第22話 ダンジョン 2
「時間を置いて順番に入っただけあって、他の皆居ないねー」
「そうだな、だが油断するなよ? ダンジョンは何処からでも魔物が湧いてくるらしいからな。一度他人が通ったからと言って、安全ではない」
アリスとガウルがそんな会話をしながら、ズンズンとダンジョンを突き進んでいく。
現在歩いているのは上層、つまり弱い魔獣しか現れない階層。
今でこそ洞窟みたいな見た目をしているが、下層へと降りる程に環境が変わるらしい。
基本的に下へ下へと降りていく構図になる訳だが、中層以降は大自然が広がっている様な場所もあるというのだから驚きだ。
これからそんなモノが待ち受けているかもしれないと言うのに、緊張感の無いちびっ子はそこら中を走り回り、壁から生えている鉱石を無造作に引っこ抜いたりしているが。
非常に、元気だ。
「いいもの見つけた! ライト鉱石だよ! しかもでっかい! これがあれば松明もランタンもいらないねぇ~」
「売ってもそこそこの値段になるからな、また見つけたら回収しよう」
「らじゃー!」
もう片方も、結構元気だったらしい。
二人揃って、壁際をキョロキョロしながら珍しいモノを探していく。
別に良いんだけど、そういうのもダンジョンの醍醐味だっていうし……でも。
「アンタ達は……疲れってモノを知らないの? ほんっと、元気が有り余っている御様子で羨ましい……」
正直、体力的にキツかった。
まだ次の層へと降りていないと言うのに、息切れしている。
もう何時間歩いた? 以前ローズさんの所に行った時よりも歩いている気がする。
多分緊張のせいもあるし、閉鎖空間だから余計にそう感じるのだろうが。
私、この体力馬鹿二人にずっと付いていく自信無いんだけど。
「ミリアは術師だもんね、辛かったら休憩しよっか」
「すまない、此方で気が付くべきだったな。アリスの言う通り休憩にしよう、いざという時ミリアが動けないのは不味い」
そんな事を言いつつ、二人は壁際に寄り休憩の準備を始めるのであった。
おかしいな、リーダーだ何だと言われていた筈なのに。
私ダンジョンに潜ってから全然役に立っていない。
まぁまだ歩いているだけなんですけど、魔獣の一匹も出てこないんですけど。
でも歩くだけで疲れ果てるリーダーとか、情けない事この上ない。
「ごめん二人共……普段からもうちょっと体力付けておくべきだった……」
はぁぁとため息を溢しながら、アリスが差し出してくれた水筒を受け取って喉を潤してみれば。
こんなに喉が渇いていたのかと自分で驚く程に、身体に水分が巡っていくのが感じられた。
「慣れない内は無理しても気が付かない事が多いからね、今度から一緒に体力づくりしようミリア! 唾がネバネバしてきたら、もう水分足りてないから気を付けてね?」
「うっわぁ……その現象結構前から起きてた……」
「ちなみにそういう状況で動き続けると、口が臭くなります」
「……歯磨きして良いですか」
体力自慢の二人はケロッとしているのに、私だけもはや横になりたいほど疲れている。
情けない、本当に。
学園では私がアリスを叱りつける事の方が多かったのに、今では完全に立場が逆転している。
現場では、この二人の足を引っ張っている。
「ごめん、本当に……」
「別に全然? 初ダンジョンだもん、皆で楽しもうよ!」
いつも通りのニコニコ笑顔を向けて来るアリスがじゃれ付いて来て、マジックバッグから果物を取り出している。
ナイフで小さく切り分けて、此方に差し出して来たのでパクッと口でお迎えしてみれば。
「んっ!? なにこれ!?」
「スースーするでしょ? 疲れすぎた後とかに食べると、呼吸が楽になるよ? あ、ガウルも食べる?」
「頂こう」
なんか物凄くもっちゅもっちゅする食感の果物、でも水分量は多いらしく。
果汁を飲み込めば喉の奥からスーっとする様な爽やかな香りが広がっていき、先程まで苦しかった呼吸が落ち着いていくのを感じた。
こう、何と言ったら良いのか……ガムみたいな食感。
飲み込んでも大丈夫なのかちょっと不安になって来る。
「このダンジョンって何層まであるんだっけ? 校外授業の期間内に戻ってこないと、減点だもんね?」
「十数層だった気がするが……期間を考えると、最深部までは無理だな。それに野営に慣れていない俺達では、あまり深く潜り過ぎても帰りが辛くなるだろう」
