第21話 ダンジョン
「ダーンージョーンーだー!」
「うるっさい馬鹿、目立つんじゃないわよ」
非常に煩い友人にチョップを叩き込んでから周りに視線を向けてみれば。
クラスメイトからは静かな笑い声を貰い、そして学園外の人達からは微笑ましいと言わんばかりの瞳を向けられてしまった。
あぁクソ、コレだから……なんて、やけに目立つパーティメンバーに対してため息を溢しそうになってしまったが。
「お嬢ちゃん、元気が良いな。名前は何て言うんだ? ホラ、先輩からの差し入れだ。今日は学生が潜るって話だから、俺等はサポートに回るよう依頼されてんだよ。つっても、待機して何かあった時の救援だけだがな? 頑張れよぉ、ちっこいの」
「アジャス! アリスって言います!」
学生以外の……多分冒険者の方々だろう。
やけにゴツイ人達が集まって来て、ウチのパーティメンバーを可愛がり始めた。
携帯食料から、最近のダンジョンの地図。
人によってはポーションの類まで渡しているではないか。
待て待て待て、貰い過ぎ貰い過ぎ。
もはやアリスがどうこうではなく、どんどん物品が手渡されていく。
本人は両手一杯になってしまったソレらに戸惑ったのか、完全に停止しているし。
元気良く挨拶かましていたくせに、今では餌を与えられ過ぎて引いている状態の猫だ。
「す、すみませーん! そのちっこいの、私の所のメンバーでーす! 返して下さーい!」
声を上げながら屈強な男達の間に押し入ってみれば。
皆一斉に此方を振り返り、ニッと満面の笑みを浮かべる。
不味い、とても嫌な予感がする。
「お? 今度はしっかりしてそうな学生さんが来たな? この嬢ちゃんの仲間か、ホラコレ持って行きな、役に立つぜ?」
「術師か? でもいざって時の武器は持ってるんだろうな? ん? ねぇのか? ナイフ一本持ってるだけでも、随分違うぞ? ちと待ってろ? もう使わなくなった武器の一本くらい誰か余らせてる筈だ……おぉーい! 誰か予備の武器、くれてやっても良いナイフとか持ってねぇか? このお嬢ちゃんが、近接武器持ってねぇんだとよ!」
誰も彼も、私まで取り囲んであっちもこっちもと道具を渡して来る。
す、すごい。
これが冒険者。
新人に対して歓迎する雰囲気が尋常じゃない。
それだけ死亡率の高い仕事とも言えるのかもしれないが、誰もがそんな様子微塵も見せずに笑顔で迎え入れてくれていた。
どいつもこいつも、顔は物凄く怖いが。
あとガタイが良い、ガウルが大量発生したみたいだ。
だと言うのに皆、アレも持っていけコレも持って行けとバッグに押し込んで来る。
もはや私では制御出来なくなり、アリスと一緒にもみくちゃにされていれば。
「すまない、二人を返してもらえるだろうか? 両方とも俺のパーティメンバーなんだ」
ガウルが声を上げれば、周りの冒険者達はスッと顔を強張らせ静かな視線を送り始める。
それもその筈。
冒険者というのは、基本的に平民が就く仕事なのだから。
貴族からすれば、“荒くれもの”として扱われている様な存在ばかり。
今でも冒険者と名乗ると鼻で笑われる様な事も、多々発生していると聞く。
だからこそ、逆に冒険者からすれば貴族連中を良く思わない人も多いのだろう。
「御貴族様かい。どうした? パパやママのお小遣いじゃ足りなかったか? それだけ立派な鎧を身に着けてんだ、道具だって揃えて来たんだろうな?」
「貴族、と言う意味では否定しない。だが俺は冒険者を安く見たりはしていない、むしろ戦闘技術において尊敬していると言っても良い。道具やポーションの類は揃えたが……コレで足りるだろうか? 出来れば、アドバイスを頂きたいのだが」
違う、そうじゃない。
そう言いたかったが、彼は道具の類を地面に並べ始めてしまったではないか。
それらに対し、真剣な眼差しを向ける屈強な男達。
もはや絵面が酷い、とても暑苦しい。
アリスとか既に解放されて、貰った干し肉齧ってるし。
「おい、毒消しはコレで全部か? マジックバッグ持ちか?」
「えぇ、用意したのは此方で全てです。バッグは持っていますが、これ以上詰め込もうとすると中々……」
「お前前衛だろ? だったらポーションやら毒消しはすぐ取り出せる場所にも持っておけ、戦闘中にバッグに手を突っ込むより速い。それから嬢ちゃんにも言ったが予備の武器やら、いざって時のナイフなんかも身に着けておいた方が良いぞ。それからこっちの食料、ダンジョンの中で贅沢するんじゃねぇよ! もっと小さくて安い携帯食料があっただろうが。観光に来てるんじゃねぇんだぞ? 気合い入れろ小僧」
「先輩方からの助言、感謝します」
何か、よく分からない雰囲気になって来た。
私やアリスにはひたすら注意事項を投げ掛けて来るし、足りない物をどんどんくれる。
だがガウルに対してはお説教をかましながら、物品を補充してくれる先輩方という変な構図。
やはり新人を可愛がりたい精神が強いのだろうか?
