「蛇使いの女(La charmeuse de Serpents)」その4
潜在意識の中で目を覚ました海藤の前に、
「一応、はじめまして…ということでいいのかな?」
この双子が十年もの間どこへ姿を隠していたのか、それは人の潜在意識の中を行き来することを考えれば、どうやら双子は人の意識や記憶の中に存在ないし移動することができるのではないかと想像できる。
「その通り。でも、私たちの目的も、正体も… あの男から聞いているわね?」
「学長からの説明とか、割と真面目に聞く性格だからね」
そして、双子がいうようにこの外次元の生命体、
「あの男の為に熱心に働いているようだけど、それももう終わり。今ここで手を引くなら…」
「助けてあげるっていうつもりかもしれないけど… そうはいかないんだよ」
彼らがもつ能力に関しては現在の人類にこの能力と共存するだけの度量がない。過ぎたるは猶及ばざるが如しという言葉と共に、斯波が語っていたのを思い出すが、海藤もまたそう思う。
「
そこに先ほどの人の意識の中に存在・移動できるという新たな能力を加えれば、
これだけの能力を人間の意志で管理することは不可能だ。
この能力の独占を巡り国家間の争奪が始まれば、間違いなく過去の紛争と同等以上の惨劇が世界規模で発生、この性急な進化の前段階として有史以来の「退化と断絶」の時代を迎えることは避けられない。
「ところで僕も、ここらで君たちが撤収するっていうのを提案したいんだけど、どうかな?」
「うふふ。この潜在意識の世界では、そんな強がりが限度というところね」
「悔しいけど、御名答…」
どのみち、ここでは能力を使えない。その上にもうじきその能力が消失する。その時が
「
「全てのものの王? 何だいそれは…?」
「
双子の声はさらに断片的となり音も掠れてきて聞き取れず、海藤の意識は暗転した。終わりの時が来たように思えたその一方で、双子の目の前に広がったのはあの光だった。
「まさか…!そんな!?」
ここでは見えるはずもない、
双子は直ぐにこれが、自分たちが「
「なんとういうことを… しかし、あの男ならやりかねないこと」
「随分とお早い帰着ですが、いったいどちらへ?」
「お見舞いですよ。監視班、海藤君の生体データはどうなっている?」
ルシールの問いかけも余所に、斯波は自分の仕事の首尾を確認していた。
彼と相棒が用いた「記憶の固執」は正常に作用し、複数の凍結された
この様子は斯波が「記憶の固執」の起動を確認するために
「やはり、あの
斯波もまた、別の
まさか、この背景を監視班やルシールに説明することはなかったが、その成果は傍目にも明らかな形になって表れていた。
「全て数値が急変… 好転しております。しかし、これは一体…」
監視班の
「ルシール女史、
「万事解決のようですね」
ルシールも自分の能力で医療班からのデータを逆解析したが、現地で海藤の身体に何が起きたのか解明することはできなかった。
斯波がこの海上学園都市で実現できないことはないが、
「ところで、一体どんな魔法を使われたのですか?」
「魔法と言うほどのことではありませんが、待ってはいられなかった。そう、私はせっかちなんです。ただそれだけですよ」
当然、海藤はこの斯波による支援を知る由もなかった。やかましい河上のお見舞いの後、無事に退院して寮の自室に戻った。しかし気になることは、あの双子が語った「
「次の定期報告で確かめてみるか」
確かめる機会は、目下作成している報告書を提出する時だろう。斯波のことだから、まだまだ自分の知らないことがある。それは確かなのだが、これまで共有しなかったということは、相当に秘匿レベルの高い内容になるのだろうか。
「それに、例の先輩も何とかしないと…」
今回の騒動の発端となった
これならば、大人しく病院で寝ていた方が良かったかもしれない。海藤は、全く忙しない連休になってしまったと思い天井を眺めていると、来訪者の通知が携帯端末に表示されている。さてはまた隣人の
「あれ、
あの奇妙な芸術家の訪問に、海藤は何事かと思うのだった。
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