「青騎士(Blaue Reiter)」(その3)
「健の字は俺が探す。それと一発ぶちかましてくる」
「友人を傷つけられた怒りは最もだが… その感情は足を掬われるぞ。
「それはぶちかました後にする。でなけりゃ収まらねえ」
極彩色の異空間に突如姿を現わした黒糸縅の甲冑武者、仮初の戦闘形態となった
「どのみち、あの階層防御を突破するには、エマク・バキアをどうにかしないとな…」
健の字、海藤健輝が監禁されている異空間は、十重二十重の異空間の階層防御が施されている。無理やり突破すれば、奪還はおろか自分の帰還すらも覚束なくなる。
「あら、こんな時に考え事?」
すかさず斬り込んでくる
「危ねぇ、油断してるとコレだ… まったく忙しない!」
この二体、完全第一次幻想の
それも能力強化を施した二人を相手にすることは大分難儀する。周囲の安全を気にかけて戦えるほどの余裕はない。
「この連携、肌を重ねてる同士ってのなら納得だな」
「あら、愛の力と言ってほしいわね。ねぇ、尚美?」
「ああ、それとこないだのは帳消しにしてないからね?」
「マァ何だ。それにしたって、また侵入されるとは不用心じゃねぇかな?」
「ふふ、逆だよ。空けておいたんだ。ハニーポットってやつだよ」
「何だと?」
「その通り。尚美のお陰で貴方がどの次元から現出したのか丸っと御見通し」
全く頭を掻くしかない事態、侵入の検体検知にまんまと引っかかった。斯波に啖呵を切ったのはG.F.O本部の局長室、頭に血が上っていた。どうやら、あの堅物冷血漢の言うことも一回くらいは聞くものだと自嘲する。
「さて、どうする?」
「ああ、そんなら次はお前の蜜壺を試させてもらおうかな」
「このクソオス… 殺すぞ」
それを逃すものかと
この一瞬で半身で躱しつつ、胴の隙を狙って河上は左手の一本突きを繰り出そうとしたが、右側面から強い衝撃を受けた。
「何!?」
何事かと眼をやると、
もろに散弾を浴びた左腕は大太刀もろとも千切れ落ち、両脚も打ち抜かれているのが判った。体勢を崩して倒れたところに、容赦なく散弾が降り注いでくる。
「これじゃ、再生が追い付かねぇ…」
自分の再生能力に関しては前の接触で学習したと見える。単純だが休みなく攻撃を与え続けることで、その暇を与えない。真っ黒なコールタールのような液体をまき散らしながら、只管に耐える他はなかった。
散弾の雨あられが止むと、二人がこちらを見下ろしている。
「さっきは大層な名乗り口上だったけれど、これで御終いかしら?」
「馬鹿野郎… まだ始まっちゃいねえよ」
河上の一言に、
「上に乗られるのはお好きかしら?!」
馬乗りになった
「そんなに声を上げなくてもいいわ。優しくするから…」
辛うじて動く右手でその鉤爪を押し返そうとしても、びくともしない。それどころか刺し貫かれてしまった。
一方で
「環那、もう止めな」
「あら、今からが良いところだったのに」
そういってゆっくりと立ち上がった姿、黒い血に濡れた姿が
「ああ、そうだ… 死んでなけりゃ最後に一つだけ聞いておこうかな」
本体が見えず、尚且つこれだけの攻撃を受けても死ぬ気配を見せない。斯波禎一の奥の手というが、どうもこの主従は謎が多すぎる。
「お前や斯波は、人間でも
「さっき言ったが風来坊… いや、恒点観測員三四〇号ってことにしておこうか」
「ああ、そう。お前がムカつくやつだってのは判ったよ」
そう小原が言い捨てると、
「何、今のは…」
これには
そして浮遊していたエマク・バキアの半透明のボディが砕け散ると同時に、亀裂だらけとなった極彩色の異空間は消滅してしまった。
「嘘だろ… 異空間を破壊するなんて」
「尚美! 何か来るわ!?」
果てしない真っ黒な異空間の先に、一条の光が見えた。
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