならこの場ですぐに引き返し、エルフ先生に報告するべきだ。
そうすれば、きっと彼なら対処してくれる。
それだけの魔術師だと感じられる程、実力差を感じるのだから。
でも、その間あの針金金髪お嬢だけで対処出来るのか?
特殊個体のワーウルフ相手に時間稼ぎは出来たとしても、現状彼女達が無事で居る保証はない。
しかも今回は、相手とお嬢の相性が悪いとの事。
だとすれば、どうする?
私達が救助に向かった所でどうにかなる相手なのか?
被害を最小限にという意味では、彼女達の事を見捨てても地上に戻るのが正解だろう。
グルグルとそんな考えながら、目の前で発生している緊急事態を整理していれば。
「ミリア、指示を頂戴。行って良いよって、そう言って? リーダーはミリアだから。大丈夫、私達ならやれるよ」
二振りのチェーンソーを構えたちびっ子が、ダンジョンの奥を睨んでいた。
いつもだったら勝手ばっかりやって、今この時だって一人で飛び出してしまいそうなソイツが。
今だけは私の決断を待っているのだ。
「相手はワーウルフ、しかも特殊個体。魔法が効きにくい上に、武器持ち。いけるの? アリス」
「上等。姿も見ずに怖気づいたなんて知れたら、お婆ちゃんから笑われちゃう。しかも近接特化の相手なんでしょ? だったら、私とガウルで相手した方が良い。それに、狼の相手は得意だから」
ニッと口元を吊り上げ、八重歯を光らせる彼女は。
本当に獣の様に笑った。
私が今まで見て来た、気の抜けた少女とは違う。
狩人と言わんばかりの、相手を狩る光景を想像している表情。
何度でも言うが、本来は撤退すべきだ。
お嬢のパーティに多少の犠牲が出ようと、この場に居る全員は助かる選択肢を選ぶべき。
でも、今だけは。
「貴女なら、倒せるの?」
「意地でも、ぶっ殺すよ。それにクラスの仲間なんだから、助けないと」
彼女の言葉に、賭ける事にした。
普通だったら絶対ダメだ、こんな判断したらリーダーなんてやってられない。
それは分かっているのだが。
彼女の言う通り、このまま見捨てて逃げると言うのも……目覚めが悪いのは確かだ。
「皆はダンジョンを引き返して先生に現状報告。私達はこのまま進み、件のワーウルフを対処。いいわね? 但し、無理だと判断した場合は即撤退指示を出す。目的は討伐じゃなくて針金お嬢達の援護、安全第一で行動して」
「らじゃー!」
小さい獣はギラギラした瞳をダンジョンの奥へと向けながら、両手に持ったチェーンソーをギャリギャリ言わせていた。
ほんともう、コイツのお守りは辞めたいんだけど。
思い切り溜息を吐いてから、大きく息を吸い込んで正面を睨んだ。
「ガウル、悪いんだけど私を運んで。アリス、もう遠慮しないで良いわ。全部……全部食い散らかしなさい。“好きにやって良い”わよ、ちゃんとサポートするから」
「りょーっかい!」
言った傍から、彼女は姿勢を低くして走り出した。
マジで獣かって言う程、素早くダンジョンを突き進んでいく。
好きにやって良いとは言ったが、一人で突っ込めとは言ってないのだが。
「私達も急ぐわよ!」
「すまないミリア……身体に触れるぞ」
「そう言うの良いから! 早くアリスを追って! このままじゃ見失っちゃう!」
遠慮気味のガウルに抱えられつつ、私達はダンジョンの更に先へと走るのであった。
残して来たメンバー達はそのまま地上に戻ってくれた様だから、しばらくすれば救援が来る。
その保証は出来た。
だというのに。
「ワーウルフとか、冗談でしょ……勘弁してよ全く。私達運悪すぎない?」
「それは、同意する……」
二人揃って、ため息を溢してしまうのであった。
やっぱり止めておけば良かったかな?
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