主人公だけをチート持ちにしたくない

僕は、主人公だけが特別なチートを持っているようなお話が、あまり好みじゃないみたいです。その面白さも、需要も理解はしています。


ただ単純な好みの話です。


ただ、チート能力を持って調子に乗っていた主人公が、己の能力でも解決できない事態に直面して、愕然とする展開は好き。


チートスキルだけで乗り越えられない壁、倒せない敵、解決できない事件、なんでもいいんです。そういう展開があると、僕はいいなあと思います。


しかし、基本的にはそういう展開はネット小説の読者には好まれにくいそうです。フィクションでまで、そういう壁に挫けたくないという意見をよく耳にします。結構、投影して読むタイプの人が多いんですかね。


僕はゲームでも小説でも、主人公の背後霊になるスタイルで楽しむから、主人公がくじけても自分自身はあまり世知辛さを感じないところがあります。背後霊としてやいのやいの言いながら楽しむんですよ。


そんな僕ですが、最近、自分が今書いているファンタジー小説二作について色々考えたんです。


PVの遷移を見ると、主人公が負けたり曇ったりするところで読むの辞めてる人が多い印象があります。


『ロストエンブリオ~滅びの世界で魔女生活~』

『追放されたい新米冒険者と魔物娘の冒険録~溢れよわが冒険心、と魔王は言った~』


この二つが、現在僕が書いているファンタジー小説です。前者はもう50万文字以上、後者も8万文字くらいは公開しています。


前者の主人公ノエルは、冒頭で悪魔と契約して魔法が放てるようになります。感情の力で魔法を放つという設定があり、感情が強烈なほど魔法を使うリスクが増える代わりに強くなるという感じです。


二章では悪魔そのものになり、三章では魔法を使うことによるリスクが無くなります。


現在六章を書いているところですが、神に等しい存在にまでなりました。


普通に考えればチート級です。


ただ、ノエルは結構苦戦します。


これは意図的にやったことですが、ノエルが一人で敵と戦って勝つという展開がほとんどありません。一人で戦い苦戦して逃げ帰る、もしくは仲間が後から来て助けてくれるという展開が多いです。


そうして仲間の力を得て、一緒に敵を倒すという感じ。


それに、現在公開範囲の最新話あたりでは、悪魔でも魔族でも神に近い存在でもない普通の人間に苦戦しています。敵の戦闘センスが高いのと、敵が使う異世界の武器(近代兵器やSF兵器)が強いのが理由です。


敵の強さも、実は二章で戦う敵が今のところ、能力的には一番強い。


戦いには相性がありますし、能力があっても経験不足やセンスなどによっては活かしきれないということがあります。ノエルは能力は強いけど、敵は経験が豊富だったりセンスがあったり、単純に相性が悪かったりというのが多いんですよ。


そのうえ、神に等しい力を持つ存在、あの世界、割といます。


だから、ノエルだけが特別ではありません。



後者の追放されたい新米冒険者~のほうも、「相対的な強さ」というのにこだわって設定しています。


ロストエンブリオ本編完結後の別世界の話で、魔法の設定など諸々が異なり、スキルというゲーム的要素が追加されました。


魔法は悪魔とその契約者にしか使えないものではなく、誰でも使えるけど一人一種類のみになりましたし、感情で放つものでもなくなっています。


スキルは固有で、スキルレベルは一生固定。成長しないとされています。


主人公の魔法は草。ドレインフラワーという魔物化した植物の茨を呼び出す魔法と、アルラウネという人型魔物を生み出す魔法が使えます。


ただ、アルラウネの方は生み出した後の責任云々もあり、基本使いません。茨だけみたいなものです。


スキルは、能力倍加レベル1。自身の身体能力と魔法の力を1.5倍に高めてくれます。


現実的に考えると言うほどクソ雑魚ではないんですが、あの世界には割とチート級のスキルを持つ人がいるので、相対的に見たら弱いです。


仲間のアルラウネのルネの祝福というスキルにより、周囲の味方の能力が3倍になる。それと掛け合わせて4.5倍になってようやく、人並みより少し強いくらいです。


戦闘を重視した作品ではないためか、最初のうちはチンピラとばかり戦ってますが、現在公開範囲の最新話付近では神の鳥と戦いました。


短時間で封印しないと死んでしまうような敵です。


こういう感じの設定をするから、僕の書くバトル有りの作品は、主人公が苦戦しがちになります。


なぜそういう設定にするのかというと、苦戦しないバトルに僕が面白さを感じられないためです。どうせ主人公が勝つんだろうとわかってはいても、ハラハラは欲しいと思うんですよね。


負けは死を意味する世界だから、主人公が勝つというのはある種予定調和です。主人公交代をしたり、実は別の人が主人公だったという展開をしたりしない限りは。


その予定調和にドキドキハラハラを感じるために、苦戦は必要だと僕は思っています。


曇らせも同様。


全部が全部順風満帆なのは、面白いと感じられないんですよね。


※あくまで個人の考えです。


努力なしでチート能力を得て成り上がるとか、無双するとか、そういうのが求められていることはわかります。そういう作品の面白さも、理解しているつもりです。爽快感がありますからね。


ただ、僕はやっぱりカタルシスによる爽快感が好きなんだと思います。ストレスをためて、そこから開放されたときに感じる強烈な爽快感が欲しい。


だから主人公を曇らせたいし、苦戦させたい。


また、世界で一番と言えるほどの強大な力を持ったらバッドエンドになる未来しか思い描けないという、僕の価値観の問題もありますかね。


悪い人たちに利用されそうになるだろうし、世界を救った後は怖がられるだろうし……。


僕は道中散々苦労して、悲しんで、辛くて、だけど最後はハッピーというのが好きだから、道中無双して爽快に活躍しても最後はバッドになりそうな設定を作れないというのがありますね。


ロストエンブリオも、最初はどうあがいてもメリーバッドエンドにしかならず苦戦してたんです。ハッピーエンドにするために必須だったのが、「主人公より強い人は何人かいるけど世界を救うのは主人公」という設定だったんですよ。


これが無いと、何をどう考えてもあの世界で、ノエルは幸せになれない気がしたんです。


という、書いているとキリがなくなりそうな話でした。


チート持ちがダメというよりも、主人公だけが特別な能力を持っているというのが苦手という話です。


読むのも、書くのも。

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