尻愛好家



「僕のお尻、好きなんだ」


友人が真顔でアイスコーヒーを勢いよく飲んでる。

『言わんこっちゃない』という顔。


「なんのことかな」

棒読み台詞。トボける事にした。

棒読みはさっきからだから、誤魔化せるだろう。


「変態って、僕好きだよ?」

告られた?

友人を盗み見。

小さく首を振ってる。

『告り』ではないのか…。難しいな。


では、コレは鎌をかけられてる?

ザックリやられちゃうヤツ?

友人がこっそり親指が立ってる。

合ってるらしい。


「自意識過剰。君のお尻は魅惑的ではない」

どうだ!


「残念イケメンだね。やっぱり変態か」

「尻愛好家だ」

「公にするのかよぉ〜」

友人が横でため息混じりで呟いてる。


「んー、御門みかどくん顔いいから、友達からでよろしく」

間近でこの尻を愛でられるのか?!

嬉しい…じんわり湧き上がる嬉しさよ!


目の前の美尻くんが顔を強張らせて両手を突き出して来た。


「その顔、やばいからッ」

両手で顔をベチっと覆われた。地味に痛い。

美青年の掌は柔らかい。

「ヤバいっしょ? いいヤツなんだけど」


友人が横で何か言ってるが、反論したくても押さえ込まれてて発言できん。

何やらキャッキャと二人が盛り上がってる。


尻もこんな感じで柔らかいのだろうか。

齧っていいか?


「ヤバい事考えてるだろ? やめろよ?」

手が退けられた。

友人が美尻の腕を持っている。

お前が退けてくれたのか。


「考えてない。齧るか舐めるか考えてただけだ」

「開示し過ぎぃ」

友人が仰け反ってる。

美青年の顔が引き攣ってる。

顔のいいヤツはどんな表情も似合いやがる。


「尻は齧り付いてない」

「それはあかんヤツ。見るだけにしなさい。それからこっそりね」

りょう

りょ

短いやりとりに目を丸くした宮野みやのが私たちを交互に見てる。


友人にアイスティーを勧められて飲んでる。

無言で飲む。

三人で、無言で、飲む。

……。


「行こうか」

いつも様に友人が時計を確認して声をかける。

無言で荷物片手に席を立つ。


「ありがとうございました」

ウェイターが回収にきた。

「ごちそうさま」

尻を盗み見して、カフェテラスを後にした。


「前を歩いてくれないか?」

「真顔でおねだりかよぉ〜」

「え? ええ?? こ、こう?」

美尻を視界に収めて歩く。


いい日だ…。



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