「青騎士(Blaue Reiter)」(その2)
現在、G.F.O本部では局長の
この連中はバックヤードでありながら「なんのこれしき」という根性で仕事に臨んでおり、有事対応怯むどころか益々元気になるという面白い性格の職人集団だった。
そして監視班および解析班には、
「事案発生後、一切の通信記録なし… またあの空間に」
前回は異空間展開の瞬断を狙って彼の端末へアクセスしたが、向こうで端末が破壊されたと見るのが妥当だろう。無論、監禁の実行者も長々と留まっているはずもなく、全てのポートが閉鎖されているようなものだった。
ルシールは自分の力が及ばなかったことが赦せない様子だが、同じく「
「ルシール、我々の任務を完遂しましょう」
「ええ、でもね…」
「斯波局長に失望されるのが怖い?」
「そんなんじゃないわよ」
悲し気なルシールの表情は見ていて可愛い上に、少し虐めるのは楽しいのだ。だが、今はそんな性癖を出している場合ではないとナンシーは気持を入れ替える。
「行きて汝のなすことをなせ、昔から言うでしょ?」
それはある聖人が、去って行くはみ出し者あるいは裏切り者にかけた言葉ではないかとルシールは思ったが、今はその通りだと思う。
「そうね。
「あら、流石ルシールね。やっぱり仕事が早い」
海藤の捜索をしている最中に本土からの出張者たち、警察や自衛隊の情報部隊の通信が活発になっていることをルシールは見逃していなかった。
そしてアナログ情報の操作、解析に特化したナンシーなどは、出張してきている公安連中の御家芸、手書きのやり取りは、扶桑に来てから収集を開始しておりアーカイブしている。
G.F.Oと政府の各機関は連携していても、各々の組織が一枚岩で
「これだから男ってのは…」
「ね?」
「ね? じゃないわよ。それと何よその顔」
ルシールは、ナンシーの妙な表情と視線が気になる。まるで「私は知っているんだ」という謎の確信に満ちた眼差しだ。さっきの真面目な空気はどこにいったというのだ。
「大丈夫よ。私、判ってるから」
「だから何を?!」
そんなやり取りをしている二人に、監視班の青島から映像通話が入った。
「文香、もしかして終わったのかしら?」
「はい! 現地映像のノイズ除去完了、各班の報告内容と一致しています」
共有された映像にはハッキリと
こちらは随分と女性的なフォルムをしており、透明のボディから見える金色の金属骨格が美しく、さながら見た目は美術品のようであったが、散弾を射出しながら哨戒機を蹂躙していく様子はそれに反比例したような荒々しさだった。
「攻撃手段から、DALIを破壊したのはこちらね」
「とんでもない攻撃力ですね… 新手の
「新たな入居者は募集してないから、同居人かしら」
ナンシーはそう言いながら、彼女の能力で取得した記憶の
「ところで、いつの間に現地調査を?」
「学校、生徒会宛てに文化祭の写真を一枚寄贈したのよ」
ルシールはなるほどと思った。連中がその写真を見ているとき、写真の中からナンシーもこの現場を見ていたということだ。
その
「彼女は
「
空間を操作する
「でも、能力には何らかの制限がある様に見えます」
「文香の言う通りね。でなければ最初から本部を狙うはずよ」
瞬間移動なら目的地の座標情報、あるいは必要なエネルギー充填だろうか。ならば学園都市「扶桑」の内部に位置するこのG.F.O本部を特定できなかったことは合点がいく。成程、第一波でこちらの戦力を削ぎつつ、生かした人員たちの動きを観察しているのだろう。
そして第二波の準備は完了しつつあった。
黒木環那こと
「尚美、そっちはどう?」
「ああ、今なら第七艦隊にだってかちこめるよ」
一方で小原尚美もまた
「さて、問題は本丸の位置だけど…」
「ええ、そろそろ見つかるわ」
「ああ、そいつは良かった」
聞き覚えのある声に二人が振り向くと、やはりあの時の黒糸縅の甲冑武者が居た。それも頬杖をついてゴロリと寝転んでいる。面頬と兜の隙間からは、相変わらず空っぽの中身が見えた。
「ものはついでで何だが… 俺も友達を探しているんだ。何か知らないかい?」
そう言ってひょいと起き上がったと同時に、小原が
「こいつはとんだご挨拶…」
おいおいという調子で二人を眺めつつ、彼は身の丈ほどもある大太刀を空間から出現させた。どうやら本気だと二人は理解した。そして
「そういえば貴方の名前を聞いてなかったわね?」
「ああ、名前か…」
甲冑武者は
「通りすがりの風来坊… 稼業駆け出しの未熟者ですが万事万端よろしくお願いなんして、ざっくばらんにお頼み申します」
そう名乗りを上げると同時に大太刀が鞘走り、
「毎度の仁義、御苦労さんです。それではざっくばらんに参りましょう」
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