第17話 仲間と一緒に


 学園の授業も様々。

 歴史や文学、計算など諸々の座学。

 そっちは基本眠くなるけど、私が何より楽しみにしているのは……実技だ。


「パーティ戦の訓練だぁぁ!」


「うっさい馬鹿、ほんっと脳筋なんだから……」


「今日もよろしく頼む、二人共」


 ミリアからは呆れた視線を、ガウルからは微笑ましい視線を頂いてしまったが。

 でも、楽しいから良し。

 だって本日は魔獣戦を模した戦闘を行うらしい。

 だだっ広い校庭に集まった私達。

 見回してみればそれぞれのパーティで固まっており、中央にはエルフ先生が一人。

 杖を構えながら、何やら詠唱を唱えておられる。

 彼が召喚獣を出したら戦闘開始、取り合いにならない様に複数体呼び出すと言っていたが……何が出て来る事やら、今から楽しみで仕方がない。


「何かな何かな、ドラゴンとか出てきちゃったりするのかな?」


「んな訳無いでしょ。各パーティにドラゴンなんか出て来たら、災害どころじゃないわよ。と言うか鰐にヒーヒー言ってたんだから、アンタはそろそろ身の程ってモノを覚えなさい」


「しかし今日の雰囲気から、大物が出て来る事は間違いないだろう。二人共、そろそろだぞ」


 ガウルが巨大な斧を構えながら正面を睨めば、何やらボコボコと地面が変化し始めた。

 お? お? これってもしかして。


「ゴーレムだぁ! この前見た奴より滅茶苦茶大きい!」


 私達の前には、巨大なマッドゴーレムが出現した。

 凄い凄い、ガウルより二倍くらい大きい。

 しかも鎧を模しているのか、形にまで拘っている御様子。

 エルフ先生凄い。

 これだけのパーティ戦をいっぺんにこなしているのに、こんな代物を作り出せるのか。

 前回のミリアが作り出したゴーレムは見たが、こんなに大きいのを見るのは初めて。

 本当に見上げる程大きい上に、物凄く強そうだ。

 何てことを思いながら周囲に視線を向けてみれば。


「各パーティの実力に合わせたって事なのかしら? 恐ろしい術師ね……ゴーレムも並行して動かしてる。しかも魔獣まで召喚してるし、ホント何者よあの先生」


「流石は学園の教師、見事という他あるまい」


 二人の言う通り、色々居るのだ。

 いつも相手している狼さんから、数倍デカい狼さんとか。

 はたまたゴーストみたいなのや、悪魔みたいな姿をしている奴も居る。

 めっちゃ凄い、学園の教師ってこのレベルじゃないとなれないのかな。

 思わず拍手を送りながらボケッと周りのモンスター達を眺めていれば。


「アリス、来るわよ! 呆けてない! 戦闘準備!」


「らじゃー!」


 友人の一言に視線を戻してみれば、すぐそこに迫った巨大な拳。

 ソレを回避しながら、お婆ちゃんから貰ったブーツで空中走る。

 強く跳躍して、何も無い場所に足場を作りながら更に跳ぶ。

 楽しい、それにやっぱり物凄く便利。


「アリスは相手を翻弄! ガウルはゴーレムを削って! 魔術を準備する!」


「了解した!」


 二人も本格的に動き出したらしく、私が注意を引いている間に巨大な斧が叩き込まれ、攻撃魔法が幾つも飛んで行く。

 これだよ、こういうのがやりたかったんだ。

 魔素中毒者ってだけで、昔から検査とか訓練ばっかり。

 友達は出来ないし、治療の為にお婆ちゃんの家に居る事が多かった。

 稽古するにしてもお婆ちゃんに教えて貰ったり、一人で獣を相手にする事が殆ど。

 だからこそ、“仲間と共に戦う”という事に憧れていたんだ。

 本でいっぱい読んだ。

 主人公が徐々に仲間を増やして行って、最後には凄く強い敵をやっつける冒険譚。

 一人ではいつか限界が来る、一人では対処出来ない事例は無数にある。

 そう教えられていたからこそ、“仲間”という存在に憧れていた。

 そして今の私には、頼もしい仲間が二人も居る。

 前回もミリアと共に戦ったけど、やっぱり良い。

 これだけも学園に来た甲斐があったというモノ。

 思わず口元を吊り上げながら空中を飛び回っていれば。


「アリス! アンタの機動力なら反撃できるでしょ! 片方でも良い、腕を潰して!」


「了っ解だよぉ!」


 バッグの中から二振りのチェーンソーを取り出し、盛大に魔力を流し込んだ。

 ブロォン! と派手な音を立てながら刃は回転し始め、同時に相手の肩に叩き込む。

 ありゃ、意外と固い。

 ガリガリ言ってるけど、盛大に火花が上がってる。

 多分密度が濃いんだ。

 けど、斬れない事は無い!


