20 陰謀は重層する >> DEEP-LAID PLOT ①
──こんなはずではなかった。
元々、簡単な任務のはずだったのだ。
生徒会長トレイシー=ピースヘイヴンが矢面に出て注目を奪っている間に、目下一番の障害である
可能であれば、
これを以て、生徒会最大の敵である『オオカミシブキ』を機能不全にする。
その点で、透明になれる
蓋を開けてみれば、完璧なタイミングでの奇襲は土壇場で防御されてしまった。
そもそも、アレがケチのつき始めだ。
なんだ? 足音が聞こえたとは。
目の前に最大の敵がいるにも拘らず何故そんなに注意深く周辺を警戒できるんだ?
メイドという言葉では説明がつかないだろう流石に。
それでも咄嗟の機転で生徒会権限を使い、校内放送をジャックして音の弱点を潰し、
しかし、あのメイドと来たら即座に対応して地面にスプーンやらフォークやらをバラ撒く始末。
お陰で
「
横から、先ほど戻ってきたトレイシー=ピースヘイヴンが退屈そうに
──生徒会所有の準備室。
「……会長が
「はっはっは、冗談はよしてくれ
私が勇み足を踏もうものなら、ヤツは嬉々として私と接触するか……あるいはその隙に君を叩きに来るだろうね」
「…………!」
「何より、あのメイドのことだ。ご主人様をダシに使えば、キレて手が付けられなくなると思うよ?」
そんな忠誠心があるようには見えなかったが──と
それより問題は、目の前で繰り広げられている戦闘だ。
画面内の戦況は、完全に硬直している。戦闘メイドは目に見えない敵を見つけ出すことができていなかった。
(……いくら俺のシキガミクスが遠隔操作の使役型とはいえ、此処まで決め手に欠けるものかね!?
いや……それはない。今までの校内での戦闘だってもう少しうまくことを運べていた。あのメイドがイレギュラーなんだ……!)
──
電球のように膨れ上がった頭部を合わせて体長は一・五メートル程度で、少し小さめの成人男性くらいの体躯はある。
格闘能力はそこまで高くないが、それでも決して非力というほどではない。
シキガミクスの頑丈さと併せて、頭部に一撃入れれば人間であればあっさり昏倒する程度の攻撃力はある。
にも拘らず、
たとえ絶好のタイミングで不意を打てたとしても──その状態から防御される。そんなイメージがこびりついて離れないのだ。
(そして……一撃で倒すことができなければ、待っているのはカウンターからの即死!)
いくら自分がピースヘイヴンの庇護を受けているからといって、絶対的な安全が約束されているとは限らない。
現にピースヘイヴンはこうして敵対勢力から襲撃をかけられている。つまり計画自体が失敗する可能性は全然ありうるし──
それに失敗しなかったとしても、早期にリタイヤした
そしてそうなれば、庇護を失った
(だが……やるしかない! このまま戦況が硬直し続ければ、おそらく今フリーになっている
いや、それだけじゃない……。痺れを切らした
内心の不安を推し殺し、
彼もまた、転生者。
学園全体が崩壊しかねないような陰謀を企てる生徒会長に付き従う以上──彼もそれなりに、世界の現状に対して『諦め』と『妥協』を積み重ねている。
たとえば──
(
トレイシー=ピースヘイヴンの思い描く世界。
そこに用意された席に着くことで、確実に滅亡する現在の社会から逃れる為のノアの箱舟へのチケットを手に入れる、とか。
「そうだ、
と。
ノアの箱舟の造物主──戦況を脇から見ていたピースヘイヴンが、軽い調子で声をかける。
ただし。
「前々から思っていたんだけどね……君の霊能、こういう使い方もできるとは思わないかね?」
当人がどれだけ軽いつもりで発した言葉でも。
圧倒的な力を持つ者の言葉は──その知識で、その発想で、何かを致命的に変えてしまうこともあるのだが。
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