第9話 不安なパーティ


「ぜぃっ!」


「大振り大振り、当たらないよ!」


 入学から、早くも一週間が過ぎた。

 そして私達が今何をしているかと言うと、模擬訓練……というか朝練である。

 あの日声を掛けて来た男子生徒。

 結構な位にある貴族だという話だが、結局は彼の誘いを受ける事にした私達。

 そう、“私達”なのだ。

 思わず、大きなため息が零れる。


「私、アリスと組むなんて言った覚えないんだけどなぁ……」


 思いの他早く始まったパーティ戦の授業。

 はい、クラスの中でパーティ組んでーみたいな。

 そんな軽いノリで始まった話し合いの場。

 それが始まった瞬間、二人は私の前にそびえ立ったのであった。

 一方はだいぶ小っちゃかったが。

 と言う訳で、私達は三人でパーティを組む事になった。

 前衛、アリス。

 得意な魔法属性はいくつもあるモノの、本人が使うのは身体強化系ばかり。

 とにかく物理、頭で考えるより体を動かすタイプ。

 その次、あの日声を掛けて来た男子。

 彼の名は“ガウル”。

 フルネームであればもっと長い筈なのだが、本人は「そんなモノ気にするな」といってガウルとしか名乗っていない。

 そして彼の得意な魔法もまた、身体強化。

 主に前衛として……っておいまて。

 このパーティ、脳筋しかいないぞ。


「あぁもう……はいはい、泥沼泥沼。ついでに水分追加で稲でも植えましょうかねー」


「ぬわぁぁ! 沈むぅぅ!」


「ぐぅぅ!?」


 傍からペイッと魔法を使ってみれば、びっくりするぐらい二人共足を取られる。

 と言うか、沈んでいく。

 大丈夫だろうか、このパーティ。


「ミリア! 無理無理! 助けて!」


「すまない、こうなるとどうする事も……」


「ほんっとに平気なのかな……ウチのチーム」


 思いっ切りため息を溢しながら、私達の訓練は進んでいく。

 コイツ等、私より魔力レベル高い癖に脳筋が過ぎる。

 というか、マジで近接戦しか出来ないのか。

 不安しかないパーティが、爆誕してしまったのであった。


 ※※※


「この様に、自分の適性に合っていない魔法は魔力消費が多くなったり、威力が落ちりと様々だ。しかし、使えない訳ではない。魔法適性が偏っているからと言って努力を怠れば、その分他の者から置いて行かれると覚えておけ」


 黒板の前でスラスラと喋っているエルフ先生の声を聞きながら、半目を開いてうつらうつらと頭を揺らしている馬鹿が一人。

 眠そうだ、それはもう非常に眠そうだ。

 朝の訓練で頑張り過ぎたのか、なんて思ってしまいそうだがそうではない。

 座学の時は、大体こうなのだ。

 あぁ、駄目だ。

 もう頭を支えていられそうにない程ユラユラしてる……。


「ちょ、アリス!?」


 やはり重力に負けてしまったようで、彼女はズガンッと派手な音を立てて机に額を打ち付けてしまった。

 しかし駄目だ、起きない。

 いやあの勢いでぶっ倒れたら起きようよ、痛くないのか?

 慌てて彼女を起こそうとしてみるが、それよりも早くエルフ先生が近寄って来た。

 今まで通りに授業を続けながら、まるでこうなる事が分かっていたかの様に。


「例え自身が苦手とする魔法だとしても、それが状況をひっくり返す一打となる可能性もある。知識は力だ、そして発想力は生きる術に変わる。例えば今しがた寝落ちたこの猫娘、あの勢いで頭をぶつけても起きないと来た。この状況でコイツを起こすには、どうすれば良いと思う? ミリア、答えろ」


「えぇっと……」


 表情を変えぬままこちらに歩いて来た先生が、急にそんな事を言い始めた。

 怒る訳でもなく、睨む訳でもなく。

 静かに私の事を見ている。


「魔法の授業ですから、“アラーム”の魔法を使うと答えたりするのが正解なんでしょうけど……アリスの場合はご飯を用意した方が確実かと思います。コイツ、滅茶苦茶食べるので」


「ふむ、では試してみよう」


 そう言って彼は腰に付いたバッグに手を突っ込み、何かを取り出した。

 それは。


「何故マジックバッグの中から急に串焼きが出て来るんですか先生」


「露店で買ったからだ。時間停止付与が付いているバッグだから、傷んではいない」


「あ、はい」


 真面目な顔で何言ってるんだろうこの人。

 キリッとした雰囲気のエルフが串焼き掴んでいるんだが。

 エルフってこう……違うじゃん。

 小食だったり、お肉食べないみたいなイメージあるじゃん。

 でも、彼は違う様で。

 物凄く肉厚の美味しそうな串焼き肉を、アリスの鼻先に近付けていた。

 エルフがソレで良いのか? とかなんとか呆れた視線を向けていれば。


「うぅん……ご飯?」


 自分で言っておいてなんだが、本当に起きたよ。

 ゆっくりと頭を上げながら、目を擦っているアリスが鼻をスンスンと動かしている。


「この様に発想と知識、そして経験は状況を動かす。なので、覚えておいて損になるモノなどない。皆、それを忘れずに勉学に励む様に。更に言うなら、勉強だけでは戦いの場を制する事は出来ない。何気ない知識、どうでも良いと思える様な記憶。それら全てが役に立つ、いざという瞬間には決定打になったりするものだ」


 そう言って串焼きをアリスに差し出す先生。

 ソレにガブッと食いつくバカ。

 絶対状況が分かっていない猫娘と、無言で餌付けしているエルフ教師。

 何だこの光景、思わず思考が停止してしまうのだが。


「旨いか?」


「うんまい」


「ソレはやる、だから起きて授業を聞け」


「らじゃ!」


 こんなんで良いのか……呆れた視線を隣に向けてから、思いっきりため息を溢した。

 そこには、先生から貰った串焼きをガジガジしているパーティメンバーが一人。

 パーティ……メンバーなんだよなぁ……こんなのが。

 先生は全く気にすることなく歩き去っちゃうし。


「美味しい?」


「うんまい!」


「あっそ……魔法の授業、ちゃんと受けなよ?」


「難しい魔法は、苦手なんだけど……」


 小動物みたいにハグハグ串焼きを齧るアリスに対して、改めて疲れたため息を溢して机に肘を付いた。

 私としては、もう少し魔法方面も伸ばしてほしい所なのだが。

 そんでもって物理しか頭にないメンバー達にも、もう少し魔法の事を学んでほしいと思っている。


「いくら聞いても、なぁんか上手く行かないんだよねぇ……ちゃんと制御出来るまでは、人に使っちゃ駄目ってお婆ちゃんからも言われてるし。余計に自信無くて……あとあんまり体質に合わないと言うか」


「体質に合わないって何よ、適性は多いんだから言い訳すんな。だったら、相手が使いそうな魔法の知識を覚えて体で応用しなさいよ。アンタ動き回るしか出来ないんだから。呪文を聞いて敵の魔法が把握出来たら、事前に対処出来るでしょう?」


「その手があったか!」


 むしろその手しかないんだよなぁ。

 いつまでも魔法が来る度、一発で完封されているのでは話にならない。

 獣相手ならまだしも、人間相手ではあのアホみたいな身体能力しか取り柄が無いのだから。

 いや、初見なら身体能力とあの武器で相当不意を付けそうではあるのだが。

 但しあの馬鹿げた武器を使った瞬間、初手で相手がミンチになるだろうけど。


「ま、頑張んなさいな。少しくらいは役に立ってよ? 尻拭いばっかりとか、嫌だからね? 私はアンタの保護者じゃないのよ?」


「あいさ! 頑張る!」


 串焼きを食べ終わったらしい相棒は、今度ばかりは必死で先生の話す内容をノートに取り始めた。

 よしよし、これで少しは注意される機会も減る事だろう。

 基本的に生徒の成績は加点、減点方式。

 テストの点数やら、実技の評価やら。

 更には普段の行いと授業態度。

 要は全部評価されて、進級できるかどうかが決まるのだ。

 とりあえず一安心してから黒板に視線を戻してみれば。


「げっ」


 このバカと話していたせいで、書かれていた内容を見逃してしまった。

 そしてソレは、今まさに消されていくという事態。

 やってしまった……。


「アンタと関わると、本当にろくなことが無いわ……」


「酷い言いがかりだよソレは!」


「いやどう考えてもアンタのせいでしょうが!」


「そこの二人、うるさいぞ」


 結局、怒られてしまった。

 これだから、ろくなことが無いって言ってんのよ。

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