第11話「ひとりにしてくれ(Emak Bakia)」

「ひとりにしてくれ(Emak Bakia)」(その1)

 「何か変だよな…」


 これも仄かに光る双子グリマー・ツインズたちの狙いなのかと海藤は考えていた。


 ルシール・オックスブラッドとナンシー・フェルジから共有された間借人LODGERの分類では「未分化アンノウン」とカテゴライズされていた三人と、立て続けに接触したのだ。


 総合文化祭が終わった翌日、先ずは大楠時存だいなんときひろという戦国大名のような名前の生徒に呼び出された。個人宛のショートメッセージであり、なおかつ夜分。

 

 これは過去の美堂敬介の一件を考えれば「そういうこと」だろうと相応の覚悟と共に面会した。


 しかし、その実際は「文化祭の展示活動における会計帳簿の記載不備」を期日までに再計算の上で是正と提出の指導を受けて終わった。余談だが、この不備はすべて河上が「万事抜かりなく」と豪語した箇所だ。河上がつかまらなかったため、呼び出された。

 

 昨日は昨日で波多野實臣はたのさねおみという公家のような名前の生徒と名画座で隣席となった。


 館内はガラガラにも関わらず近寄って来たので、暗がりに密室という状況から「この距離で仕掛けてくるとしたら自動作用オートマティズムか?」と最大限警戒したが、波多野は自分のポップコーンと間違えて海藤のを半分も平らげるという別の意味で圧倒してきた。

 これにはたまらず、映画が終わってから声をかけたが「ああ、ごめん。道理でキャラメルにしては塩っぽいと思った」と本当に公家のように鷹揚な調子で謝罪と弁償に応じた。


 そして今、現在進行形で高等部工業科二年生の村田永敏むらたながとしという接触者と学食で相席となっている。彼はネギ抜きのかけそばに七味を山みたいに振って、ささっと手繰ると、急いで立ち去ってしまった。


 彼の能力が何か予想もできなかったが、随分とせっかちな性格なのはよく判った。


 「間借人LODGERの接触者なら、僕の正体を知らない… ってことはないんだけどな?」


 一日を終えた海藤は自室でくつろぎつつ、そんなふうに考えていた。


 これまで接触した連中は、自分を「光の男マン・レイ」と認識して仕掛けてきている。ところが例の三人にはまるっきり敵意がないどころか、一種の無関心のようでもあった。


 「知らないというより、切り取られているというのが正しいかも」


 何となく観測しているネットワークのトラフィックが瞬間的に増加したと思ったら案の定だった。海藤が「その声は」と言う前に、ルシールとナンシーが例の情報通信網を使った瞬間移動で姿を現した。


 「ええと… お茶でも淹れますか?」

 「お気遣いなく。ここ数日の三人の動きから、ちょっとね」

 「ルシールの言う通り。そして三人が真面目に週報を提出してたから助かったわ」


 そこでナンシーは自分の能力であるアナログ媒体からの情報と記憶の抽出、それをまとめた映像ヴィジョンを海藤に見せた。

 すると、例の三人たちの記憶から仄かに光る双子グリマー・ツインズに関する部分がフィルムのコマ落ちのように消えているではないか。


 この接触から間借人LODGERとしての能力を発現していることを考えれば、授かった能力も切り取られているのが伺える。まさかディレクターズカット版にでも収録する訳ではないだろうと海藤は考えた。


 「戦力を分散の上で秘匿、よほど追い詰められているってことでしょうか?」

 「そうね。若しくは裏で何かしているか… いずれにせよ貴方の身辺警護は必須よ」

 「そこでナンシーの御高説の間に、端末からDALIの遠隔起動と呼出可能にしておいたわ」

 

 ルシールの一言に彼女は「もう!」という様子だったが、海藤の携帯端末にいつの間にか見知らぬアプリケーションが追加されていた。


 認証は音声と光彩を用いるシンプルなものだが、電子情報の異能を持つ彼女の謹製と言うことならば、おそらくコーディングを解析することは無論、不正な第三者利用も不可能だろう。


 「前の四体は追加兵装搭載で既に配備済み、夜間は光学迷彩を展開して自律起動で周囲警戒を実施… 追加の個体も展開予定よ」

 「な、何と言えばいいのか… ありがとうございます」

 「ところでルシール、一つ聞きたいんだけど」

 「どうして貴女がここで質問するのよ?」

 「これ、一体お幾ら?」

 「一応、戦車よりは若干安いとだけ言っておくわ」


 そんな代物をポンと用意手配できるG.F.Oと局長である斯波禎一しばさだかずの経済力というか人脈には驚かざるを得ない。


 「あらあら、本物のダリと同じくドルの亡者Avida Dollarsに改名したほうがいいんじゃない?」

  

 ナンシーの一言とルシールの反応に、これは笑っていいのかどうなのか判断に困ってしまう海藤であった。

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