第2話「紫吹さん」


 私はひとりぼっちです。


「紫吹! 紫吹はいるか!」

「は、はぃ!」


 名前を呼ばれるのは学校の出欠確認くらいで、友達に名前を呼ばれたことなんて全然ない。

 むしろ『友達』というものができた経験すらない。

 だから、名前さえも呼ばれたこと無いクラスメイトを勝手に『友達』と呼ぶ自分が

おこがましいのではないかと思ってしまう。

 それが『紫吹』という人間だ。


 そんな性格の所為で、私は人と仲良くする方法が分からず、中学生まで典型的なひとりぼっちの日常を過ごしてきました。



 ですが――



「わ、私も今日から高校生……です!」


 中学の時は友達と呼べる人がひとりもできなかったけど、高校生になった私は違います!


「予習と対策は、ばばばば、バッチです!」


 この日のために、最近流行っている漫画やアニメからラノベまで、私は沢山調べてきました。


「大丈夫、私……最強ですから!」キリリンッ!


 そう! 全てはこの日のために……です!

 友達になるために必要なのは『共通の話題』だと、なんか頭の良さそうな人が動画で言ってました! だから、私はとにかく流行っている物を片っ端から広く浅く調べてどんな人とでも趣味の話ができるように勉強したのです!


「ひとりでもいいから、友達できるかな……うへへ♪」




 そして、夢にまで見た私の女子高生活は――




「紫吹さん!」

「は、はぃ!」

「ねぇ、良かったお昼一緒に食べない?」

「わたしさいきょうでしゅから! だだ、だ、だいじょびです!」



 これが高校生、最初で最後のクラスメイトとの会話でした。



 結局、高校生になっても、私はひとりぼっちだ……。

 私が夢見ていた『高校生活』はただ退屈なだけでの拷問のような日々……休み時間になるとクラスメイト達は友達同士で話し出すけど、私にはその相手がいない。


 でも、私はそんな……ひとりぼっちの自分を誰かに見られるのが嫌でした。


 だから、休み時間は常に小説を読むようにした。

 小説と言っても入学前に買った流行りのラノベだっただけど、それにブックカバーをして一見ただの文学少女を演じて、地獄のような休み時間をやり過ごしていた。


 最初はそんな理由で読み始めたラノベだったけど、私はそんな高校生活を続けているうちにラノベが好きになっていました。


 特に好きだったのは、ひとりぼっちの女の子が友達を沢山作る学園物語だった。


 現実の私はこんなダメな人間だけど、ラノベの主人公は私みたいな性格の女の子でも最終的に『友達』を見つけて素敵な学園生活を過ごしていた。


「私もこんな友達が欲しい……」


 私はそんな物語の主人公に自分を重ねて、この女の子みたいな青春を過ごしたいと思った。

 中でもお気に入りだったのは――


「ぼっち・ざ・すてっぷ……?」


 それは、私が高校生の時に初めて自分で選んで買ったライトノベルだった。

 最初は書店で新作の中にあったのを偶然見つけたのが出会ったきっかけだったと思う。

 何故か……その作品が目にとまった。

 もしかしたら、表紙の女の子がなんとなく私自身に似ていたからかもしれない。

 それとも、ひとりぼっちの女の子が二千年後の未来からやって来た少女と出会って、一緒に過去と自分を変える学園物語という内容に惹かれたからかもしれない。


「私も……変わりたい」


 気付けば長い地獄のような高校生も終わり私は大学生になろうとしていた。

高校では失敗したけど、まだ私には大学がある。


「明日から大学生です……」


 残された学園生活はこれが最後だった。

 そう、最後の青春……



「ひとりでもいいから、友達できるかな……うへへ♪」




 そして、夢にまで見た私の大学生活は――




 





「ひとりも友達できませんでした……」



 何も変わりませんでした……。



 結論から言うと、ひとりぼっちの私が大学生になっても、私はひとりぼっちのままでした。


 ちょっと、高校から離れた大学に進学したせいで同じ高校の知り合いもいないし、トホホです……。



「でも、この大学は近くにアニゲーブックスが素敵です!」



 アニゲーブックスは最近できた大型オタク専門書店で、書籍だけでなく、アニメグッズやイベントカフェとかもあるサブカルチャーに特化したお店です。


 正直、これが理由でここの大学を選んだところもあったりします。


「ラノベが充実している……うへへ♪」


 もちろんその中には私が大好きな『ぼっち・ざ・すてっぷ』の新刊もありました!


 今日はこの新刊を買いに大学の帰りにここに来たんですから――


「「あ……」」


「す、すみません!」

「いや、こっちこそ」


 ――っと、思ったら隣の人と手がぶつかってしまいました。

 どうやら、この人も同じラノベの新刊を手に取ろうとしていたみたいです。


「すすす、すみましぇん! ど、どうぞ……」

「いや、俺このラノベ持っているから……大丈夫」


「……え」



 でも、この人も私と同じラノベを取ろうとしていた……よね?



「何で、大丈夫なんですか?」

「そ、それは……」


 その時、私は思いました。



 この人は仲間なんだと!




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