14 世界を諦めた者 >> CREATER "A" ②
離れたところで戦闘メイドの『ご奉仕』を見守っていた
ただし。
「わっ、もう倒せましたの
「まだだ。アイツは倒さない」
「という訳で。此処から先は、優雅な逃走劇の始まりだ」
受け答えもそこそこに、言うだけ言って
二人の腹のあたりを肩で支えて、お尻を前方に向けさせ、後ろ腰を手で抑えて担ぐ形である。
必然、その体勢はお嬢様的に──というか少女的にも『美しくない』。
「きゃああああ!?
「文句があるなら自力で体勢変えるんだな。
「今動こうものなら落っこちちゃいますわよぉぉおおおおおおおお!!」
肩の上では阿鼻叫喚の様相を呈していたが、
メイドらしからぬ全力疾走で早々に『メガセンチピード』を撒いた
少々の沈黙が続いた。
真っ先に口を開いたのは、ギャアギャア騒いでいた
「……なんでわたしを庇った?」
俯きがちにしながら、
「わたしは……わたしはオマエのことを襲ったのに。せっかく差し伸べてくれた手を払ったのに。
シキガミクスだって今は壊れてて、利用価値もないんだぞ。まさかそんなことを一切気にしない底抜けのお人好しって訳でもあるまいし……!」
「あァ……、似たようなモンだが」
混乱の坩堝の中で藻掻くような
そして、それ以上語る言葉は持たないとばかりに口を噤み、顎でしゃくって隣の
説明を引き継ぐように、
「……
「え? いや……」
「『プリズムプリンセス』。わたくしが子どもの頃にやっていたアニメでしてよ。
……そのメインキャラの一人……『
「意地悪で、口うるさくて、ちょっと捻くれてて……最初はなんて酷い子なんだって思ってましたけど、本当はとても心優しくて、そして誇り高くて……。
そんなカッコイイ彼女に、子どもの頃のわたくしは憧れていましたの。まぁ、前世はだからどうというわけでもなくサクッと死んでしまったのですが」
綺麗な憧れを持っていたからといって、それだけで何かが変わる訳ではない。
憧れを胸に行動を起こさなければ、胸の中にしまっていた輝きは表に出ることなく、そのまま埋没していってしまう。
だからこそ、と
「今世こそは、彼女を理想にして生きてみたいのです。色々と思うようにいかなかった前世ですけれど、今度こそは、あの人のように気高く心優しく生きてみたい、と。
……というわけなので! わたくしは自分の目指す自分に見合う行動をしているだけですので、べつに深い理由とかはなくってよ!」
少しだけ照れくさそうに最後の方は語調を張り上げると、
ただ、
独力で『メガセンチピード』を叩き潰し、二人の非戦闘員を抱えて余裕をもって逃走が可能な
一度折れてしまった
冷え切った
単なる綺麗事ならば、こうは響かなかった。
安全圏から告げられる理想論ならば、受け入れられなかった。
実際に身の危険に晒され、己の無力を噛み締めてもなお理想を諦めず、そして誰かに手を伸ばすことが──この世界で、どれほど難しいことか。
それを向けてもらえることが、どれほど救いになることか。
かつて仲間に裏切られた
「…………ありが、と」
気付けば、
『仲間』に裏切られた時に、涸れ果てたと思っていた涙だった。
「たすけてくれて……ありがとー……!!」
「……いいんですのよ。……というか、結局助けたのは
「あ?
ふいに話を振られた
二人の優しさに、
◆ ◆ ◆
ややあって。
涙を拭った
「ところで……オマエ、何だったんだ、アレ?」
その頭部には、何度見てもアイスピックが突き刺さっていた。戦闘中、虚空に突然現れたアイスピックが。
だが、あの現象は何度考えてもおかしい。
このメイドの『シキガミクス』の霊能は『身体の精密操作』のはずだ。
ナイフの軌道を精密に調節したのも、蹴りでアイスピックを精密に突き刺したのも、この霊能があってのこと。
あの常人離れした挙動は、そういうことでないと説明がつかないはず。
だが、だとするとアイスピックを突然虚空に出現させた現象の理屈が分からない。
霊能は、一人につき一つ。
それを拡張運用している『シキガミクス』だって、一機につき一つまでしか能力を持つことができない。
『身体の精密操作』が霊能の正体ならば、扱える霊能はそれ一つだけというのが揺るぎない
「オマエの霊能は、肉体の精密操作なんじゃなかったのか……?」
「いや、それは単なるメイドの嗜みだ」
なお、
「いや、嗜みってレベルじゃなかっただろーが!?」
「まァまァ落ち着け。人体は意外と限界を知らねェんだから」
憤慨する
出来ちゃってるんだからしょうがないのだ。
そうしてひと心地ついた
「そもそも、おかしいとは思わなかったか?」
つまりは、己の霊能の秘密──その根幹についての情報を。
「最初の戦闘。
部室で目を離した隙にお茶会の準備が整っていたのは?
『メガセンチピード』との戦闘の時にいつの間にかデッキブラシを取り出したのは?」
「…………、」
言われてみれば、確かにおかしな点は幾つもあった。
状況に翻弄されていた
──いや、
「
たとえば、掃除の為のデッキブラシを取り出したり。
たとえば、調理の為のナイフやアイスピックを取り出したり。
たとえば、接客の為のティーセットや紅茶、お茶菓子を取り出したり。
それらを総じて、『女中道具』。
これを自在に取り出すのが、このコスプレメイドの持つ霊能である。
「つまるところ、『
「ま、まー……」
得意げに言う危険メイドに、
『
メイドに結び付けるにはあまりにも物騒すぎる語彙だが、しかしこのメイドらしい名ではあった。
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