こちらとしては非常にありがたい。
ありがたいのだが……やはり暑苦しい。
私達以外の学生は、何だかドン引きした様子で距離を置いているし。
このままでは、ウチのパーティだけ集団行動から外れてしまいそうだ。
何てことを考えていれば、予想通り。
「全員、準備は良いか?」
遅れて登場したエルフ先生の声に、学生達が集まっていく。
私達も早く行かないと! とかなんとか、焦って仲間達を集合させようとしてみれば。
「あぁ、お嬢ちゃんちょっと待ってな!? 今調薬してやっから、絶対これだけは持っていけ! 良く効く傷薬だ、すぐ作ってやるからな!」
「おい小僧! 覚えたな!? こういう魔獣が出た時は、こうやって、こう! 分かったか!?」
「はいっ! 覚えました!」
「お嬢ちゃん、もう一個干し肉食うかい? これはな、保存食って言うより酒のツマミで作られてっから。美味いんだ、これがまた」
「欲しい! 食べたい!」
ウチのパーティは、自由奔放どころではなかった。
思わず大きな溜息を溢して、もう一度先生の方に視線を向けてみると。
「おい、お前のパーティだろうが。早くこっちに連れて来い、リーダー」
エルフ先生はあり得ない言葉を言い放ってから、此方に対してちょいちょいと手招きするのであった。
おい待て、いつから私はこのパーティのリーダーになった。
そういう書類に記入した記憶も、自ら名乗り出た覚えも無いのだが。
「そっちの二人からお前がリーダーだと聞いている、さっさと来い」
何かもう、先生の声に大袈裟かって言う程のため息が零れた。
とにかく突っ込む事しかしらない前衛と、ガタイは良いが器用じゃない前衛。
そして、魔術師の私。
なんだこのパーティ、何だこのパーティ!
クラスの皆は、平民でももう少しバランス良く組んでいるのに!
思わずそう叫びたくなったが、もはや面倒臭くなって二人の襟首を掴んで皆と合流した。
二人共なんか叫んでるけど、知らん。
お前等は先輩冒険者と絡む前に、学園の先生の言葉を聞くのが先だ。
「では、実地訓練を始める……おい猫娘、聞け。干し肉を齧りながらでも良いから、聞け」
「らじゃー!」
こうして、無駄に目立ってしまいながらも私達の授業は開始された。
散々死ぬ可能性があると脅されていたと言うのに、アリスのせいで非常に緩い感じになってしまったが。
とはいえ、ここから始まるのだ。
“実戦”と言う名の試練が、私達の目指す先が。
いくら机の上で勉強しようと、現場で役に立たなければ意味が無い。
いくら魔術レベルが高かろうと、その場で力を証明出来なければお荷物に他ならない。
だったら、やれ。
死と隣り合わせの状態で、最高の結果を発揮してみせろ。
この学園に相応しいと思える課題に、今から私達は命を持って挑戦する。
これが、現代の術師の生き方なのだ。
改めて私は、グッと自らの杖を握り締めたのであった。
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