第18話 学園内の協力者


「ちょっと! アリス!?」


 すぐ近くを歩いていたちびっ子が、急に走り出したかと思えば。


「先生も買い食いですかー!?」


 あろう事か、先程見つけた学園の先生にタックルをかましたではないか。

 何やってんだアイツ、マジで何やってんだ。

 学園外だとは言っても、問題行動を起こせば平気で減点されたりすると聞く。

 だというのに、馬鹿アリスがエルフ先生に突っ込んで行ってしまった。

 彼の身長とは随分な差がある為、背後から腰に突っ込んだ様な形だが。


「猫娘、いつも言っているが急にくっ付くな。驚くだろうが」


「良いじゃないですか、エルフ先生頑丈だし。見た目の割に鍛えてますよね?」


「そう言う問題じゃない」


 ペイッと引き剥がされたアリスが、首元を掴まれた猫みたいに大人しくなってしまった。

 いつも思うけど、この先生アリスに対しては平気でこういう行動するよね。

 特別扱いって訳ではないけど、結構雑に……というか気軽に扱う事が多い。


「お前達も一緒か、飼い犬には首輪を付けろ。と言いたい所だが……猫では無理か、苦労するな」


「あ、はい。どうも……」


 差し出されたアリスを受け取り、未だ厳しい顔の先生に頭を下げてみれば。

 彼は、ジッと私の事を見つめてから。


「ミリア、弾丸はどれくらい溜まった?」


「え? 何故それを先生が……」


「どうせある程度察しているのだろう? 学園側の協力者というのが私だ、魔女から話は聞いている。アイツとは古い付き合いだからな……仲が良い訳では無いが」


 急にそんな事を言い始め、見せろとばかりに手を伸ばして来た。

 あぁ……そうか、この人なのか。

 ローズさんがアリスの薬を渡している人物というのは。

 と言う事で、ポケットから未だ貯蔵中の弾丸を彼に差し出してみれば。


「それなり、と言う所か。しかし無駄が多いな、お前の得意分野ですらこの調子か」


「申し訳ありません、仰る通りで……」


 魔女から頂いた弾丸への魔力貯蔵作業。

 これがまた、意外と大変でして……全然溜まらない。

 得意な属性の魔法でさえ、なかなかどうして順調には行かなかった。

 これが普通なのかと疑問に思った事もあるが、他の適性で比べてみて明らかになった事が一つ。

 私が放出する魔力は、とにかく“無駄が多い”と言う事だ。

 弾丸によって決められた術式、方式に従って魔力を送り込めば溜まってくれるのに。

 普段通りに術式を行使すると、余分な所に力を使ってしまっているらしく、ほっとんど魔力が溜まってくれないのだ。

 余分なモノを混ぜてしまうと、それらを除外するかの様に弾かれてしまう。

 今まで使っていた魔術を一から見直すかのような作業、魔術回路からその役割まで見直し、自らの使う魔法を自ら最適化していく作業。

 魔法行使までの不純物を取り除く、それを普通の何倍も厳しくした様なイメージだった。

 出来たと思う頃には、元々の魔術から随分と違う形へと変化していたり。

 これまでの魔術は何だったのかと思う程、放出する魔力が減っていたりと様々。

 そんな試行錯誤を繰り返しているからこそ、最近は寝る前に魔力切れを連発しているし、何日頑張ってもこれくらいしか溜まっていないと言う事に他ならないのだが。

 不得意の術式なんか話にならない程度しか溜まっていない。

 それくらいに、選別された純粋な魔力じゃないと蓄積してくれないのだこの弾丸。

 非常に厄介ではあるし、四苦八苦している内に余分に魔力を使ってしまう事も多い。

 しかしながら、私にとって魔法の“無駄を無くす”訓練としてはこれ以上ない程の代物だったのは確かだ。


「明日、授業が終わったら私の所に来い。基礎の基礎、“魔力放出”について専門的な部分まで教えてやる。だがしかし、楽な授業だとは思うなよ? 原点にして頂点、これさえ極めてしまえばお前はある種クラスでトップの実力を身に着ける事になる。簡単ではない」


