09 ご奉仕の時間 >> FIRST ORDER ①
「……それで」
カチャリ、と。
木製のスクールチェアに腰かけた
学習机、のはずだった。
『はずだった』というのは、その天板には真っ白いテーブルクロスが敷かれており、学習机の要素は傍から見たらテーブルクロスから伸びるパイプの足しかないという意味だが──
「なんなんだよ、この状況っ!?」
傍でしれっと給仕をしているコスプレメイドだけが、我関せずとばかりにテキパキ働いていた。
──現在地、ライトノベルイラストレーション研究部・部室。
『立ち話もなんだから~』という
『イラストレーション』研究部と銘打たれている割には、五台ほどの木製パソコンと木製プリンタがあるだけの殺風景な室内には、明らかに場違いなヴィクトリア朝的エッセンスの装飾が散りばめられていた。
まぁそれは十中八九このガラの悪いメイドの趣向なのだが、問題はそこではない。
「このテーブルクロスとかっ、ティーカップとかっ! さっきまでなかったんだぞ!? どっから出てきたのこれ!?」
「それはちょっとそのへんから」
「収納上手かっ!?」
当然ながら、部室にはお茶会セットがしまえるような収納スペースはない。
なおも食い下がる
しかもちょっと目を離した隙に、テーブルの上にはなんともおいしそうなお茶菓子が配置されていた。無駄に完璧な仕事であった。
──
「……さて、話を戻そう。『生徒会長』がデマの出どころってことは、
「もぐ。いや、わたしに『生徒会』の知り合いはいないぞ。
わたしに『霊威簒奪』の情報を……聞かせたヤツは確信を持って断言してたけど、『生徒会』かどーかは……正直……」
給仕は一人だけ部屋の隅に佇みながら、あえてそこには触れず、話を逸らすように言う。
「にしても、まさかデマの出所が生徒会長本人とはな。確かな情報なのか? それ」
「ええ。複数の生徒会役員からの証言を入手済みよ~」
──元々、『生徒会』という組織はただのモブに過ぎなかった。
『シキガミクス・レヴォリューション』において、基本的に勢力争いは『部活』単位で行われていた。
例外は、あらゆる部活勢力に与しない『主人公』達くらいのものだった。
さらに作中で陰謀を張り巡らせるのも生徒ではなく教師が主となっているという事情もあり、『原作』でも委員会や生徒会といった『学校主導の生徒組織』の名前が出てくることはほぼない。
精々、サブキャラクターの設定に組み込まれている程度だ。
『生徒会』もそんな程度の組織だったはずなのだが──転生者が溢れたこの世界においては、『ウラノツカサ』でも最大の生徒組織ということになっていた。
そしてその長が、トレイシー=ピースヘイヴン。
──当然ながら、この名前が『原作』に登場したということも一度たりとも存在していない。
「…………本当の本当に、会長は原作者なのか?」
ピースヘイヴンが『原作者』というのは、転生者の間では有名な話だった。
というのも、本人が原作者であることを吹聴しており、そして実際にそうとしか思えないほどに卓抜した陰陽術の腕前を持っているのだ。
『原作』に関する情報が、『生徒会』を出どころに広まっている。
であれば、そこに『原作者』かつ『生徒会長』であるピースヘイヴンが関わっていないという方が不自然だろう。
「間違いなく、トレイシー=ピースヘイヴンの正体は虎刺看酔ねぇ。むか~し、本人と直接話したことがあるから。これは確実よ~」
顔色を伺うように問いかけた
その答えを聞いて、
無理もない。
本来であれば最も信頼できる情報源であるはずの原作者が率先してデマ情報の流布に関わっているとあれば、最早検証していない『裏設定』の情報など何も信用できなくなってしまう。
──いいや、それだけではない。
『原作者』がデマを流布しているという事実。これも、考えてみればかなり深刻な情報だった。
明らかに原作者自身が転生者に向けて『悪意』を以て混乱を齎そうと動いているのである。
ただでさえ絶望的な情勢なのに、さらに希望が失われたような気分になるのも、仕方がない。
「……ま、アレもアレでまだこの世界のことを諦めてはいないはずだけど……。
でも、なーんでよりによって自分の作品についてのデマ情報なんて流すのかしらね~」
「……問題は、『生徒会』から流れたデマのせいでウチの
まだ連休前だっていうのに、
クッキーをつまんだ
「
もしそうなれば、当然学園はバラバラになってしまうだろう。今まさに割られたクッキーのように。
「ヒエ…………」
至極殺伐とした
もしそうなれば、もう世界滅亡の危機を阻止するどころの話ではない。
『原作』が本格開始する時系列に到達する前に生徒の暴動で学園が本格的な無法地帯になり、いよいよこの世はどうにかなってしまうだろう。
メイドは不安そうにしている
「気にすんなよ。別に無策って訳でもねェんだ。それに、策が
「わたくしだけじゃ困りますのよ!」
「……、……まァ、そりゃそうだけどな」
気軽そうに言う
一連のやりとりに含まれた文脈を知らない
「そうですわ! 無事に
わたくし達としても仲間が増えるのは大歓迎ですし!」
そう、朗らかに提案した。
「ああ、ご心配なさらずに。
実はわたくしの──」
「遠慮しておくよ」
そこで。
ぽつりと、しかし断ち切るような鋭さで、
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