第四話 この人、後にヤバくなります
草壁の真意はわからないまま、日々は過ぎていった。
そんなある昼休み。
「三田って自分の腋毛見たりするか?」
「するか! だから飯時に気持ち悪い話すんな!」
「あ、あの……すいません」
「……ん?」
俺がいつもの様に教室で三田と気持ち悪い話兼もう反応してくれない草壁への無意味な牽制をしていると、割り込んでくる声があった。
顔を上げて、目をやる。女子が立っていた。
小柄で地味な雰囲気という第一印象。話したことはないが見覚えはある。
「あ、たしか最初に委員会に立候補した女子だ」
まだ草壁が腋毛人間とわかる前、委員会の件で完璧感を出してた全盛期、草壁の説得に最初に反応して恐る恐る手を挙げていた人がいた。
そいつが今、話しかけてきている。
「は、はい。等々力と言います。副委員長です」
「等々力さんも俺みたいに草壁さんに憧れて手を挙げたのか?」
三田が馴れ馴れしく話しかけている。勢いある距離の詰め方だ。俺も追ってつっこみを入れる。
「みんなお前と一緒だと思うなよ」
「い、いえ、その……」
等々力はおどおどしている。毎回言葉に詰まっていて、俯きながら短い前髪で目を隠して話している。気弱な第一印象がそのままって感じだ。話が進まなそうなので、俺から尋ねる。
「等々力、なにか用か?」
「は、はい、その、今週末にクラスの懇親会をやるんですけど……といってもみんなでファミレスに行くだけですが」
「そんなのあるのか」
「お前まだ返事してなかったのかよ」
三田に呆れられるが、心外だ。そんな話、今初めて聞いた。
「その、無藤さん、クラスのラインに入ってないので……それで、意志を聞きにきたんです」
「悪いな。俺、電話とかメールとか嫌いなんだ。予想してないのに急に通知が来るのって、スナイパーに狙撃されてる感じがしないか?」
「しねえよ。そんな物騒な話じゃないから」
「あ、そ、それ、ちょっとわかります」
意外にも明るい声が帰ってきた。
「え、等々力さん、わかるの?」
「通知が来るとうわってなっちゃいますけど、でも、誰にも狙撃されないと、それはそれで悲しいんですよね」
少し目を輝かせて早口で語る等々力に、俺は言う。
「いや狙撃はされなくていいだろ。比喩が成立してない」
「そ、そうですね」
気まずい空気になった。同意しといたほうが良かったようだ。
「そ、それで無藤さん、クラス会参加されますか?」
俺は返事を考えながら、ちらっと草壁を見る。
相変わらず澄ました顔で完璧を装っている。体面を保つなら、クラス会も当然参加するだろう。チャンスがあるかもしれない。
「ああ、楽しみにしてる」
俺は獲物を狙うスナイパーのように、微笑んだ。
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