「は? え? いいんですか? 私だけ、特別授業みたいな……」


「出来るかどうかは、貴様次第だ。軽い気持ちなら止めておけ、本気じゃ無ければ到底叶わぬ魔術の使い方だ。私だってこの歳になっても、全て無駄なく魔力を使えている訳ではない」


 本当に何気ない、授業中に話しかけて来たかの様子で。

 彼は、そんな事を言って来た。

 しかしながら相手は魔術教師と言うだけでは無く、長い時を生きるエルフ。

 魔女に続き、規格外の人間に教えを乞える機会を頂けたと言う訳だが。

 ならば、こちらの答えなど決まっている。


「やります! 教えてください!」


「良い返事だ、では明日から始めよう。せめてこの“カートリッジ”一つくらいは溜められないと……魔女に言い訳が立たんからな。アイツは後からブツクサ言って来るから、面倒なんだ」


 何だか渋い顔をしながら、先生は私に銃弾を返して来たのであった。

 妙に不穏な事を言っていた気もするが、それでも特別授業を受けられるのは願っても無い事。

 そしてこの銃弾に全て魔力を溜めた時、魔女からは更なる課題が課せられる事だろう。

 多分、きっと。

 これが終わったらハイサヨナラ、とは言わなそうな人だったし。

 じゃぁ実際に銃弾を試してみましょうか~とか言いながら、銃その物を渡して来ないかは不安だが。

 それはないと信じよう、この前ちゃんとお断りしたし。

 という事で、先生の授業は望む所だ。

 私が、今以上の魔術師に成れるのであれば。

 更に上を目指す環境が手に入るなら、何だってやってやる。

 思わずグッと拳を握り、ローズさんからもらった銃弾を握り締めていれば。


「先生! お腹空いた!」


 私の手を離れた馬鹿猫娘が、エルフ先生に再びじゃれ付いていた。

 止めろ馬鹿、相手は魔術教師だぞ。

 しかも貴族とかそう言うレベルではなく立場のある人なんだぞ。

 お前の猫っ毛と爪痕を残すんじゃない。

 とか何とか、思わず叱りそうになってしまったのだが。

 私が引き剥がすよりも先に、先生は気にした様子も無く彼女の頭にポスッと手を置いた。


「猫娘、何が食いたい」


「焼肉! あと山盛りご飯!」


「なら、旨い店を知っている。行くぞお前等、晩飯はそこで済ませる」


 彼は腰に引っ付いたアリスをそのままに、路地をズンズン進んで行くのであった。

 いや、いやぁ?

 教師と生徒だって仲が良い事はあるだろうが、これはどうなんだ?

 普通あのまま裏路地とも呼べる場所を進んで行く?

 周りの人達も、物凄く驚いた様子で視線を向けて来ているし。

 思わずガウルと視線を合わせてしまったが、その間もエルフ先生はどんどん進んで行ってしまう始末。

 相も変わらず、その腰に引っ付いたアリスを連れたまま。


「ミリア……我々も行こう。このままでは、アリスが食後野に放たれてしまう未来が見える」


「そんな野獣みたいに言わなくても……あぁ違うか、あの子の場合絶対迷子になる。寮まで帰って来ない」


 そんな訳で、二人して彼等の後を追うのであった。

 本当に、どうしたものか。

 教師からご飯を奢って貰うというのもレアな体験だとは思うのだが、エルフ先生はなかなかどうして謎が多いのだ。

 いつだって冷静な態度だし、能力は言わずもがな。

 しかし、アリスに対して一目置いている様に見えるというか。

 むしろ“魔女”に対して、何かしらの関わりがあると言うべきか。

 ローズさんの関係者だからこそ、手を回そうとしている気がする。

 そして、彼女と関わった私にも。

 いったいどこまで知っているのか、どういう関係なのか。

 一切分からないまま、とりあえず私達は彼に続き焼き肉屋へと足を向けた。

 ちなみに到着したのは随分と小ぢんまりとしたお店であり、店員の雰囲気からしてエルフ先生は常連さんだった。

 この先生、普段こういうお店でご飯食べているんだろうか?

 彼の雰囲気と全く合っていない居酒屋系ご飯を、私達は堪能するのであった。

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