「うおっっしゃぁぁ!」


「アリス! 回避しろ! 反対側の腕が来るぞ!」


 ギャリギャリと削っていれば、もう片方の手で平手を繰り出して来るゴーレム。

 私は蚊か何かかと言いたくなる程、バスンッと音を立てながら自らの身体を叩く様に攻撃して来た。

 が、これくらいじゃ当たらない。

 私は蚊なんかより、ずっとすばしっこいんだぞ?


「上半身削るね! ガウルも脚をよろしく! なんかあったら指示を頂戴ミリア!」


「無理はするなよ!?」


「だぁぁもう! アンタは派手に動き回り過ぎなのよ! 少しはこっちの身にもなりなさいよ!」


 仲間達の声を聴きながら、ひたすらに空中を駆け巡った。

 その都度相手の体に刃を立てて、少しずつ削っていく。

 楽しい、物凄く楽しい。

 戦う事は生物の本能だ、生き残る為に武器を振り回すのは人間の宿命だ。

 だから私は今、全力で生きていると感じられるのだ。


 ※※※


「楽しかった!」


「私は疲れたわよ……」


「良い勉強になったのは確かだな」


 各々違う感想を残しながら、私達はプラプラと街中を歩き回っていた。

 本日の授業も終わり、ちょっとだけ買い食いでもと思ってミリアとガウルを誘ってみた結果。

 ミリアはあまり金銭的に余裕がないからと渋い顔を浮かべたが、ガウルはパーティ内で友好を深めるのは大事だと言って協力してくれた。

 学園にも食堂はあるし、とてもお安くご飯にありつけるが。

 たまにはジャンクフードというか、露店のご飯とかも食べたくなるというもの。

 これだって街中の醍醐味というか、いろんなものを少しずつ食べるのも悪くないと思うんだ。


「今日の代金は全て俺が出そう。毎回という訳には行かないが、初めてのエスコートだからな。格好を付けさせてくれ、これでも男だ」


「いや、流石に悪いって……こらアリス、奢りって聞いて期待した目を向けるんじゃないの」


「気にするな、貴族なんてモノは使える時には容赦なく使え。それに、大した金額じゃない」


 さっきからずっとそんな会話が聞えて来る。

 お金かぁ、私ももっと貯金とか考えた方が良いのかな。

 武具の類はお婆ちゃんが準備してくれるし、両親からはお小遣いも貰っている。

 そう考えると、かなり恵まれていると言えるのだろう。

 ミリアは本当に自分で稼ぐという方法しかないみたいだし。

 私の場合は魔獣の素材をお婆ちゃんの知り合いのお店に買い取って貰っていたので、あまり金欠になった事が無い。

 それに、皆口を揃えて言うのだ。

 我慢しなくて良いって、もっと欲しがっても良いと言って来るのだ。

 多分、私がいつまで生きられるか分からないから。

 “魔素中毒者”の一生は短いと言われている。

 私の場合は魔女の血の影響なのか、普通の魔素中毒者とは少し違うみたいだが。

 まぁ今から後何年生きられるかなんて考えた所で、分かる筈ないんだけど。

 どうせ生き物は、皆いつかは死ぬのだ。

 気にした所で仕方ないだろう。


「今度の休み、皆で狩りにでも行く? 素材とか売ればお金になるよー」


「またそんな気軽に……普通そういうのは専門家に任せるモノなの。アンタみたいに森で散歩しながら魔獣ぶった切る奴は異常なのよ?」


 そんなお言葉と共に、後ろからチョップを頂いてしまった。

 なははーと笑いながら、何を食べようかと周囲の露店に視線を投げていれば。


「お? エルフ先生が居る」


 良く知ったその人が、私達と同じ様に露店の多い下町をうろついているのを発見した。

 これは……なかなか面白いモノを発見してしまった予感がする。


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