前衛二人はケロッとしながらそんな雑談を繰り広げているが、この二人の場合時間制限が無ければ結構深くまで潜れそうだ。
あぁもう、なんか悔しい。
未だ敵も出て来てないのに、疲れ果てている私が情けなくて仕方ない。
しかし無理してもかえって二人の足を引っ張ってしまうのは目に見えているので……今回ばかりは、休憩を多めに挟みながら私が役に立てる状況を考えないと。
くそぅ、今度の校外授業までに絶対体力付けてやるんだからな。
※※※
「ふざけんなよ! なんでこんなのが浅い層に居るんだよ!」
パーティの一人が泣き叫びながらも、相手の攻撃を受けとめてみれば。
なんだろうな、“全く相手にならない”という言葉が正しいのだろう。
盾を構えた仲間に対して、相手は真正面から武器を振るっただけ。
だと言うのに、癇癪を起した子供が玩具を投げた時みたいな勢いで、此方に吹っ飛んで来た。
本当に、人間が玩具みたいに吹っ飛んで来たのだ。
こんなの、勝てる訳がない。
「撤退して先生に報告! もしくは途中に誰か居れば協力を求める! 私達だけじゃ絶対無理!」
大声で指示を出してみれば、その声に釣られたかの様に相手も雄叫びを上げた。
巨大な身体に、悪魔かって程にギラギラと輝く牙。
狼の癖に、二足歩行で分厚い身体。
“ワーウルフ”。
片手にはボロボロの斧を掴み、もう片手には半分折れてしまっている様な大剣。
首からは大きな魔石が付いたネックレスなんて物を下げている。
どれも、冒険者から奪った代物なのだろう。
当然ながら、私達のパーティにとってはどうする事も出来ない相手。
こんなのは、もっと下の層で出て来る相手なのだ。
浅い層でこれほどの化け物と戦う確率なんて、本当に数百、数千分の一。
“逸れ”、なんて呼ばれる特殊個体。
そう言う奴等は、階層云々関係なしに“登って来たり”もすると聞いた事がある。
「こ、来ないで……」
もはや全員腰が引けてしまっている。
迫りくる“死”に怯え、奥歯がガチガチと音を立てた。
獰猛な獣が刃を振り上げ、仲間の一人に襲い掛かった瞬間。
「撤退して下さいませ! 我々が引き受けますわ!」
凛とした声が周囲に響き、ワーウルフの体には大量の魔弾がぶち当たった。
相手が怯んでいる隙に逃げられる者は逃げ、腰が抜けてしまった面々には助けに来てくれたパーティメンバー達が救助に入っていく。
そして、私の前に立ちはだかったのは。
「あら、この程度だと牽制にしかならないのね? だったら、もう少し本気で行くわよ? 覚悟なさい、化け物」
銃を構えた金髪のお嬢様が、容赦なく魔法の連撃を相手に叩き込んでいた。
クラスで一番目立つ存在だ、忘れる訳がない。
針金でも仕込んでいるのかと揶揄される事がある程、綺麗にロールした髪の毛を揺らしながら、彼女は臆することなく足を進め引き金を引き絞った。
「要救助者をこの広間の外へ! 手の空いた者から私のサポートに! 油断して良い相手ではありません事よ! 全員、心して掛かりなさい! 但し、絶対に無茶はしない事! 主力は私に任せて、皆様は補助に回って下さいませ! 私達はチームですわ! 全員で成果を残しますわよ!」
教室内で見た彼女とは、随分と印象が違う。
身分の高い貴族、それは間違っていないのだが。
今の彼女は、誰から見ても……間違いなく、“リーダー”だった。
「しばらくは私が抑えます! その間に皆様の救出を! ホラ貴女も早くお逃げなさい、あまり長くは保ちません事よ? 先生方に状況の報告を頼んでもよろしいかしら」
「は、はいっ!」
彼女の言葉に従ってすぐさま背を向けてみれば、背後からはいくつもの爆発音が聞こえて来る。
多分、実技試験の時にも見た大火力を連発しているんだろう。
アレだったら、ワーウルフだって倒せる。
そう、思っていたのだが。
「チッ! 特殊個体、もしくは魔道具の類か……私の火力だけでは倒せませんわ! 皆様防御陣形! 救助した者達が先生方に報告してくれます! それまで耐えますわよ!」
その一言に、ゾッと背筋が冷えた気がした。
あのお嬢様の攻撃でも、あの化け物には届かないのか?
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