第2話猫の貴族
「目が覚めたかにゃ、子ども」
ザラザラしたものに頬を撫でられて目が覚めた。
寝起きのぼんやりした頭で目をあけると、黒いもふもふの毛布があった。
寝心地良さそうだ。
僕は毛布に抱きついて顔を埋めた。ふわふわで癒やされる。
「父にゃんに、にゃにするんにゃ!」
横から突進して来たものが僕を押し倒したので、僕は仰向けに転がった。お腹の上にひとかかえほどの毛玉があった。
ぬいぐるみか?
すべすべで、これもさわり心地がいい。僕は手で毛玉を抱きかかえてガシガシ撫でた。モヘアのセーターでもさわっているようにサラサラで心地良いい。
「離にゃせ」
毛玉が叫んだ。
なでていた手の甲にピリッと痛みが走った。
「痛てて」
あわてて毛玉を放り出した。
ぼんやりしていた脳が痛みですっかり目覚めた。
僕はクッションのような柔らかいものに埋まっていて、横には背中を弓なりに丸め、尻尾を逆立てている毛玉がいた。
「猫か?」
僕は小さい体で精一杯威嚇している生き物を見た。
薄茶色の小さな体で、可愛い耳の生えている頭だけ帽子を被っているように黒かった。
「キキ、ツメを出してはダメにゃと言ってるのにゃ」
黒い毛布と思っていたものが声を発した。
「だって、父にゃん、コイツがガシガシって」
「キキ、あやまるんにゃ」
「うにゃ、ごめんにゃ」
キキと呼ばれた子猫は、少しふてくされたようにそっぽを向いた。
「血が出てにゃいか」
毛布はおそらく、キキの父親だったのだろう。
見上げると、背丈は僕の倍以上はありそうなほど大きくて、ついさわりたくなるようなもこもこの生き物がいた。
顔は猫そのものだったが、革のブーツをはいた後脚で立ち、頭には羽根飾りつきの帽子を被っていた。
「我輩はあやしい者ではにゃい。ただの通りすがりのケット・シーにゃ」
腹の底から響くような声で話しかけてきた。
「ケット・シー? ケット・シーってまさか、あの?」
僕は本で読んだことのある妖精の名前を聞いて驚いた。
「にゃにかわからんが、妖精族のケット・シーにゃ」
「猫の貴族って呼ばれてるんだにゃ」
キキが得意そうに父親にすりよった。
「はあ、すみません。驚いちゃって。妖精族に会うの初めてなもんで」
「かまわにゃい。楽に話にゃしてくれ」
「もしかして、僕を助けてくれたのが、あなたですか」
「そうにゃ。いつもなら気にせず通り過ぎるところにゃったんだが。キキと同じ色をした人間だったから、つい、助けてしまったのにゃ」
「父にゃん、こいつとボクと同じ色って何にゃ」
キキは不満そうに僕を見上げた。
「薄茶色の体で頭だけ黒いにゃ」
「ええ、そんにゃ。コイツと似てるにゃんて嫌にゃ」
キキは父親のお腹に頭をグイグイ押しつけた。
「あはは」
僕はおかしくなって吹き出してしまった。
確かに、僕は異世界人保護所のテリィに用意してもらった薄茶色の服を着ていた。見比べてみると、キキの毛皮と似ていると言えなくもない。
それに黒髪の短髪だ。旅の途中に自分で切った髪は不格好で、ちょっど短くなりすぎていた。
「あの時、馬に蹴られて死んでいてもおかしくなかったです。危ないところでした。助けていただき、ありがとうございました」
僕はていねいに頭を下げた。
「いやいや、気紛れにゃ」
ケット・シーのロロさん(名前が長いため略称)は照れくさそうに笑った。
猫も笑うんだ! 僕は内心驚いたが、ただの猫ではなく妖精だからと思い直して勝手に納得した。
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