12 ご奉仕の時間 >> FIRST ORDER ④

「うあ、ああ……」



 そして、その絡繰り仕立ての大百足に襲われているのは──青髪の少女。

 冷的さまとだった。


 何のことはない。

 流知ルシルを襲ったところを他の生徒に見られていて、通報を受けて捕まったといったところだろう。

 これ自体は、何も間違っていない。

 冷的さまと流知ルシルのことを襲ったのは事実だし、色々と事情があったにせよ、その行いを正当化することはできない。


 その上で。



「あ、ああ~! 生徒会の方! 誤解ですわ! 誤解! ! !」



 流知ルシルは一寸の迷いもなく『メガセンチピード』まで駆け寄り、そしてその取り締まりを止めに入った。

 身の丈と比較するのも馬鹿らしくなるくらい巨大な百足ロボに対し、流知ルシルは引き攣った笑みを浮かべながらも見上げ、



「いやぁ、お手数おかけして申し訳ありませんわ。ちょっと熱が入りすぎたせいで誤解を生んでしまいましたのね。今度からは気を付けますので、どうかこの場は……」


「な、何言ってるんだぞ、オマエ……。わたしはオマエのこと……」


「わーわー! 勘違いされてしまうようなこと言わないでくださいまし!」



 何事かを言いかけた冷的さまとの口を慌てて抑え、流知ルシルは囁くように言う。



「……ごめんなさい。アナタの事情、後から師匠に……嵐殿らしでんさんに聞きましたの。知らなかったとはいえ……辛いことを思い出させてしまいましたわね」



 でも、と流知ルシルは言う。



「それでもやっぱり、わたくしはアナタのことを放ってはおけませんわ。だって、アナタが苦しんでいるって知ってしまったから」



 そんな理由で。

 それだけの理由で、流知ルシルは笑いかける。

 先ほどまで一方的に追い掛け回され、命からがら逃げていたはずの相手に対して。


 彼女の瞳を真っ直ぐに見据えて、もう一度手を差し伸べる。



「だから……『仲間』じゃなくたって良い。助けられたなんて思わなくて良い。今はただ、のワガママに付き合って」


「……オマエ…………」


「──流知ルシルお嬢様。お話し中のとこ悪いが、向こうはそれじゃあ納得してくれねェようだぞ」



 と。

 流知ルシル冷的さまとの手を取ったところで、いつの間にか流知ルシルの前方に立っていた薫織かおりが声をかける。

 見ると、二人のやりとりを見ていた『メガセンチピード』がギギギ、と不気味な音を立てて二人に向かって上体を持ち上げているところだった。



『……警告。違反生徒取り締まり中の干渉は一般生徒には認められていません。退避しない場合は、妨害行為として取り締まり対象と見做します』


「え、ええぇ!? 今の流れはわたくしの度量に免じて冷的さまとさんのことを許してあげる感じではありませんの!?」


「それを自分で言えちゃうトコが、お前の良いところだよ。お嬢様アホバカ



 慌てふためく一般お嬢様を背にして、メイドが戦闘態勢に入る。

 臨戦態勢の獣の唸り声じみて低い声色で、薫織かおりは続けて、 



「そもそも襲撃のタイミングが良すぎると思わなかったのか? 襲撃犯がオレ達から離れた直後に『生徒会』勢力の襲撃を受けるとかよ。

 ……向こうも、こっちの性格キャラくらいは把握している。最初から、どうせ取り締まりなんかに決まってるだろうが!」



 『メガセンチピード』が、その巨体全体をまるで大きな鞭のように振り下ろす。


 対する薫織かおりは、どこから取り出したのか、いつの間にか手に持っていたデッキブラシを両手で振り回すと、振り下ろされた『メガセンチピード』の機体側面に思い切り叩きつけた。



 ゴッガァァァン!!!! と。


 まるで重機か何かの駆動音かと錯覚するほどの凄絶な轟音が、『ウラノツカサ』の廊下に響き渡る。

 衝突の衝撃で軌道をズラされた『メガセンチピード』の一撃は、薫織かおりから逸れる形で廊下にめり込んでいた。

 ──当然、その背後にいる二人にも、危害は加わらない。


 あっさりと脅威を退けた戦闘メイドは、何でもないように背後に守る自分の主人に呼びかける。



「一応言っておくが」



 パズルのピースを一つひとつ集めるような調子で、薫織かおりは言葉を紡いでいく。



「そいつはお嬢様を襲った下手人で、守る理由なんか何一つねェ。

 そもそも、これから『生徒会』と一戦構えるってんだ。そいつを見捨てて陽動に使った方が、多分オレ達の目的はスムーズにこなせるだろう。

 むしろ、そいつを庇えばオレ達は大っぴらに『生徒会』と敵対することになる。校則違反だのなんだのと理由をつけられて、追われる身になるのは間違いねェ。

 …………その上で、聞くぞ」



 まるで、主人の意を問う従者のように。

 あるいは、協力を申し出る友人のように。



流知ルシルは、これからどうしたい?」



 だから、流知ルシルは迷わず答えた。



「決まっていますわ。。それを悪用して不当に冷的さまとさんを攻撃しようとするのなら……『生徒会』とて許せなくてよ!

 ……わたくしは、守りたい! 薫織かおり、お願い! 冷的さまとさんを救って差し上げて!」


「────仰せのままに、お嬢様」



 したがって、薫織かおりもまた迷わず応じる。

 今日一番に楽しそうな──それでいて猛獣のように好戦的な笑みを浮かべて、不良気味のコスプレメイドは宣言した。



「それじゃあ、『ご奉仕』の時間だ!!」

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