第4話 鑑定と自己紹介
「本日は初日だからな、授業と言うよりも測定などがメインとなる。これから鑑定道具を配るので、一人一つずつ――」
担任の教師が説明を続けながら、席を回りながらカードと水晶玉みたいな物を配っていく。
“鑑定”。
それは、その人物の情報を文字に起こす技術。
とはいえ事細かに表示される訳ではなく、大まかな情報でしかないという話だが。
簡単に言うと、偽名を使っていないかなどのチェック程度に考えて良いという。
「全員に渡ったな? では宝玉を握りながら、もう片手にカードを。ソレがお前達の学生証になるから、無くすんじゃないぞ」
言われた通りにグッと水晶玉を握ってみれば、もう片手に持ったカードに文字が浮かび上がって来た。
・ミリア
・人族
・魔力レベル 15
・称号 なし
・職業 学生
うん、これだけ?
聞いていた通り、かなりざっくりな内容だった。
本来は大人になって仕事に就く、または商人の子供などはどうしても必要になる為、必要に応じて鑑定を行い身分証として使用される。
平民の間では大体そんな感じだが、国の外の田舎暮らしだった私はコレを初めて見た。
チラリと視線を向けてみれば前の席の貴族たちは特に驚いた様子も無く、もはや自身の学生証を机の上に投げ出している。
身飽きたとばかりに、特に興味を示す事も無く。
後ろからソッと覗き込んでみれば、私と大して変わらない文字の羅列。
しかし、魔力レベルだけは私よりも高かったが。
前の席に座っている数名は18~20という数値。
はぁ、とため息を溢しながら自分の席に座り直してみれば。
「へぇ~色々出て来るかと思ったのに、あんまり面白くないんだね。ねぇねぇ、そっちは何か面白い事書いてあった?」
なんか、隣に座った黒髪少女が馴れ馴れしくこちらのカードを覗き込んで来た。
本当に距離感が近い。
人見知りという言葉と対局にある様な奴だ。
「べ、別に……平民なんて皆こんなもんでしょ」
口ごもりながらも、スッと自分のカードを差し出してみる。
大した情報がある訳でも無いし、見せたって構わないかな? なんて思って渡してしまった訳だが。
「見て良いの? ありがと! そんじゃ私もお返しに」
そう言って彼女は自分のカードをこちらに向かって差し出して来た。
ほんと、何なんだこの子。
ふぅ、とため息を溢しながら彼女のカードに視線を落としてみれば。
思わずギョッと目を見開いてしまった。
・アリス
・人族
・魔力レベル 26
・称号 魔女の孫
・職業 学生
「魔力レベル26!? ていうか称号まである!」
「ん? あぁ~あるねぇ。でもソレ称号って言うより、ただの生い立ちが書いてあるだけな気がするんだけど……」
むぅ、と唇を尖らせる彼女は不服そうな顔を浮かべている。
いやいやいや、コレで何の不満があるというのか。
とうか、まさかコイツ自慢する為に見せて来たんじゃないだろうな?
なんて事を思ってジトッと睨みつけてみれば、彼女は此方の思考など微塵も気付く事無く。
「そんな事より、ミリアって言うんだね! よろしく!」
「あ、はぁ……よろしく」
向こうからは、満面の笑みが返って来た。
腹の中では何を思っているか知らないが、とにかく楽しそうな少女。
何かこの子、調子が狂う。
思わず口元を引きつらせながら乾いた笑みを溢していれば。
「貴女、今言った事は本当ですの?」
急に近くから声が聞こえ、そちらを振り返ってみれば。
「げっ」
「げっ、とはなんですか失礼な。貴族社会なら一発で干されますわよ? せめて顔に出さず嫌いなさいな、それがマナーというモノですわよ」
そこには朝と、更にはついさっき。
庶民だ平民だと馬鹿にして来た二人が立っていた。
学園に入ったからには胸を張れ、とか偉そうに言っていた方が声を掛けて来たが。
なんでこういうヤツ等は、そこら中から湧いて来る訳?
いちいちこっちに絡まずに、貴族連中で仲良くやっていれば良いのに。
とか何とか、嫌悪した瞳を向けていれば。
「凄い髪型ですね! どうやって固定してるんですか? ソレ、針金とか入ってます? なんで崩れないんだろう……」
「ブッ!」
反対側から聞こえた元気な声に、思わず吹き出してしまった。
確かに、彼女が言う様に凄い髪型だ。
綺麗な金髪だとは思うが、毛先が凄くクルクルしているのだ。
ホント、何故崩れないんだろうってくらいにビシッ! と固まっている。
「貴女……名前は?」
「アリスって言います! よろしくお願いしますね!」
こっちもこっちで、ニカッと笑みを浮かべながらカードを差し出している。
誰に対しても態度が変わらないって言うのも凄いが、貴族相手にグイグイ行くのも凄いなぁ……って、ちょっと待った! ソレ私のカード!
「アリス? 名前の欄にはミリアと書いてありますが……」
「あ、ごめん。間違えた」
「ちょっとぉぉ!」
金髪針金お嬢からカードを奪い取り、代わりに隣の彼女のカードを差し出した。
一瞬だけポカンとした表情を浮かべた貴族娘が、次の瞬間にはクスッと小さな笑みを浮かべる。
更には、まさに取り巻きって感じのもう一人が。
「貴女、ミリアさんと言うのね。魔力レベルは15、年相応とはまさにこの事かしら」
クスクスと笑い始める相手に感化されたように、周りからは静かな笑いが漏れ始める。
最悪だ、何で初日からこんな恥をかく結果に……なんて思いながらキッと隣の席を睨んでみれば。
黒髪の彼女は不思議そうに首を傾げていた。
「魔力レベルって、高ければ良いって訳では無くて、ただの魔力総量だって話ですよね? しかも、伸びる人は何かのきっかけで一気に伸びるって聞きますし。どうしても魔力が足りなくなってから気にするくらいで丁度良いって、お婆ちゃんも言ってたしなぁ……むしろ数字が高くても上手く使えなければポンコツ、自慢するだけ恥をかくだけだって聞きましたけど」
何を言っているんだろうコイツは。
確かに彼女の言う通り、魔力レベルが髙ければ全ての能力が高いと言う訳ではない。
強い人が高レベルな事は多いが、確かにレベルが低くても凄い人は居る。
一口に魔力レベルと言っても、人の方向性は様々。
とはいえ実際魔力総量から鑑定結果は出るらしいので……結局は、多くの魔力があると言う事はそれだけ才能があると言う事。
それこそ私よりレベルが10以上高い彼女は、私と比べ才能に満ち溢れているという証明。
総数が多いのならいくらでも、どんな方面にもチャレンジ出来ると言う事に他ならないのだから。
だというのに……。
「随分な事をいうお婆様も居たモノですね? それではほとんどの国民達は魔力レベルを気にしなくて良いと言う事になりますが?」
「実際その通りじゃないですか? 俺はレベルいくつだー! って言ってる人、酔っぱらったおじさんくらいしか見た事ありませんし。職人はこの数字が低くても、普通に良い仕事しますよ?」
「言いますわね、貴女」
フンッと鼻を鳴らしながら、金髪針金娘が彼女の学生証に視線を落とせば。
静かに目を細めて、ふぅんと小さな声を洩らした。
「まさか私と同レベルの方が居るとは思いませんでしたわ」
「あ、ホントですか!? 奇遇ですね! 良かったら仲良くしましょう!」
違う、返し方としてそれは絶対不正解だってソレは。
そんな事を思いながら間に挟まれ、嫌な汗を流していると。
「そろそろ良いか? 同じクラスの仲間として親睦を深めるのは結構だが、話が進まん。席に戻れ、針金娘と取り巻き娘」
「えぇ、今はこれくらいに……って先生、今私の事なんて呼びました?」
「と、取り巻きって言われた……」
「席に戻れと言った、聞こえなかったか? 針金娘、そしてもう片方はそれくらいしか特徴が無いぞ。嫌だったら自己紹介の一つでもしろ、それこそ“マナー”だろうが」
瞬間、ドッとクラス中から笑い声が上がる。
その反応に顔を赤くした金髪針金娘はこちらを睨みつけ。
「覚えてなさいよ! アリスにミリア! 貴女達の名前、覚えましたからね! 私はエターニア、以後よろしくお願いいたしますわ!」
「わ、私は――」
「何度も言わせるな、席に戻れ」
叫んだ金髪針金さん……ではなくエターニアさんはズンズンと席に戻り。
自己紹介を先生によってキャンセルされた取り巻きさんは、悔しそうな顔をしながら自らの席に戻っていく。
ちょっとだけスッキリ。
とはいえ。
「なんで私まで……煽ったのはコイツだけだってのに」
「一緒に頑張ろうね!」
「私、貴女の事嫌いだわ……」
はぁ、と大きなため息を溢してみれば。
相も変わらず元気なちびっ子は満面の笑みを溢していた。
「そこの二人も、いい加減静かにしろ」
などとやっていれば、教師から私達まで注意されてしまった。
あぁもうホント、嫌だ。
ハズレクラスだ、こんなの。
「よろしくね、ミリア」
小声で喋りながら微笑んでくる隣の席のソイツに、思いっきり顔を顰める。
「うっさい、馬鹿アリス」
鬱陶しい隣人に、ヒラヒラと手を振りながら憂鬱な気分で正面に向き直るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます